賃金・雇用破壊を許すな 労働者の団結でしか守れない
賃金・雇用破壊を許すな
労働者の団結でしか守れない
労働現場で経験したことのない雇用・賃金破壊と安全破壊が労働者に襲いかかっている。文字通りの大失業時代の到来である。コロナ緊急事態宣言下の職場はどうなっているか。現場の労働者からお話を伺った。(本誌 都築悠人)
タクシー リーマン以上
「リーマンの時でさえ経験したことがない」
そう語るのは、東京都心で働くタクシー労働者の斎藤正雄さん(仮名)。
非常事態宣言発令間近の6日、緊迫する中、朝10時30分に出庫、翌朝6時30分までハンドルを握った。駅のタクシー乗り場には待機台数が増える一方だ。「流し」に切り替えても客には全く出会えない。結局、この日の売り上げは約1万4千円。「時給に換算して300円の仕事を深夜含めて20時間。タクシー歴27年で初めてのことだ」
通常なら3~4月は年末年始に次ぐ繁忙期なのに、コロナ情勢の深まりと共に賃金は1月末29万円、2月末25万円、3月末19万円へと激減したという。「この先の安全、収入を考えれば5月はどうなるのか。みんな悲鳴を上げている」
タクシー業界は、会社にもよるが売り上げの約5~6割が賃金となる。ところが、出来高払い、歩合給を主とするこの業界にあっては、日ごとまたは月ごとの売り上げの最低額に〇〇円以上という枠をはめ、それに達しない場合は大幅に賃金歩合を引き下げる「足切り」という悪慣行がはびこっている。ひどい場合には、最低賃金すれすれの事態に突き落とされかねない。今、そうした状況が目前にある。斎藤さんは「足切り制度が乗務員を苦しめている元凶だ。足切りを緩和すべきだ」と指摘する。
解雇は絶対にダメ
緊急事態宣言発令の3日後、東京近郊で働くタクシー労働者の有働孝明さん(仮名)も「コロナで死ぬより、経済の悪化で死んでしまう」と窮状を訴えた。
1カ月で手取りが40万円から10万円にまで落ち込んだ。ここ1週間働いてやっと通常の1日分の賃金に到達した。「最賃以下だ。家庭でもけんかばかり」
そんな中、タクシー会社「ロイヤルリムジン」(東京都江東区)が600人の解雇を発表。休業手当よりも失業手当の方が有利であり、感染拡大が収束したら再雇用するというのが会社の言い分だ。しかし、有働さんは「でも従業員を放り出すわけでしょ。会社は責任とらないってことだよ。この先どうなるかわからないから、雇用調整助成金で休業手当を出させた方がいい」と解雇に疑問を抱く。
展示装飾業 完全に失職
政府は補償もしないでイベント自粛を叫び立ててきた。そのあおりをもろに受けてきたのがイベント関連業界だ。
展示装飾会社社員の高橋隆さん(仮名)は「悲惨ですよ。完全に失職状態」と語る。仕事は展示会の設営を短時日の工事で仕上げる現場の施工管理。コロナ・ショックで業界全体の仕事が全くなくなってしまった。2〜3カ月前の仕事が現在の賃金に反映されるため、「6月でほとんどアウト。3・11大震災後はイベントが読み込めたけど、今回は全国的かつ同時的にこういう経済状況だからこの先全く読めない。路頭に放り出される」と話す。
展示装飾業は個人事業主、いわゆる一人親方が集まる業界でもある。生方郁夫さん(仮名)もその一人だ。「3月は10分の1に減収。舞台、美術館、デパートなどの仕事も一切ない」。個人事業主は景気に左右されやすく、保障もない業態だという。だからこそ「個人事業主は団結して、集団で休業補償を求める闘いが今こそ必要だ。給付金も含めて生活保障をかちとっていくことが私たちの闘いだ」と訴える。
昔は展示会といえば個別、中小規模で行われていたが、新自由主義化が進み東京ビッグサイト(東京国際展示場)などの巨大展示場に一極集中化されてきた。そのため崩壊する時は一気に崩壊する。そうしたもろい構造の上にコロナ・ショックが襲いかかった。
そして東京五輪が追い打ちをかけた。東京ビッグサイトは報道センターに改装されたため、展示会場として使用できなくなってしまった。昨年、会場確保を求める業界のデモも起きた。さらに五輪の延期で、五輪後の展示会の予定もすべてキャンセル。東京ビッグサイトの1日の賃料は約2700万円、1年間延期で約100億円。五輪を中止してただちに賃金補償・生活保障せよということだ。
コンビニ 「捨て石」か!
