コロナが促す破局的危機 帝国主義の恐慌対策はもはや一切通用しない

週刊『前進』04頁(3130号03面01)(2020/05/11)


コロナが促す破局的危機
 帝国主義の恐慌対策はもはや一切通用しない

事態の進行に恐れおののく支配階級

 コロナ危機は2008年のリーマン・ショックを超え、1929年大恐慌以来の歴史的事態に世界をたたき込んでいる。
 「2020年の世界経済は大恐慌以来のマイナス成長になる」(ゲオルギエバIMF〔国際通貨基金〕専務理事)。「第2次世界大戦以来、最も劇的な世界経済危機の引き金になる」(トリシェECB〔欧州中央銀行〕元総裁)。支配階級自身がこの現実に震え上がっている。
 IMFは4月14日に世界経済の見通しを発表し、20年の世界全体の成長率をマイナス3・0%と予測した。リーマン・ショック直後の09年の0・1%減をはるかに上回る急減速・急収縮だ。この予測自体、感染拡大は今年前半に峠を越えて後半に経済活動が再開するという、最も順調に進んだ場合のシナリオによるものだ。実際には、それ以上の悪化はほぼ確実だ。
 アメリカ議会予算局(CBO)は、同国の4〜6月期の成長率は年率換算でマイナス39・6%に落ち込むと予測した。08年10〜12月期に記録した年率8・4%減の5倍近い数値だ。1〜3月期の実質成長率はすでに年率マイナス4・8%に転落している。
 米国の失業保険の申請件数は3月半ばからの6週間で3千万件を突破した。米労働人口は1億6300万人であり、6人に1人を超える労働者が職を奪われた。CBOは、失業率は4〜6月期に戦後最悪の14%に達するとしている。
 世界経済はコロナ以前から崩壊寸前の矛盾を抱えていた。08年リーマン・ショックで爆発した大恐慌情勢は何も終わっていなかった。超金融緩和によるバブル化、貧困と非正規労働の拡大、社会の崩壊。蓄積されてきた資本主義の末期的危機が、コロナによって衝撃的に突き出されたのだ。

FRBの金融緩和で一層の矛盾激化

 生産・物流・消費が停滞し、企業の資金繰りが危機に陥る中で、ニューヨーク市場のダウ平均株価は2千㌦、3千㌦という水準で暴落と乱高下を繰り返し、3月単月で3492㌦安、1〜3月期で6621㌦安の過去最大の下げ幅となった。2月12日の史上最高値から3月22日までの下落率は35・1%にもなる。
 これに対し米帝をはじめとした各国の支配階級は、戦時型の経済対策を必死に展開している。特に米FRB(連邦準備制度理事会)は、リーマン・ショック時にもなかったような異例の政策に踏み込んでいる。
 ①3月3日と15日に緊急会合を開いて計1・5%幅の利下げを行い再びゼロ金利政策に突入した。
 ②3月15日に国債、住宅ローン担保証券(MBS)を買い入れる量的緩和を再開。米国債5000億㌦、MBS2000億㌦の購入枠を決めたが、23日にはこの枠も取り払った。米政府は3月末に2兆㌦超の経済対策を決定したが、そのために大量に発行される米国債をFRBが市場で無制限に買い入れることになる。事実上の財政ファイナンス(中銀による国債引き受け)だ。
 ③3月12〜13日の2日間だけで、短期金融市場に1兆5千億㌦もの大量の資金を供給した。
 ④3月17日に企業の短期社債であるコマーシャル・ペーパー(CP)を買い入れる措置を発動。事実上、企業に直接、資金を流し込むことを可能にするもので、リーマン・ショック後にもとられた異例の措置だ。CPを運用していた投資信託「マネー・マーケット・ファンド(MMF)」への資金供給も決めた。
 ⑤3月23日、消費者ローンや中小企業向け融資を担保とした資産担保証券(ABS)を買い入れる緊急措置を決定。担保となる消費者ローンには、自動車や学生ローンさえ含まれる。
 ⑥4月9日の緊急資金供給策で、事業会社への直接資金供給や社債の購入にも踏み込んだ。中小企業向けとして民間銀行を通じて6千億㌦を融資する制度を新設、民間銀行が一度は融資するが、95%分はFRBが設立する特別目的事業体(SPV)が買い取る。実質的には民間企業への直接の資金供給だ。大企業向けには7500億㌦の資金枠を設けて社債の買い取りに乗り出した。直前に格下げされた社債なら投資不適格(ジャンク級)でも購入すると決めた。
 リーマン・ショック時にもなかった異例の策の発動は、破局と崩壊への道だ。
 米帝は08年の金融危機に対し、天文学的な財政・金融を投入し、それを恒常化させることでバブル崩壊を繰り延べてきた。米国の「好景気」なるものは、こうした超金融緩和のマネーに浸りきり、自社株買いで株高―資産価格上昇を演出する虚構の上に成り立っていた。経済の本格的回復とはほど遠いものだったのだ。この中でFRBは巨額の資産を抱え込んでいた。
 そのため、ほとんど金融政策など展開できない中で、FRBはマネーを直接、国家と企業に流し込むような破滅的な状態に突入しつつある。
 すでにFRBの総資産は過去最大の6兆6千億㌦まで積み上がっており、今年中に10兆㌦を超える勢いで拡大していく。米欧日の中央銀行の総計では、今年末の資産は前年末比1・5倍の約2400兆円と、GDPの約6割に膨張すると見込まれる。08年末は600兆円を下回っていたが、とてつもない規模になる。
 IMF見通しでは、米政府の財政赤字も20年にGDP比15・4%となる。債務残高のGDP比は131%と、戦後直後の46年(119%)を超える。

