米中激突で強まる戦争の危機(上) 核軍拡に走るトランプ コロナ情勢下、核先制攻撃を準備

週刊『前進』02頁(3123号02面01)(2020/04/09)


米中激突で強まる戦争の危機(上)
 核軍拡に走るトランプ
 コロナ情勢下、核先制攻撃を準備


 新型コロナウイルスの大流行を引き金とする世界経済危機は、もはや1929年大恐慌を超える壊滅的事態となることが確実となった。アメリカ帝国主義・トランプ政権の中国に対する貿易戦争と新たな軍事戦略は、世界経済の分裂と核軍拡競争を著しく促進してきた。今やその全矛盾がコロナショックで爆発しつつある。トランプ政権も日本帝国主義・安倍政権も、米中対決の激化の中で核軍拡・核戦争政策にますますのめりこんでいる。日米安保は今、日米の核戦争同盟へと変貌(へんぼう)しつつある。全世界労働者民衆の決起で核戦争―世界戦争を阻止し、命脈の尽きた資本主義を一刻も早く終わらせよう。

「使える核」が新戦略の鍵

 2017年の政権発足以来、トランプは「米軍再建」を掲げて国防予算の増額を進めつつ、ブッシュ・オバマ時代からの「対テロ戦争」の幕引きや世界各地の駐留米軍の撤退・縮小を求めてきた。「われわれの優先事項は第一に中国、第二にロシアだ。これに集中するため時間、人員、金をもっと使えるようにしたい」(エスパー国防長官)という動機からだ。そして地上戦や紛争地域の軍事占領など、これまで米軍が担ってきた役割を日本や韓国、欧州諸国などの「同盟国」に肩代わりさせ、米軍は空爆やミサイル、ドローン攻撃などに特化させることを追求してきた。こうした米軍の新戦略の鍵となるのが「使える核」、すなわち近代化された新型核兵器の開発・配備とその先制使用にほかならない。
 このような軍事戦略の転換は、17年12月発表の米国家安全保障戦略(NSS)で、「強国同士の競争の時代が再び戻ってきた」として中国とロシアを「競争勢力」「(米基軸の世界秩序に対する)修正主義勢力」と位置づけたことをベースとしている。
 さらに昨年12月にトランプが署名した2020会計年度(19年10月〜20年9月)国防予算の大枠を決める総額7380億㌦の国防権限法には、AI(人工知能)や次世代通信規格5Gの研究開発の飛躍的強化が盛り込まれた。「国防総省は今後、これまで控えてきた戦闘作戦でのAI活用に向けた研究に乗り出す。自律型兵器や指揮統制を想定したAI利用をめざす中国軍に対抗する狙いだ」(19年12月18日付日経新聞)
 さらに中国が先行している極超音速兵器の開発・配備や「宇宙軍」の創設も明記した。ファーウェイや中興通訊(ZTE)など中国5社からの政府調達の禁止を盛り込んだ19会計年度に続き、貿易戦争と表裏をなす徹底的な中国敵視を軍事戦略として貫いているのが特徴だ。

対中対決叫ぶペンス演説

 トランプ政権発足時に貿易政策の立案に関わった米鉄鋼大手ニューコアのディミッコ名誉会長は、「中国への関税引き上げはただの貿易戦争ではない。米国の存亡をかけた戦いだ」と激語する。今ここで中国を徹底的にたたかなければ取り返しがつかなくなるという米支配階級の大部分に共通する認識が、トランプの対中政策の根底にある。
 18年10月にペンス副大統領がハドソン研究所で行った演説はそれを鮮明化させた。英エコノミスト誌はこの演説を受け、「米国の新たな中国敵視の機運は最高潮に達し……不可逆的な性格をもつだろう」と評した。ペンスはとりわけ習近平政権の「中国製造2025」をやり玉に上げ、「この計画を通じて中国共産党は、ロボット工学、バイオテクノロジー、AIなど世界の最先端産業の90%を支配しようとしている」「中国の安全保障機関こそ最先端の軍事計画を含む米国の技術の大規模な窃盗の黒幕」「中国共産党は盗んだ技術を使って大規模に民間技術を軍事技術に転用し……米国の陸、海、空、宇宙における軍事的優位を脅かそうとしている」と危機感をあらわにした。
 ペンスは「知的財産の窃盗」を非難するが、実際には単なる「窃盗」ではなく中国独自の研究・開発が日々進んでいることは彼らも熟知している。ファーウェイの100%出資の半導体設計企業ハイシリコンをはじめ、中国では資金と人材を大量投入した先端技術の研究・開発が進み、今や世界中の研究者・技術者が中国企業に集まる。
 高性能CPU(中央演算処理装置)の開発でも、ハイシリコンは米半導体大手インテルやクアルコムを上回ったといわれる。世界の主要空港で離発着、手荷物検査、監視システムなどを動かす統合ITシステムの半分以上がファーウェイ製で、これらが軍事転用されれば米帝はたちまち劣勢となるといわれる。しかも米軍のハイテク兵器に用いるレアメタルは80%以上が中国からの輸入だ。
 このように米帝にとって中国とは、単なる経済的な競争相手ではなく、米軍の軍事的優位を根幹から揺るがす存在であり、その台頭を黙認することは絶対にできないのだ。

コロナ情勢で対立が激化

 米中対決こそ、現代世界の対決構造を規定する最も基軸的な対立にほかならない。マスコミやブルジョア評論家の間では、今日の米中関係をいわゆる「冷戦」時代の米ソ関係になぞらえて「新冷戦」などと評する向きがあるが、これでは米中対決の意味を正確にとらえることはできない。
 かつてのソ連は核軍事大国ではあったが、経済規模や先端技術の開発能力などは西側諸国に遠く及ばず、世界経済への影響力も限られていた。米帝の対ソ戦略も、カーター政権とレーガン政権に典型的なように、ソ連との軍事的・政治的な対決政策を激しく展開しつつ、核心的には日本や西ドイツなどの帝国主義諸国への争闘戦を貫くことを主眼とするものだった。
 だが今日の米中対決はまったく事情が異なる。
 中国は、70年代末に開始した「改革・開放」路線を90年代以降に猛烈に加速させ、「帝国主義世界経済に深々とビルトインされた残存スターリン主義」(本紙新年号1・1アピール)として極めて急激かつ特異な発展をとげた。そして今や、その経済規模や世界的影響力ばかりでなく、軍事にかかわるAIなどの先端技術開発でも、米帝にとって最大の脅威となった。これに対し、すでに世界的な支配力を喪失し没落期にある米帝は、「経済的合理性などを無視した非合理的な制裁・報復の論理」(同)に訴える以外になくなったのである。
 コロナショックは米中双方をすさまじい危機にたたきこみ、両者の激突は軍事衝突の危機をはらんでますます非和解化する。この中で朝鮮半島をめぐる核戦争の危機も再燃しようとしている。切迫する世界戦争・核戦争を絶対に阻止しなければならない。
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