イタリア 民営化が医療を破壊 全土ゼネスト突入へ 独立系労組が宣言

週刊『前進』04頁(3120号03面01)(2020/03/30)


イタリア 民営化が医療を破壊
 全土ゼネスト突入へ
 独立系労組が宣言

(写真 ナポリ運送会社TNTの労働者が安全な労働条件を求め山猫スト)

 3月20日、イタリアの新型コロナウイルス感染症による死者が中国を大きく上回った。3月23日までに感染者は6万人、死者は5500人に達した。12日から全国が外出禁止令下におかれている。外出制限・外出禁止令は、ドイツ、フランス、スペイン、イギリスなどにも広がり、19日、欧州連合(EU)首脳会議は30日間の入域禁止措置を打ち出した。欧州全域が未曽有の社会的危機に入った。

欧州全域が未曽有の危機に

 イタリアの医療機関には感染症患者があふれ、集中治療室(ICU)に入れない重症患者が取り残されている。医療労働者は休暇を取り消され、連日不眠不休の活動を強いられている。2008年以来の緊縮政策―医療費削減による人員整理で解雇されていた労働者や退職者ら2千人が緊急に動員されている。医学生も資格試験免除で動員されている。延命優先順位が定められ、高齢者(60歳以上)やコロナウイルス蔓延(まんえん)以前の重症者が後回しにされている。戦場でのトリアージ(負傷者の選別)さながらの事態だ。

現場の労働者が主導権握りスト

 3月23日から24日にかけて、コンテ政権は、必要不可欠な部門を除く生産活動の停止という政令を発表した。工業連盟(イタリア経団連)は直ちに反対を表明し、操業停止から除外されるべき産業部門の拡大を要求した。政府はこれに譲歩し、自動車産業などを除いた停止命令となった。これまで政労資協定に参加し、生産活動の維持に同意を与えてきた既成の3大労働組合全国組織に批判的な独立労組の諸組合、金属機械労組などは「3月25日ゼネスト」を指令し、医療労働者の組合、活動家も賛同を表明している。
 中道連立のコンテ政権は、3月に入ってからのコロナ情勢の激化のなかで外出禁止令を出していたが、工業連盟が従来どおり生産活動を続行すべきだとして、工場、商業センター、官庁、交通拠点など全産業での操業続行方針を打ち出し、既成の3大労組もこれに同調し、3月11日に政労資三者協定を結んでいた。
 これに対して労働者階級は、「外出が危険だと禁止する一方で、保健・安全対策が不十分な労働条件下の職場に出勤し作業をやれというのか」と不安と怒りを爆発させ、体制内労組の制動を打ち破りストライキを開始した。感染しやすい宅配便や低賃金で劣悪な労働条件の格安航空だけでなくフィアット(自動車)、アルセロール・ミタル(鉄鋼)、フィナンカンティエッリ(造船)などの大資本の工場でも、現場労働者が主導権を握り、次々にストに突入した。マスメディアは「北から南へストの波。職場から『安全なしには働かない』の声」と報じた。
 こうしたなかで、3月12日、独立系諸労組が政労資三者協定に反対して一斉にゼネスト宣言を発した。
 職場労働組合同盟(USB、組合員25万人、建設・公共サービスなど)は、必要不可欠な部門以外での全産業活動の32時間ストを打ち出し、感染拡大中の業務中止、賃金全額補償、社会保障措置、感染危険対処措置を要求した。
 職場委員会連合(S.I.COBAS、自動車・運輸、移民労働者を組織)は「我々は殺されるのを待つ家畜じゃない!」のスローガンを掲げ、工場労働でのマスクの支給、体温測定、衛生管理、労組の指導のもとでの安全・賃金・雇用の保障などを要求した。
 職場組織総連合(CUB、組合員50万人、公共サービスなど)も、スト宣言で、民営化政策が医療制度を崩壊させ、コロナウイルスへの対応不能の状況をつくり出したと弾劾している。
 独立労組は、すでにストで決起した労働者階級の先頭に立ち、自分たちの健康と安全、職と生活、賃金・労働条件を守るのは、労働組合に結集した労働者自身の力だと訴えている。
 医療労働者は、緊縮政策による医療費削減、民営化の推進のなかで、大量人員削減による失業、職場の人員不足、医療設備・機器不足、ベッド不足に苦しんできた。
 こうした医療破壊の中でコロナウイルスが直撃、極限状況にたたきこまれた。この未曽有の危機を打開することができるのは政府や資本ではなく、現場で実際に医療に従事する労働者であり、闘う労働組合だとスト宣言は主張している。

医療水準低下にコロナ直撃

 イタリアの「医療崩壊」は、新型コロナウイルスによって引き起こされたのではない。医療崩壊は、すでに起こっていたのだ。
 イタリアは、1978年制定の国民保健サービス法に基づく公的医療制度の普及度において、イギリスに次いでEU第2の位置を占めていたが、新自由主義下の緊縮政策と民営化政策により公的医療の水準が大幅に下がっていた。
 2007―08年世界金融大恐慌の影響で2兆4千億ユーロを超える公的債務を抱えたイタリアは、ギリシャやスペインなどと並んで国債デフォルトの危機に陥った。ユーロ暴落を恐れた欧州中央銀行(ECB)は、それらの国の国債を買い取り救済したが、社会保障関係費をはじめ公的支出の徹底的削減を義務付けた。極右ベルルスコーニ政権は08〜11年、補足的医療基金を設置し、それを受けた諸政権のもとで08~16年に1人当たりの医療費が4分の1減らされ、758の病院が閉鎖された。また、金持ちのために民間医療機関と民間健康保険が奨励・導入された。その結果、イタリアの医療の水準は激しく低下した。そこに新型コロナウイルスが直撃したのである。

資本主義には解決できない

 イタリアは今なお国内総生産(GDP)比135%に迫る公的累積債務を抱えており、毎年度の予算編成にはEU委員会の許可を必要としている。それに加えて米中対立が激化する世界貿易やイギリスのEU離脱の影響を受け、イタリア経済は昨秋以来、ゼロ成長に落ち込んでいた。そのさなかでのコロナショックでイタリアの株価は40%も大暴落、国債価格も急落した。コンテ首相はコロナ危機対策として250億ユーロ支出すると発表したが、政府財政のあてがなく、EUに財政安定措置による救済を求めた。ECBはこれに応えて12日に1200億ユーロ、18日に7500億ユーロの資産購入(イタリア、スペイン、ギリシャなどの国債購入を含む)を決めた。昨年すでに月200億ユーロのペースで資産購入をしており、今回と合わせて1兆1100億ユーロの大規模量的緩和策となる。実体経済も、EU最大の経済大国ドイツが昨年第3四半期にマイナス成長に陥ったことに加え、今回のコロナ危機によるEU全域に及ぶ生産停止で大幅な収縮は不可避だ。EUは09年を上回る危機的事態に突入しつつある。
 イタリア労働者階級人民は昨年、中道派との連立政権から飛び出して、むき出しの排外主義を叫ぶファシスト勢力(サルビーニの率いる「同盟」)に対して「イワシ(サルディーネ)運動」で攻撃を集中した。資本主義は感染症による社会危機に対処できないことを自己証明した。労働者階級は、人間の命を救うために闘い、新たな社会をつくり出す唯一の革命的階級として自らを登場させつつある。
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