運賃大幅引き上げ狙うJR 定期をなくし通勤客に負担増
週刊『前進』04頁(3157号02面02)(2020/08/24)
運賃大幅引き上げ狙うJR
定期をなくし通勤客に負担増
(写真 小池百合子東京都知事は、「満員電車をなくす」ことを「公約」に掲げた。そのための手段は、運賃を大幅に引き上げることだった)
「休業」「帰休」はやがては解雇に
コロナ危機下でJRは各社とも大幅な赤字を出している。JR東日本の2020年4〜6月期の決算では、純損益は1553億円の赤字になった。コロナ感染症が拡大した3月以降、JR東日本は社債の発行や銀行借り入れなどで7750億円を調達した。今後も4〜6月期と同程度の赤字が続くとすれば、調達した資金は1年余りで使い尽くす計算だ。返す当てのない借金はいつまでも続けられない。
JR西日本も767億円、JR東海も726億円の赤字になった。その中でJR西日本は1万8250人の労働者を対象に一時帰休を行っている。JR東日本も、「事業の都合で休業を命じることがある」という条項を新設するための就業規則の改悪に着手した。一時帰休や休業の先にあるのは解雇だ。JRの労働運動は、こうした攻撃と対決する局面に入った。
満員電車なくすために運賃増?!
JRは大幅な運賃引き上げをたくらんでいる。JR東日本社長の深沢祐二は、記者会見で「利用客が多い時間帯と少ない時間帯で運賃が変動する仕組み」を検討していると述べた。JR西日本社長の長谷川一明も同様の意向を示している。「時間帯によって運賃が変動する仕組み」とは、ラッシュ時間帯の運賃を大幅に引き上げるということだ。そのための口実として、JRは「コロナ感染防止のための混雑緩和」を掲げる。「ラッシュ時の運賃を上げれば、列車に乗ることをやめる人や、別の時間帯の列車を選ぶ人が出てくるから、混雑は緩和するはずだ」とJRは言う。
だが、JRはコロナ対策など本気で考えてはいない。かつてない大赤字に陥る中で、どんな口実であれ運賃を引き上げたいのだ。
時間帯別運賃という発想は、JR東日本を辞職して交通関係コンサルタント会社「ライトレール」を設立した阿部等という人物が、08年に出版した﹃満員電車がなくなる日﹄という本で展開している。その中身は、「ラッシュ時間帯の運賃を上げれば、電車に乗ることをあきらめる人が出てくるから、電車は空く」というものだ。「貧乏人は電車に乗るな」と言わんばかりの主張だ。阿部はさらに「企業は労働者に通勤手当を支払うべきではない」とまで唱えた。「通勤手当の支給で労働者が実質的に負担する運賃はゼロになるから、運賃を上げても電車に乗るのをあきらめようとせず、混雑は解消されない」というのが、その理屈だ。
当時のJR経営陣は、こんな主張には見向きもしなかった。小池百合子だけがこれに飛びつき、16年の東京都知事就任時に「満員電車をなくす」と豪語した。だが、その「公約」は実現不可能で、「満員電車ゼロ」は言葉だけのパフォーマンスにとどまっていた。
しかし、コロナで通勤客は大幅に減った。朝の通勤時間帯の山手線の乗客は、コロナ前の約6割だ。小池はこれを、テレワークや時間差出勤の拡大を訴えてきた自分の成果であるかのように描くが、冗談ではない。通勤客の減少は、膨大な数の労働者が解雇され休業に追い込まれたことによるものと見るべきだ。
分割・民営化の破産を示す事態
JRも「テレワークで通勤という行為がなくなるから、割引率の高い定期券の制度はもう必要ない」として、運賃を引き上げようとしている。だが、社会に必要な労働であればあるほど、テレワークには置き換えられない。定期券が廃止されれば、通勤を必要とする労働者の負担増は極めて大きなものになる。他方、テレワークを口実に通勤手当を廃止する企業もある。国鉄分割・民営化に際して、「国鉄は経営効率が悪く運賃が高いから改革が必要」と盛んに宣伝された。JR北海道や四国、九州は運賃引き上げに追い込まれたが、本州のJR3社にとっては、運賃を上げないことが「分割・民営化成功」の証しだった。だが今度は、「運賃は安すぎる」という転倒した宣伝がなされ、JRは通勤客という名の労働者から収奪することで延命しようとしている。
これは分割・民営化が破産したことを示している。JR体制は倒すべきだ。