国鉄分割・民営化の破産 JR各社の現状 JR西 尼崎事故後も安全は崩壊 新社長体制で大合理化に突き進む
週刊『前進』04頁(3104号02面01)(2020/02/03)
国鉄分割・民営化の破産
JR各社の現状
JR西 尼崎事故後も安全は崩壊
新社長体制で大合理化に突き進む
(写真 JR西日本を弾劾して19年4月21日に行われた尼崎事故現場までのデモ。JRは現場のマンションをドームで覆い、事故を過去のことにして合理化・外注化を強行しようとしている)
JR西日本は昨年12月1日、社長が来島達夫から長谷川一明に交代した。異例の時期の社長交代は、JR西日本が新たな攻撃に踏み込もうとしていることを示している。来島体制では資本としてもたないところに追い詰められたのだ。だがそれを逆手に、JR西日本は新たな合理化に突き進みつつある。
命にかかわる事故が続発
新社長に就任した長谷川は、「基幹事業である鉄道の安全なくして、当社グループの成長はない」と表明した。安全崩壊を認めざるを得なくなったのだ。JR西日本は2005年4月25日、乗員・乗客107人の命を奪った尼崎事故を引き起こした。その事故現場のマンションを、18年9月、JR西日本はドームで覆い「祈りの杜(もり)」とした。これは、尼崎事故を過去のこととして、新たな合理化に突き進むという宣言だった。
17年12月に起きた山陽・東海道新幹線での台車破断事故は、安全よりも定時走行を優先させた結果だ。その後もJR西日本は、19年4月14日の紀勢本線・御坊駅構内での脱線事故や、同年7月15日の東海道本線・新大阪駅での新快速のパンタグラフ破損事故などを起こしている。
新社長の長谷川は「鉄道の安全」を口にするが、彼は16年に副社長に就任し、非運輸業を統括する創造本部長としてホテル業や不動産事業を主導してきた人物だ。JR西日本は18〜22年度までを対象にした「JR西日本グループ中期経営計画2022」で、18年度に38%だった連結営業収益に占める非運輸業の比率を、30年度に50%弱に高めるという目標を掲げている。
長谷川を新社長に据えた体制は、鉄道業以外のところでもうけを出し、資本として生き残る道に進もうとしているのだ。
メンテナンスはIT任せ
このもとで、鉄道事業での大合理化が進んでいる。「JR西日本グループ中期経営計画2022」は「メンテナンスのシステムチェンジ」を掲げた。その第1弾として「線路設備診断システム」、第2弾として「車両状態監視装置」の運用が開始されている。これは、今まで地上で労働者が行ってきた線路・設備・車両などの検査を、走行中の車両で測定する方式に転換するものだ。
さらに、第3弾として「鉄道MMS(モバイルマッピングシステム)」が2021年度から運用されようとしている。道路分野で使用されているMMSを鉄道分野に応用し、線路上を走行しながら鉄道や周辺設備の3次元位置情報を取得する。従来は人が測っていた建築限界やホーム限界などを車上で測定し、修繕の要否の判定も自動化するという。これにより、JRは現地に行かなくても仮想空間で工事計画や安全対策を検討し、図面・台帳の作成が可能になるという。
メンテナンスをIT機器に任せることで、さらなる要員削減と外注化を進めようとしているのだ。
関連会社の大再編にも本格的に着手
グループ会社の大再編も開始されつつある。大阪環状線の車両の検査・修繕業務を行っている吹田総合車両所・森ノ宮支所では、業務を外注先のJR西日本テクノスからJR本体に戻すことが突然、会社から提案された。これは、外注化の見直しや撤回ではなく、さらなる合理化を進めるための攻撃であり、テクノスの労働者に対する解雇攻撃そのものだ。
大阪環状線の車両は、国鉄時代の旧系列車両から「メンテナンスフリー」の新系列車両に置き換えられた。これにより、大人数が手作業で行ってきた仕事は少人数がユニットを丸ごと交換するだけの作業に変わった。ユニット修理はメーカーに任せ、JR本体は車両の安全に一切責任をとらない体制に転換したのだ。
これを口実にJRは要員を減らしたが、それは要員不足を加速した。業務をJRに戻すという提案は、労働者を犠牲にしてこの矛盾を突破し、さらなる外注化を進めることが狙いだ。
駅は無人化し列車を削減
さらに、みどりの窓口の廃止と駅の丸投げ外注化・無人化が進んでいる。岡山支社管内では、19年6月、山陽本線の里庄駅・上道駅・万富駅・熊山駅と赤穂線の伊部駅・日生駅が無人化された。拠点駅とされた和気駅・瀬戸駅・笠岡駅の係員が担当エリアの無人駅を巡回する体制に変更されたが、特に和気駅の巡回エリアは広範囲のため、駅員に労働強化が押し付けられている。無人化された駅では、トイレ備え付けのトイレットペーパーやごみ箱が撤去され、利用者に不便を強いている。
また、岡山駅地下改札の外注化が提案されている。JR東日本が秋葉原駅を丸ごと外注化したのと同様、JR西日本もターミナル駅の丸ごと外注化に踏み込もうとしているのだ。
これに加え、中国地方でワンマン列車の増加や昼間の列車本数の削減が続いている。山陽本線は糸崎駅で系統分離され、瀬戸大橋線の普通列車は児島駅で系統分離されて直通列車はなくなり、乗客はこれらの駅で乗り換えなければならなくなった。今年3月14日のダイヤ改定では、米子支社管内で普通列車の本数が削減されようとしている。
吉備線を路面電車化する計画も、真の狙いは岡山気動車区の廃止と津山線のバス転換にある。吉備線をJRから切り離して別会社化し、自治体に設備を維持するためのカネを出させるとともに、吉備線の業務に携わる労働者を解雇しようとしているのだ。
JRは、地方を切り捨てるだけでなく、近畿圏でも在来線の最終列車の運行時間を早めることを打ち出した。「労働環境改善」「働き手の確保」を口実にしているが、鉄道事業からの脱却に向けてJR資本は動いている。
万博を当て込んで大阪駅周辺再開発
その象徴が、23年春開業を予定してJR西日本が大阪駅北側の地下で建設を進める「うめきた駅」(仮称)の新設と、大阪駅周辺の再開発だ。これは、25年の大阪・関西万博や大阪へのカジノ施設の誘致を当て込んで、大規模な商業ビル、オフィスビルを建てることで大もうけしようという計画だ。JR西日本は、この「うめきた駅」に、あらゆる車種・編成に応じて開口部を構成できるホームドアを設置するとして、その開発に着手している。入線する車種をセンサーで判別し、乗客の動きもセンサーで検知して安全を確保するというが、その狙いは、運転保安要員であるホームの立ち番を廃止することにある。
安全を一層破壊して合理化を進めるJR西日本に対し、動労西日本は組織破壊攻撃を許さず、ストライキも辞さず闘い、JRとグループ会社を貫く組織拡大で反撃に立とうとしている。