監視国家化ゆるすな マイナンバーの恐るべきわな 全社会デジタル化へ巨額予算

週刊『前進』04頁(3100号03面01)(2020/01/20)


監視国家化ゆるすな
 マイナンバーの恐るべきわな
 全社会デジタル化へ巨額予算


 政府のデジタル・ガバメント閣僚会議は12月20日、社会全体のデジタル化を進め、2024年度までにマイナンバー(個人番号)カードを使って行政手続きの9割をオンライン化する計画をまとめた。それは国が住民の全個人情報をデジタル化して監視するシステムの構築を意味する。改憲を先取りする大攻撃だ。

全情報の違法な統合進む

 政府はマイナンバー制度を拡充して、手続きに必要だった登記事項証明書や戸籍など一切の書類を不要にし、パスポートの申請やハローワークなど様々な手続きのオンライン化を目指す。マイナンバーを打ち込むだけで済むということは、住民のあらゆる情報がデジタル化され名寄せ(統合)・ひも付け(関連付け)されていることが前提となる。国にとっては、その情報を瞬時にどのように使うことも可能となるシステムが完成するということを意味する。(表)
 政府は「ナンバーカード普及へ利便性を高める」と称して、21年3月にはナンバーカードを健康保険証として使えるようにし、22年度中にほぼ全ての病院で顔認証による本人確認を可能にし、23年度からはナンバーカードと介護保険証を一本化するという。その時点で保険証を持つ全ての人の情報が一元監理されているということだ。さらにナンバーカードを住民票、運転免許証、図書館カードの代わりにさせ、医療データ、税や社会保障、資産、渡航履歴、買い物や映画、読書傾向、使った交通機関などあらゆる情報をデジタル化して一元的に掌握できるようにすることを狙う。それは単に「カードの普及率」だけの問題ではない。
 国が個人情報を統合・監理することは憲法違反だ。これまで自治体や病院、銀行などは業務の必要に応じてばらばらに扱ってきた。憲法の柱である人権と民主主義の根幹にかかわるからだ。これに対し政府はマイナンバー制度を「小さく産んで大きく育てる」として国会でまともに議論することもなく、13年制定の「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」(番号法)を三十数回も改悪してきた。個人情報の名寄せ・ひも付けが知らない間に進行している。

AI・顔認証で治安弾圧

 中国では16歳で写真入り身分証を持たされ、監視カメラは16年時点で1億7600万台(日本は500万台)。今年までに、都市全体がデジタル化された100の新「スマートシティ」(日本でも導入されようとしている)などでAI(人工知能)と顔認証設備の構築を進めて6億台にし14億人の国民を3秒以内に特定することを目指すという。駅、通り、スーパー、団地などあらゆる場所にカメラが設置され、信号無視、車内喫煙、借金滞納などでペナルティーが科せられて飛行機や高速鉄道のチケットが買えなくなるなど、住民生活での徹底したランク付けと罰則が拡大。社会全体と個人に対する国家の統制が際限なく強化され、当局への陳情や批判行為なども監視され弾圧されようとしている。新疆(しんきょう)ウイグル自治区の首府ウルムチでは監視カメラの動体検知機能で、旗を振るような動作をするとすぐに警官が現れる。インターネットの検閲も広がり、集会を呼びかける行為は徹底して弾圧されているという。
 米中央情報局(CIA)と国家安全保障局(NSA)の元職員、スノーデン氏が13年に暴露した秘密文書には、AIでパキスタン人5500万人の携帯電話の通信・通話記録を分析し「テロリストをあぶりだす」説明文書が存在。無人航空機(ドローン)を使った殺害が繰り返されてきたが、そのために使われた可能性が高い。米連邦捜査局(FBI)では、16年の時点で出入国ビザ(査証)や運転免許証などからも集めた4億1190万枚の顔写真を対象とした検索と選別が行われているという。
 日本政府もまた東京五輪警備と称して街頭や駅、公共施設などでの監視カメラと顔認証技術、マイナンバーカードを使った違法な個人情報の掌握と常時監視に乗り出そうとしている。絶対に許してはならない。

EUでは情報処理を制限

 こうしたAIを使った治安国家化の攻撃は、労働者人民の反乱と革命的決起に追い詰められた各国支配階級の絶望的なあがきだ。これに対して香港をはじめ世界中で弾圧をはね返す巨大デモとストライキが巻き起こっている。
 EU(欧州連合)は巨大IT企業と監視社会化への怒りが噴出する中で、18年に個人情報を保護する「一般データ保護規則」を施行。様々な抜け道があるとはいえ、個人データに基づく自動処理には「プロファイリング(選別・分類・判定)されない権利」が盛り込まれた。人種・民族、宗教・思想・政治信条、労働組合加入、遺伝子や生体情報、性生活・性的指向に関するデータに基づく自動処理はたとえ同意を得ても行ってはならないとされる。
 その背景にはナチス・ドイツによるユダヤ人や少数民族、障害者の大量虐殺、労働組合弾圧と戦時動員、戦後の東欧スターリン主義諸国のような監視・盗聴社会を繰り返さないという人民の強い意志がある。とくにドイツでは共通番号制度だけでなく国勢調査さえ憲法違反とされている。

福祉削減・職員半減狙う

 ナンバーカードの普及率はいまだ15%に満たない。政府は23年3月末にほぼ全ての住民がカードを保有する目標を掲げ、膨大な予算を投入し続けている。
 労働者人民の反乱におびえる中国政府は顔認証・AIなどに軍事予算以上の巨額予算を投入。安倍政権も年間予算が5兆円を超えた防衛費に依拠する軍需産業に次ぐ巨大産業として治安産業を肥大化させようとしている。戦争と監視国家化の巨大利権に政治家と資本家、官僚が群がっている。
 マイナンバーは税の取り立てと社会保障給付削減のための議論から始まった。命にかかわる重大問題だ。総務省・自治体戦略2040構想は人口縮減時代ではデジタル化とAIの活用、非正規職化と民営化で職員を半減することが欠かせないとした。さらに同省スマート自治体研究会はAIに介護のプランを提案させたり、保育所の入所選考をさせることを例示した。こうしたAIによる選別と福祉削減、自治体職員半減にマイナンバー(カード)が使われようとしているのだ。

カードを拒否し番号制度廃止へ

 安倍首相は年頭で「国のかたちに関わる大きな改革を進める。その先に改憲がある」と公言した。ナンバーカードを水路とする全社会のデジタル化は、「国の形を変える」全世代型社会保障改革、働き方改革との重大な激突点だ。
 それは自治体における闘いで粉砕することができる。公務員労組の多くがカード強制に反対し当局から「強制ではない」という言質を引き出している。デジタル合理化による総非正規職化と民営化に絶対反対する闘いが監視国家化・戦争国家化を阻む。あらゆる怒りを結集し、総背番号制廃止へ闘おう。

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政府の全社会デジタル化計画

●2019年度中 全ての公務員がナンバーカード取得
●2020年度 ナンバーカードの使用で「自治体ポイント」付与
●2021年3月 ナンバーカードを健康保険証として使用可能に
●2022年度 ほぼ全住民が保有/ほぼ全ての病院で顔認証による本人確認を可能に
●2023年度 ナンバーカードと介護保険証を一本化
●2024年度までに行政手続きの9割をオンライン化
→国が住民の全個人情報をデジタル化して監視するシステムの完成

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