安倍の延命と検察権力強化許すな 黒川の検事長定年延長と辞任 検察庁法改正問題が示すもの 〈寄稿〉弁護士 武内更一

週刊『前進』02頁(3141号02面01)(2020/06/18)


安倍の延命と検察権力強化許すな
 黒川の検事長定年延長と辞任
 検察庁法改正問題が示すもの
 〈寄稿〉弁護士 武内更一

 安倍政権は検察庁法改正案の今国会での成立を断念したが攻防は続いている。憲法と人権の日弁連をめざす会代表の武内更一弁護士から、この問題の本質を明らかにする寄稿を頂いたので紹介します。(編集局)

黒川弘務検事長の定年延長は違法!

 安倍政権は、1月31日、翌2月8日に63歳に達し、検察庁法22条により定年退職することになっていた黒川弘務東京高検検事長(当時)の定年を6か月延長する閣議決定を行った。検察官の定年については、検察庁法22条で、検事総長は65歳に達した時、その他の検察官は63歳に達した時に定年退官すると規定し、定年延長の規定は無い。この閣議決定は、法令上の根拠のないものであり、違法であり、政府は国会での追及に無理な釈明を繰り返していた。

内閣による検察の支配強化狙う法案

 3月13日、政府は、検察庁法改正案を潜り込ませた国家公務員法等改正案を国会に上程した。悪名高い一括法案である。そしてそこに、検察官の定年を一律65歳とすること、次長検事と検事長は63歳になったら検事に格下げすること(役職定年)のほかに、内閣が必要があると判断したら1年間まではその官職を続けさせてよいという「特例規定」を付け足したのだった。
 これには、1月に内閣が行った黒川についての違法な「定年延長」を居直り、何としても黒川を検事総長に据えようとする狙いがあるのは明らかだった。
 そればかりか、この改正がなされれば、今後は内閣が堂々と検察幹部の定年を左右でき、検察に対して事実上の影響力を強め、内閣の独裁的権力が一層拡大することは必至であった。
 昨年10月30日、河井克行法務大臣が、妻で参議院議員の河井案里の公選法違反疑惑のために辞任し、12月25日には、元内閣府IR担当副大臣の秋元司議員が収賄事件で東京地検に逮捕、起訴されるに至った。さらに年を越えた1月、河井元法相自身が公選法違反に関与していた疑いにより立件される可能性が高まり、安倍政権の危機はこれまでになく深まっていた。
 黒川の無法な定年延長は、政府の意向に従う黒川を検事総長に就任させ、安倍政権の断末魔の危機の中で、政権に近い政治家の摘発や、安倍自身のモリカケ・サクラやそれ以上の「犯罪」の摘発を封じようとしたのである。

人民の怒りの声が安倍を追い詰めた

 このような検察庁法改正案に対しては、全国53の弁護士会すべてが反対する旨の会長声明を発し、SNS上でも、反対し政府に抗議するメッセージが約1千万件にものぼり、マスメディアや各分野の著名人からも反対する声が続出した。内閣支持率も一挙に30%台にまで落ち、政府は今国会成立を断念せざるを得なくなった。人民の生活や命をないがしろにする一方で、政権の延命と自己の支援者たちの利益を図ることにばかり励んできた安倍政権に対する、積もり積もった人民の怒りが安倍を追い詰めたのである。

検察の本質は人民に敵対する存在だ

 検察は行政機関として刑事事件を捜査、起訴し、裁判所の判決を得て、死刑、懲役・禁錮刑等の刑罰による威嚇(いかく)をもって国家の人民に対する支配を貫徹する実力機構である。日本の検察権力は、戦前、治安維持法体制のもとで、国家に対する人民の闘いを、警察、裁判所と一体となって弾圧、封殺してきた歴史があり、戦後もその体質は変わることなく、公安検察として権力をふるっている。政治家や高級官僚ないし「上級国民」の事件の処理における姿勢、一般刑事でも、憲法、刑訴法の原則に反する実務の横行など、日本の検察が「適正公平」であったとは到底言えない。
 松尾邦弘元検事総長を始め多くの検察OBから、検察庁法改正に反対する意見が相次ぎ、「日本の刑事司法は適正公平という基本理念を失って崩壊することになりかねない」というのがその主たる理由だったが、それは人民をあざむく偽装以外の何物でもない。 
 安倍政権による検察の幹部人事への支配・介入は、そのような検察権力をも内閣の統制下に置き内閣の独裁を一層強固にしようとするものである。しかしそれは、検察が人民に敵対するものでしかないことをむき出しにし、人民の検察に対する幻想は消え去る。検察OBらが改正法案に反対した理由はここにしかない。ちなみに、松尾元検事総長は、法務官僚のトップである法務事務次官の時に、司法を権力的に強化する「司法改革」を主導し、人民を司法に動員する「裁判員制度」を具現化させた人物であって、決して刑事司法の「適正公平」を追求してきた者ではないのである。
 メディアや弁護士の中にも、検察OBらの行動を賛美するような言説が散見されるが、まったく見当違いである。

黒川個人の問題にせず安倍を倒そう

 その後黒川は、5月の連休中に新聞記者らと賭けマージャンを行っていたことが露見し「検事長」を辞任したが、検察は、一部の「不埒(ふらち)な検察官」を捨て駒にして検察権力を維持し一層強化しようとしている。黒川は、2010年の証拠改ざん事件に発した「検察改革」を逆手にとって法務省に設置された「検察の在り方検討会議」の事務局を担い、警察盗聴の拡大、司法取引、証人隠し、さらに「取り調べの録音録画」による自白の証拠化などの「新たな武器」を警察と検察に与えた。その後任として東京高検検事長に就任し、次期検事総長候補となった林真琴は、法務省刑事局長の時、共謀罪法案の成立に向けて最前線で指揮をとった人物である。
 検察庁法改正断念と黒川辞任で、安倍の責任追及と検察権力への警戒を緩めてはならない。

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