「108兆円緊急対策」のペテン 大企業は救済、労働者は見殺し
週刊『前進』04頁(3126号02面01)(2020/04/20)
「108兆円緊急対策」のペテン
大企業は救済、労働者は見殺し
新型コロナウイルスへの感染がさらに広がり、安倍政権による非常事態宣言によって生産活動が急激に減少する中、解雇と賃金補償のない一時帰休や休業が労働者を襲っている。まさに生きるか死ぬかの瀬戸際に労働者は立たされている。この中で安倍政権が打ち出した108兆円の緊急経済対策は、労働者人民の生活を保障するものでは全くなく、資本を救済するものでしかない。
助成金の支給は数カ月先
本紙3124号で明らかにしたように、「1人当たり30万円の給付金」も、支給条件は厳しく、現に生活に困窮している人のほとんどは、その対象からはじかれてしまう。助成金が実際に支給されるのも、数カ月先になる見込みだ。そもそも、総額108兆円とされた経済対策のうち、減収となった世帯への30万円の給付金には4兆206億円、中小企業や個人事業主への給付金には2兆3176億円が充てられるに過ぎない。
その給付金も、政府は5500万人の労働者、2200万人の非正規労働者のうち、1300万世帯への給付分しか予算措置をしていない。しかも、政府が付した条件に照らせば、給付金が1300万世帯に行き渡る見込みすらない。
安倍首相は「全体で事業規模108兆円、GDP(国内総生産)の2割に当たる対策は世界的にも最大級だ」とうそぶくが、108兆円という額自体が、水増しされている。
108兆円のうち、財政支出が伴うものは39兆円だけだ。しかも、その中には19年度補正予算の未執行分6・4兆円分も含まれる。2020年度補正予算に盛り込まれる新たな財政支出分は、18・6兆円にとどまる。
108兆円の内訳には、財政投融資12・5兆円や地方自治体の財政支出2兆円が含まれている。さらに、最も費目として大きいのは、政府が利子分を補填することによって、地方銀行や信用金庫、信用組合に企業への無利子・無担保融資を行わせる事業の42・7兆円分だ。政府が利子補填(ほてん)をするものの、民間の金融機関が行う事業も含め、108兆円という数字がひねり出された。
安倍政権の下で厚生労働省の毎月勤労統計が改竄(かいざん)され、労働者の賃金は実態以上に高く見せかけられてきた。GDP統計さえ、計算方法が変えられて、従来より30兆円近くも水膨れされた数値が出されている。それと同じことが、また繰り返されている。
ANAが無担保融資要求
緊急経済対策の中身は、徹頭徹尾、資本を救済するものとして組み立てられている。先に述べたように、108兆円のうち最大の費目を占めるのが、民間金融機関による企業への無利子・無担保融資事業だ。企業の資金繰りを支えることが緊急経済対策の最大の目的だ。
安倍政権は、これを中小企業を支えるものであるかのように描いているが、本当の目的は大企業の救済だ。この事業が打ち出された直接のきっかけは、需要が急減し巨額の赤字を出すことが避けられなくなった全日空(ANA)が、政府に支援措置を求めたことにあった。ANAは赤字を埋めるために銀行に1・3兆円の融資枠の設定を求めると同時に、政府に対しても無担保で融資を受けられる制度の創設を要求した。
安倍は直ちにこれに応え、未来投資会議で大資本救済のための支援枠組みをつくることを指示した。ここから緊急経済対策の編成作業が始まったのだ。
この背後には、アメリカのトランプ政権が大手航空会社と航空機製造のボーイング社の救済を最大の眼目としつつ、「コロナ対策」の名目で2兆2千億㌦もの巨額の経済対策を打ち出したことがある。安倍は、これに対抗する措置をとらなければ日本帝国主義は生き残れないとして、緊急経済対策の編成を急いだのだ。
だから、その本質はあくまで大資本を救済することにある。
休業補償に使うなと答弁
安倍政権は、新型コロナへの感染が収束するまでの「緊急支援フェーズ」と、その後の「V字回復フェーズ」の2段構えで緊急経済対策を組んだと言う。だが、重心が置かれているのは、明らかに「V字回復」のためと称する資本救済策だ。その中には、観光業や飲食業を支えるための割引券、商品券などのための費用などを含む需要喚起策1・8兆円が盛り込まれている。そのほかにも、小中学校でのオンライン授業のための端末整備や、テレワーク推進のための企業への助成金なども計上されている。他方で安倍政権は、緊急事態宣言で店舗の閉鎖などを強制しておきながら、その補償は全くしようとしない。
緊急経済対策には、総額1兆円の地方自治体への臨時交付が盛り込まれたが、西村康稔経済財政・再生相は、その交付金を自治体が休業補償に使ってはならないという国会答弁を繰り返している。
さらに安倍政権は、緊急事態宣言の発出により企業に休業手当の支払い義務も免除させようとしている。
他方で、児童手当の1万円増額支給も、たった1回限りの措置だ。
税金や社会保険料は全額免除せよ。消費税は直ちにやめろ。労働者の団結と闘いで、人民の生活を全面的に保障する資金を国家に支出させよう。