黒川検事長の任期延長は違法 人事支配し独裁―改憲狙う安倍 <寄稿> 弁護士 西村正治

週刊『前進』04頁(3122号03面02)(2020/04/06)


黒川検事長の任期延長は違法
 人事支配し独裁―改憲狙う安倍
 <寄稿> 弁護士 西村正治


 新型コロナウイルスの爆発的な感染拡大により、史上類例をみない日本経済・世界経済の大崩壊、大恐慌が迫っている。この危機を抑え込む方策は安倍にはない。こうした中で安倍は独裁体制の構築を急いでいる。「新型インフルエンザ等対策特別措置法」改定による「緊急事態宣言」で、デモや集会の禁止、土地や家屋の接収、報道規制といった事実上の憲法停止を狙っている。その先にあるのは危機を利用した改憲だ。
 そうした安倍独裁への布石として、安倍官邸による一連の官僚人事支配の策動がある。
 安倍政権は1月31日、2月7日に63歳に達するため定年退官が予定されていた検察ナンバー2の黒川弘務東京高等検察庁(高検)検事長の定年を半年間延長することを閣議決定した。
 検事長の定年延長は前例がない。8月までの間に検事総長を交代させ、安倍政権の傀儡(かいらい)というべき黒川を次の検事総長に就任させるため、安倍官邸が検察人事に無理やり介入したのだ。
 検事総長は65歳、それ以外の検事は63歳に達したときに定年退官となる(検察庁法22条)。安倍政権は黒川が定年に達する前の昨年末までに現在の稲田伸夫検事総長を辞めさせ黒川総長を就任させることをもくろんでいた。しかし、稲田をはじめ法務・検察は、7月に63歳になる林真琴名古屋高検検事長を次期総長にする予定で、稲田総長は2月以降も続投を決定したため、黒川退官=林総長誕生は確定的になったと見られていた。
 ところが、こうした法務・検察の動きに対して官邸は、黒川の定年延長という、おきて破りのウルトラCを持ち出してひっくり返したのだ。
 しかしこれは、明らかに違法だ。国家公務員法81条の3を適用して定年を延長したというが、これは、「任命権者は、定年に達した職員が81条の2第1項の規定により退職すべきこととなる場合において」任期を延長できるという規定である。そして81条の2は、「定年に達したときは、定年に達した日以後における最初の3月31日……に退職する」となっている。
 検察庁法では定年の誕生日に退官となるのであるから退職の日が異なり、検事の定年退官は81条の2の公務員の退職とは明確に違うのである。81条の3を検事に適用できるはずがない。政府においても適用できないという解釈が40年間一貫してなされてきた。それを指摘されると、あわてて「解釈変更した」と取り繕おうとしたが、解釈変更で違法でなくなるはずはない。無理を押し通そうとして、さらにうそを重ねて墓穴を掘っているのが安倍政権である。
 安倍政権のこうした慣例を無視した人事への介入は初めてではない。
 1度目は、2013年8月、内閣法制局長官に部外者である外交官小松一郎フランス大使を任命したことである。法制局長官は部内からというのが鉄則だったが、安倍は集団的自衛権の行使を容認しない内閣法制局を転覆するために、容認を公言している小松を無理やり送り込んだのだ。これは法制局に大混乱をもたらしたが、1年後の14年7月に憲法解釈の変更の閣議決定に至ることになった。
 2度目は最高裁裁判官人事である。安倍政権は17年2月、弁護士出身の裁判官の後任に山口厚東大名誉教授を送り込んだのだ。
 最高裁裁判官の任命には不文律があり、出身枠に従って推薦がなされてきた。弁護士出身者の枠は4人とされ、その候補者の推薦は日弁連が行ってきた。
 山口厚は刑法学者であり、16年8月に弁護士登録をしたばかりであり、日弁連が推薦した名簿に入っているはずがない。ところが安倍政権は、推薦名簿になく、弁護士登録6カ月でしかない山口厚を弁護士枠として最高裁に押し込んだ。19年6月、第1小法廷に属する山口裁判官は、加計学園監事の木澤克之裁判官とともに大崎事件の再審開始決定取り消しの暴挙を行い、「安倍コート」とでもいうべき姿を示したのだ。
 そして3度目が今回の検事総長人事ジャックであるが、この異例の人事を押し通し、今後も恒常化させようとして、政府は3月13日に検察庁法改定案を国会提出した。
 これは、国家公務員の定年に合わせて検察官の定年も65歳に引き上げるものであるが、検事長ら役職は63歳で退くものとされている。昨年策定された際の法案では、この役職定年に例外はないとされていた。
 ところが、黒川定年延長が問題となった後に閣議決定された改定案では、内閣が必要と認めたときには、63歳を超えて役職にとどまることができるという特例規定が設けられた。この規定により、政権の意向に沿った者はそのまま続投させられる。このような改定案が許されてはならない。
 慣例を無視して押し通すこのような安倍政権のやり方は危機の表れだ。黒川検事総長で、「森友」「加計」や「桜を見る会」疑惑に関する政権中枢への捜査を押しつぶすしかなくなっているのだ。このような動きをなんとしても打ち砕き、安倍独裁への布石を粉砕しなければならない。
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