緊急事態宣言発令で「社会インフラ」に位置付けられたコンビニ。ロックダウン(都市封鎖)のうわさに、セブン―イレブン・ジャパン本部は「最大限営業を続ける努力を」という通知を現場に下ろした。
コンビニ関連ユニオンは、オーナーと従業員の命と健康を守ることを最優先とし、店舗閉店の対応と完全な補償を求める要求(抜粋別掲)をただちに本部に突き付けた。
宣言発令後も本部は「可能な限り営業を」という方針を各店舗に強いている。
関連ユニオン組合員は「『可能な限り』ってどういうことなんだ」と憤る。
すでにセブンでは10店舗から従業員の感染者が出ている(4月12日現在)。しかし本部は、一般的な感染予防対策を言うのみだ。セブン資本は内部留保2兆円をため込んでいるにもかかわらず、閉店や従業員が休んだ時の補償を一切しない。感染して2週間閉店してもオーナーの自己責任。ただでさえ24時間営業の強制で店舗を回すのがたいへんな上に、生活を維持するために風邪をひいても休めない。普段の過重労働で免疫力も低下している。現場は感染の恐怖の中で出勤する一方、東京・四谷の本社ビルの社員は在宅勤務。
加盟店オーナーから「店を閉めさせてくれ」「従業員が感染で死んだら本部は責任とるのか」という相談が関連ユニオンに相次いでいる。鎌倉玲司書記長は「小池都知事がコンビニは開いていますから大丈夫と言ったが、ある意味『捨て石』作戦です。コンビニ労働者だけ殺す気か、という怒りしかない」と語る。
本部は河野正史委員長に対し、社内情報をもらすなと脅しをかけてきた。直ちに関連ユニオンは本社団交を要求。これに対するかのように、本部はマスコミ報道などを理由に河野委員長に懲戒処分を科してきた。河野委員長は処分を弾劾し、「労働者の命と安全は団結でしか守れない。24時間365日営業義務化反対の闘いを今こそ進めていきたい」と表明している。
職場丸ごと組合に
大失業の嵐が襲いかかっている。職場丸ごと路頭に放り出される情勢は、逆に職場丸ごと労働組合に組織して闘うことができる情勢でもある。一つの職場で闘いが始まれば、瞬く間に業界・産別全体の闘いに転化する。この社会はあくまで資本の延命を最優先にしている。労働者民衆の命と生活が最優先される社会にひっくり返さなければならない。労働組合が力で押し渡る以外にない。
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新型コロナウイルスに関する労働問題
会社が休業
賃金全額を請求しよう。労働基準法26条では賃金の60%以上の休業手当を支払うことが定められている。「原資がない」と言うなら、雇用調整助成金を会社に申請させ休業手当を支払わせよう。
シフト削減で賃金が下がった
契約違反。削減分の賃金を全額支払わせよう。
経営悪化を理由に解雇や雇い止め
絶対に応じない。そう簡単に解雇や雇い止めはできない。
職場で感染対策をしてほしい
会社には労働者に対する「安全配慮義務」がある。断固要求を。
もしかして感染? 休みたい
感染を拡大させないためにも、会社の責任で休めるようにさせ、賃金全額を補償させよう。また特別休暇制度などを認めさせよう。
感染した場合
健康保険の傷病手当金(賃金の3分の2)を受給しよう。会社の病気休暇制度の確認も。場合によっては労災申請の検討も。
個人事業主で収入が激減
労働組合と共に給付金などを申請し、国や行政に要求を。
子どもが休校で出勤できない
賃金全額を会社に支払わせよう。その場合、会社は国から助成金を上限8330円受け取ることができる。個人事業主は国から日額4100円の支援金を受け取ることができる。
まずは労働組合に相談を。すべては会社との交渉次第。
助成金・給付金などの増額を国や行政に要求しよう
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「ロックダウン(都市機能封鎖)時の対応」に対する要求(抜粋)
2020年3月30日 コンビニ関連ユニオン 執行委員長 河野正史
私たちコンビニ関連ユニオンは、すでに過剰な負担を押しつけられているオーナー、従業員、本部社員、関連労働者の命と健康を守る立場から、本部の方針に反対します。
ロックダウンに入った場合、コンビニ店舗も、オーナーと従業員の命と健康を守ることを最優先とし、基本的に店舗の閉店の対応をとること、オーナーと従業員の意思が100パーセント尊重されること、閉店した店舗の完全な補償を日本政府・都道府県等に求め、本部が責任を持って補償することを求めます。
その上で、営業をされる場合も、オーナー、従業員、関連労働者への社会的保安要員に匹敵する健康管理体制、安全配慮、および危険手当てと万一の場合の完全な補償をすることを求めます。
コンビニは「社会インフラ」である前に、オーナーもふくめた労働者によって担われ、家族をささえるために営業される零細流通小売り業者に他なりません。
ロックダウン時には、当然コンビニのオーナーや従業員、本部社員や関連労働者も、同様に感染と生命の危険にさらされます。すでに感染者が出てしまった店舗もあります。風邪症状のある従業員の欠勤によって、ギリギリでがんばっている店舗がほとんどです。毎日マスクも十分ではない中、不特定多数のお客様との接客は常に感染の恐怖をともないます。疲れ切って免疫力の低下しているオーナーや従業員が感染すると命に関わります。
コンビニ関連ユニオンは、オーナー、店舗従業員、本部社員、関連労働者の命と健康を守るために、本部のロックダウン時の営業の押し付けに断固反対し、閉店の自由を認めるように、本部に求めます。