オリンピックは完全に中止を すべての費用を補償と給付に 労働者の命と生活を最優先しろ

週刊『前進』02頁(3121号01面01)(2020/04/02)


オリンピックは完全に中止を
 すべての費用を補償と給付に
 労働者の命と生活を最優先しろ


 3月24日、安倍首相とバッハIOC(国際オリンピック委員会)会長の電話会談で、オリンピック・パラリンピック東京大会の「1年程度の延期」が合意されたことが一斉に報道された。「延期」とはあくまでも東京大会を強行するという宣言にほかならない。だが、新型コロナウイルス感染症の恐るべき拡大と世界経済の大崩壊が進む中、労働者民衆の命と生活を守り抜くためには、東京大会は絶対に中止以外にない。

即時中止が全世界の声だ

 安倍政権はこの間、全国一斉休校や大規模イベントの自粛などを「要請」しつつ、誰がどう見ても今年最大の「大規模イベント」である五輪だけは「完全な形で実現する」と言い張ってきた。これに対し、2〜3月の過程で「中止しろ!」の声が世界中で沸騰した。
 ポータルサイト・ヤフージャパンが2月21日〜3月2日に行ったアンケート調査では、東京大会をどうすべきかについて、投票総数76536票のうち「中止する」との回答が65・6%に達し、「延期する」16・9%、「予定通り開催する」8・8%を大きく上回った。延期決定後の再調査ではひとまず「延期は妥当」との回答が過半となったが、「中止すべき」の声は全体の3割を超える。
 3月下旬になっても悪あがきを続ける安倍とIOCには世界中から「無責任」「中止すべきだ」と非難の声が殺到した。イギリスやカナダの五輪委員会は、このままでは東京大会に選手を送れないと声明。英インディペンデント紙は、大会出場予定の陸上競技選手約4千人を対象にした緊急アンケートで、78%の選手が大会自体の中止を望むと回答したことを報じた。これ以上決定を引き延ばせば本当に「中止」に追い込まれかねないと判断したIOCは、アメリカの放送大手NBCを始めとした有力スポンサーとの合意をとりつけた上で、大会延期を決定したのである。
 だが、東京大会への中止要求が全世界から殺到した理由は、新型コロナウイルスの影響だけでは説明できない。それ以前から、東京大会およびオリンピックそのものに対する怒りや疑念が世界中で広がっていたことが背景にある。

汚染拡大で被曝は不可避

 周知のとおり東京大会は、2013年のIOCブエノスアイレス総会での安倍の「(福島第一原発の)状況はアンダーコントロール(統御されている)」という大うそで招致された。
 福島県は今も「原子力緊急事態宣言」下にある。県全体の約7割の面積を占める97万2千㌶は「除染」もされず、風雨に流された放射能が汚染を拡大し続けている。福島第一原発から出る1日200㌧の汚染水は処理方法も決まっていない。2月の復興庁発表で避難者は約4万8千人(「自主避難者」を除く)、甲状腺検査では、がんまたは疑いの診断が237人に達した。これらを闇に葬るために「復興五輪」が演出される一方、大会準備に伴う建設資材の高騰や労働力不足が影響し、被災地の人々の生活再建は進んでいない。
 JOC(日本オリンピック委員会)の竹田恒和会長(当時)が大会招致過程で元IОC委員の関係する「海外のコンサルタント会社」に2億3千万円の賄賂を渡したとされる件も、フランス検察当局は起訴相当と見て捜査を進めている。
 「世界一コンパクトな五輪」と称して7千億円程度と見積もった大会経費は、すでに3兆円超という法外な額に膨張している。コスト削減のため東京大会では五輪史上最多となる11万人のボランティア動員が予定されるが、1日1000円の交通費と1日1回の飲食以外は全て自腹で宿泊費も出ず、熱中症になっても自己責任という最悪の「ブラックボランティア」だ。新国立競技場の地盤改良工事の現場監督だった青年労働者は、無理な突貫工事で長時間労働を強いられ、「身も心も限界」と書き残して自殺した。すでに要員不足が深刻な都営交通などの労働現場では大会開催に伴う増便や終電延長で殺人的な過重労働と安全崩壊が強く懸念されており、東交(東京交通労組)組合員から怒りの声が噴出している。
 こんな五輪は、改憲を狙う安倍政権の国威発揚と大企業の金もうけのための祭典であり、労働者民衆には百害あって一利なしだ。

国家と資本のための祭典

 薄汚い裏金とうそで招致した東京大会は破産しきっている。仮に大会を強行しても「経済効果」など一時のカンフル剤的効果すら期待できず、日本資本主義の大没落は避けようがない。
 そもそも1896年アテネ大会に始まる近代オリンピックは、初めから帝国主義国家とその支配階級の政治的・経済的利益と密接に結びついてきた。近代五輪の提唱者として知られるフランスの貴族クーベルタンは、普仏戦争敗北後の弱体化したフランスを「商業、軍事、植民地開発の分野におけるヨーロッパのリーダーに再び押し上げる、それどころか世界のリーダーにする」ために国民の肉体と精神をたたき直す手段としてスポーツを推奨し、それを「間接的な戦争準備」と呼んだ。
 このような考えを最も徹底的に実践したのが独ナチス政権下の1936年ベルリン大会だった。クーベルタンはヒトラーを公然と絶賛し、ナチスが「アーリア民族の優秀さ」を誇示する手段として考案した聖火リレーを「勇壮で、完全な大成功」とほめたたえた。
 第2次大戦後も五輪は国家の「威信」を示す手段として年々肥大化し、米レーガン政権下の84年ロサンゼルス大会で本格的な「商業オリンピック」となった。
 同大会組織委は、五輪のロゴマークや大会シンボルの使用権と引き換えにスポンサー企業から協賛金を募り、また大会のテレビ放映権を独占契約とし、いずれも競争入札で巨額の金を集めた。今日もIOCの収入源は、大会の放映権を握る米NBCの支払う放映権料が7割超を占め(2013〜16年)、大会期日や競技時間は事実上NBCの意向で決まる。何万人ものボランティアの動員もロサンゼルス大会からだ。
 以後、五輪が大企業やマスコミ、広告代理店のショービジネスの場と化す一方で、開催都市の多くは巨額の債務を負わされ、また大会に伴う再開発で住民は強制立ち退きや家賃の高騰に苦しめられている。延期にかかる費用を全額補償と給付に回せ!
 もはや東京大会は中止、そして全世界の労働者民衆の闘いで、腐りきった五輪そのものを廃止しよう。

このエントリーをはてなブックマークに追加