書評 『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』 ブレイディみかこ著 英の中学校での息子の差別こえる成長に感動
週刊『前進』02頁(3121号02面05)(2020/04/02)
書評
『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』 ブレイディみかこ著
英の中学校での息子の差別こえる成長に感動
著者ブレイディみかこは、アイルランド系イギリス人と結婚して20年、イギリス南端の町・ブライトンで、一人息子と今は大型ダンプの運転手をする夫と3人家族で暮らす。音楽好きで渡英した彼女は、結婚後に保育士資格を取得し、息子が1歳のときに「最底辺保育園」で見習い保育士として働き、伝説の幼児教育を実践する先輩保育士と出会ったことを原点にしている。
表題は、イギリスで日本人を母として生まれた息子のノートの走り書きだが、息子の中学生活の中での民族的多様性と階級性をリアルにとらえようとする主題を表している。
サッチャー時代に払い下げられた元公営住宅と現公営住宅が混在する地域の中学(11歳から16歳)に入学した息子の1年半。彼女と夫と息子が選択した中学校は、夏休みの子どもたちの感想が「ずっとお腹がすいていた」というリアルな貧困、低賃金白人労働者の子の通う「元底辺」中学校だった。
英の公立学校には、①定期的学校監査、②全国一斉学力テスト結果、③生徒数と教師数の比率の3点にもとづく学校ランキングがあり、公表される。学校側は、入学希望生を自宅からの距離で選別する規則になっている。
みかこ一家が選択した「元底辺校」が「底辺校」から脱出した力は、教師たちが、子どもたちが本当にやりたいこと、楽器演奏やダンス、歌、演劇を教育に取り入れ、教師たちが子どもたちを信頼したことだった。
感動的なエピソードが紹介されている。クリスマスコンサートで出演した公営住宅住人の生徒のラップの結びの句は、「来年はきっと違う。姉ちゃん、母ちゃん、婆ちゃん、父ちゃん、俺、友よ、すべての友よ。来年は違う。別の年になる。万国の万引きたちよ、団結せよ」だった。このラップに親たちの半分、校長をはじめ教員たちが誇らしげに拍手を送るのを見る。著者は、イギリスの労働者には「下層上等! 下品上等!」という「不遜なまでのプライドがある」という。
万引きといえば、「ゼロ時間労働契約」という非正規職のシングルマザーと兄弟で高層公営住宅に住む級友が、学校給食に使うお金が足りず「万引き野郎!」という「正しくない人認定」でイジメにあう。「自分が正しいと集団で思いこむイジメ」から抜け出す「地べたの相互扶助」を子どもの中にどう育てるか。
家族の出自の多様性のなかで人種差別や異質なものの排除からぬけだすために学校での「誰かの靴を履いてみること、エンパシー(共感力)教育」の大切さ。そして、著者は、もっと大切なことは、少数派としての「アイデンティティー熱を超えて、貧困と格差、労働問題、階級的な政治の軸をずらさない」ことだと主張している。
著者が移民労働者、外国人労働者との階級的団結、国境を越えた労働者階級の団結を訴えていると感じ、感動して読んだ。
(林佐和子)