書評 青年・学生の意識に切り込み『資本論』と現代をつなぐ書 白井聡『武器としての資本論』
週刊『前進』02頁(3147号02面04)(2020/07/09)
書評
青年・学生の意識に切り込み『資本論』と現代をつなぐ書
白井聡『武器としての資本論』
『未完のレーニン』などの著作で知られる政治学者・白井聡氏(京都精華大学専任講師)の新刊『武器としての資本論』を読んだ。この中で、1960年代に始まったテレビドラマ・映画の「男はつらいよ」(渥美清主演、山田洋次原作・監督)を題材にした話が展開される。「寅さん」シリーズとして知られるこの人気作を、私の父親もよくレンタルして見ていた。「寅さん」と『資本論』に何の関係があるのかと思ったが、読んでみて、これは日本階級闘争の重要な課題を提起していると感じた。
著者によると、現代の視聴者、特に若者には、この映画の面白さが「わからない」、むしろ「嫌い」であるという。「寅さん」シリーズは、戦後の日本社会、その階級格差の中でもがく寅さんとその家族の姿、そして彼らの労働者階級への「誇り」が描かれている。これがかつては大きく人気を博した。しかし、「いつからか『階級』についての日本人の意識が変化」し、その前提としたものが消えたために「わからなくなった」のだという。むしろ新自由主義の中でなんとか這(は)い上がろうとする学生・青年は、寅さんがとる行動が「わからない」「嫌い」だという。
著者はそこにもう一つ踏み込んで、こうした現象を「資本による『包摂』の深化」の問題だとする。新自由主義のもとでは、「人間存在の全体、思考や感性までもが資本のもとへと包摂されるようになる」。新自由主義の全面的な展開の中で、大きく学生・青年の意識も戦後一般の感覚とは全く変化している。
このような学生・青年の意識の変化についての著者の言及はかなり鋭い。新自由主義の中で生まれ育ち、またその中で人格を形成してきた世代が見ている現代社会と、学生運動・労働運動が一般的であり階級意識がそれなりにある人が見ている現代社会は同じだが、前提としている内容が違うということだ。
私は、ここに日本階級闘争、そして青年・学生の党をつくるための重要な課題があると思う。新自由主義以後、社会総体が「上」から変革される中で、青年・学生の明確な意識変化があり、活動家や共産主義者ほどこうした意識が新自由主義経済や政治、またそれによる具体的現象と密接に結びついていることを敏感に意識しなければならない。そうしたリアルな学生と青年に接近して、あるがままに捉えて、イデオロギー討論で一つひとつ意識をひっくり返していく必要があるということだ。
この本は全体として、マルクスの『資本論』の本質的な部分をおさえ、そのうえで新自由主義下で生きる学生・青年層が資本主義社会をいかに把握するのか、という課題に果敢に挑戦している。それは、この世代の学生と長らく大学の『資本論』講義を通じて向き合ってきた著者だからできた内容なのだろう。こうした内容が、14講もの「『資本論』のキモ」を据えて展開されている。
そういう意味では、この本は『資本論』の入門書としてもかなり重要だ。『資本論』を逐条的に説明するだけの本とは性格を異にする。私自身も、多くの学生とマルクス主義の議論や学習会をしてきたが、今までなかなか相手の意識とかみ合う形で説明できなかった内容が、この本では見事に説明されていると感じる場面が多い。本書は『資本論』と現代をつなげる重要な点を多く提起している。
多くの学生が『資本論』を手にとるべき時代に入っている。われわれも多くの学生に向かって『資本論』の核心的内容を提起し、学生・青年が生きている資本主義社会の現実を理解するための武器として『資本論』を復権しなければならない。『資本論』を学生・青年の手に取り戻し、資本主義社会の革命的変革を勝ち取ろう! 本書はその一助となるだろう。
(全学連・N)