労働者の闘いだけが未来を切り開く

 中央銀行や政府がどんなに異常な恐慌対策を展開しても、大恐慌の爆発を抑えることはできない。08年の時のように、かろうじて矛盾を先延ばしできるような条件が崩れているからだ。
 当時は、4兆元(当時のレートで57兆円)の景気対策を打ち出した中国経済の成長持続が、米国経済の再度のバブル化と一体となって世界経済をかろうじて維持させた。だが中国自身が巨額の債務を抱えてバブル化している中で、もはや世界経済を牽引(けんいん)できる状況にはない。中国の1〜3月期の実質GDP成長率はマイナス6・8%に転落している。
 米国の金融緩和による低金利状態の中で、新興国への投資による高収益=強収奪構造が築かれてきたが、それも崩れた。1月後半から4月末までの100日間に1千億㌦以上の資金が新興国から流出した。ブラジル、南アフリカ、インドネシアなどではすでに通貨が暴落している。それはドル建て債務の返済不能による国家破綻に直結する。
 さらに決定的なことは、国際協調の破産が進行していることだ。中国依存の世界経済は、基軸国である米帝の没落と戦後世界体制の崩壊を徹底的に促進してきた。米帝はトランプ政権のもとで「自国第一」を叫び、それは米中対立という形で火を噴いていた。コロナ危機は、こうした帝国主義間・大国間の分裂・対立をさらに激化させている。
 米帝は率先してマスクや医療器具の買い占めに走り、WHO(世界保健機関)を中国寄りだとして非難し資金拠出を停止した。4月前半に開かれた国連安保理では合意文書を出すこともできなかった。EU(欧州連合)内の対立も巨大な火種だ。大恐慌と争闘戦が絡み合いながら激化し、世界戦争の危機として爆発していくのだ。
 3月の株価暴落に続き、4月にはニューヨーク市場で原油先物価格が1バレルマイナス40㌦に暴落する異常事態となった。世界的な需要の収縮、不良債権問題の爆発、大量失業、サプライチェーンの崩壊など、大恐慌はまさにこれから進行し、巨大な危機の爆発となる。
 この情勢に立ち向かえるのは労働者の団結と闘いだけだ。資本主義体制をひっくり返そう。とりわけ、最も危機を深めている日帝・安倍政権を打倒し、労働者の力で未来を切り開こう。
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