AI(人工知能)の問題点 国際競争での完敗にあがき デジタル化で大合理化狙う

週刊『前進』02頁(3137号02面03)(2020/06/04)


AI(人工知能)の問題点
 国際競争での完敗にあがき
 デジタル化で大合理化狙う

(写真 カリフォルニア州フレズノ市警察の「リアルタイム犯罪センター」。ビデオ映像とAIによる情報収集を結合。このようなシステムがミネソタ州で5月25日に起こった警察官による黒人男性殺害につながっている)

 AI(人工知能)という言葉が「前進」紙上でも多く見受けられるようになってきた。日帝・安倍政権はコロナ危機に乗じて、テレワークだ、IT化だと騒ぎ立て、それがコロナ危機克服の決定打だと言わんばかりである。そしてIT化の基幹技術がAIであると主張し、その突破口として5月27日に「スーパーシティ法」の成立を強行した。
 では、これほど社会的に話題のAIとは一体何か。それは一言で言えば、経済面で米帝、中国との争闘戦に完敗した日帝が焦りに満ちて労働者階級を犠牲に、「全社会のデジタル化」と称する一大合理化で延命・復活を図ろうとするものであり、「AIの前に労働者は太刀打ちできない」という敗北感を植え付けようとするイデオロギー攻撃だ。
 だがAIなるものは、けっして万能の道具などではない。しかもAI技術で圧倒的に立ち遅れている日帝に勝算などまったくない。AIの弱点を見抜き、大合理化攻撃を打ち破ろう。

没落深める日帝の必死の延命策

 今となっては信じられないような話だが、今から約30年前の1989年に世界の企業の時価総額ランキングトップ10の内8社までが日本企業だった。ところが昨年のランキングを見ると、トップ50社まで見ても日帝企業はかろうじて43位にトヨタ自動車が入っているだけだ。まさに「失われた30年」である。
 その原因はさまざまあるが、重要な要因の一つが経済のデジタル化での圧倒的な立ち遅れである。給付金をめぐってマイナンバーカードを利用したオンライン申請が、郵送での申請よりも手間も時間もかかるという悲喜劇はその象徴だ。
 そこに示されているのは、日帝が戦後革命を通して形成された労働者階級との力関係を転覆できていない現実だ。まさに日帝・安倍が改憲を自らの死活的課題とせざるをえない問題が横たわっているのだ。

AI技術の本質と弱点は何か?

 現在は第3次AIブームだと言われている。今まで失敗してきたAIブームとの違いは「機械学習」という手法が土台になっていることだ。つまり機械に学習をさせるというのだ。
 コンピューター利用にはプログラムが必要だということは広く知られている。
 例えば言語科学者は、1960年代から今世紀初頭まで数十年かけて、コンピューターに読み方を教えようと試行錯誤を重ねてきた。その年月の大部分は、言葉の意味と文法をプログラム化する作業に費やされた。しかし、言語のルールにはいくらでも例外がある。言語の複雑さは、プログラマーにとって悪夢以外の何物でもない。それをプログラミングするなどということは不可能だ。
 機械学習では、このプログラム化を最初からあきらめて、コンピューターに大量のデータ(ビッグデータ)を入力してルールらしきものをコンピューター自身に見つけさせることにした。大量のデータを入力して訓練すれば、かなりの確率で目的にかなった答えを出すようになる。これはインターネットでビッグデータが収集できるようになったことと、高速で処理するコンピューターが開発されたことで可能になった。
 この機械学習の特徴を理解すれば、現在のAIなるものの欠陥・問題点も明らかになる。
 ①AIは学習のために与えられたデータに適合した範囲内での結果を出すだけで、想定外の事態には対応できない。つまり、現在のAIは「誤りを犯す」。
 ②プログラムが存在しないということは、AIがなぜそのような結論を導き出したのか人間には説明できない。AIの「ブラックボックス問題」であり、説明責任放棄のシステムだ。
 ③AIに学習させるデータにも人間社会の差別と偏見が刷り込まれている。データの収集・選択に利用する側の価値観が反映される。にもかかわらず資本や行政は、人間が関与していないから「AIは公平」というでたらめなイデオロギー攻撃を振りまくのだ。

資本主義のAI利用が生む危険

 資本主義がAIを利用すれば、様々の問題が生み出される。
 一つには、人命軽視である。例えば、AIを応用した自動運転技術ではすでに多数の事故が発生し、死亡事故も少なくとも3件起きている。
 なかでも2018年3月のウーバーの自動運転の試験走行中の死亡事故は、自動運転で歩行者が犠牲となった初の事故であった。この事故では、AIは道路を渡る歩行者を「歩行者」と認識できなかった。
 歩行者を認識できなかった原因は、ウーバー車のAIが車道に歩行者がいることを想定していなかったことである。「想定外」の事態に対応する能力はAIにはないのだ。この事故ではウーバーには刑事責任はないとされた。
 二つ目に、AIが人を評価すれば、差別と偏見の拡大再生産が生じる。
 アメリカでは、AIを使って犯罪発生地域を予測しパトカーの配備を適切化すると称するシステムが運用されている。実際に起きていることは、警察官が集中的に監視する地域は犯罪の摘発率がそれまでよりも高くなり、その結果を反映させると、AIによる発生予測もそれまでよりも高くなる、すると監視がより強まり、さらに犯罪の摘発率が高くなる、という悪循環が生じている。
 国家権力にとってAIの最も効果的な利用が、監視社会化である。
 また、資本主義によるAI利用の非人間性と無責任性を端的に表しているのが自律型殺傷兵器=「殺人ロボット」の開発である。
 AI問題は、AIによる合理化攻撃として、労働運動においてこそ重大な意味を持つ。AI導入をテコにした合理化は資本による首切りと労働者支配を強化し一層の強搾取を生み出す。「AI万能神話」は、労働者の抵抗を打ち砕くためのイデオロギー攻撃だ。
 コロナ危機は改憲攻撃と一体でAI・デジタル化を掲げた資本攻勢をも激化させている。だがそれ以上に、資本主義の下ではもう生きられないという労働者の階級意識を広範に覚醒し、階級的な労働運動の再生を全世界で促進している。反合理化・運転保安闘争路線の実践的適用として、AI合理化攻撃を打ち砕く労働組合の方針を創造し、職場からの反撃を組織しよう。
(池野 繁)
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