パワハラを免罪するな 厚労省が過労死促進指針 命と権利守る労働組合の闘いを

週刊『前進』02頁(3091号02面01)(2019/12/05)


パワハラを免罪するな
 厚労省が過労死促進指針
 命と権利守る労働組合の闘いを


 厚生労働省は11月20日、パワーハラスメント(パワハラ)の判断基準となる指針案を労働政策審議会の分科会で確認。年内に確定しようとしている。しかし指針案は経営側の要望どおり、わざわざ「パワハラに該当しない例」まで示した。「パワハラを助長し過労死を促進する」と、強い反対の声が上がっている。

「業務上必要」と言い逃れ

 10月に指針素案が公表されて以降、日本労働弁護団は「使用者にパワハラに当たらないという言い訳を許し助長しかねない、ないほうがまし」として抜本的な修正を求めてきた。しかし審議会では経団連など経営側の主張が尊重され、「パワハラに該当しない例」の入った案が労働者側委員(連合役員)も含めて同意し承認された。絶対に許されない。
 指針案は第一に、パワハラの定義と範囲を意図的にせばめ、使用者(資本・当局)の責任をきわめて限定的なものにした。「パワハラではない、責任はない」という言い逃れを最大限許すものだ。
 パワハラとは、職場において行われる①優越的関係を背景とした言動、②業務上必要かつ相当な範囲を超え、③労働者の就業環境が害されるもので、①から③までの全てを満たすものであると定義した(表)。
 場所は業務を遂行する職場などに限定。パワハラが多発する上司・先輩・同僚などとの会食の場、飲み屋などは除外された。酒食の席で上司が部下を罵倒したりけがをさせたりすることがある。それはパワハラではないことになる。
 また、①から③の要件のどれか一つでも欠ければパワハラとみなされない。
 ①の「優越的関係」とは「抵抗または拒絶できない蓋然(がいぜん)性が高い関係」だと規定することで、使用者に「そうした関係ではない」という言い逃れ、反論を許す。さらに②について「業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については該当しない」と明示した。労働者に対するパワハラのほとんどは、資本・当局の「業務上必要な指示や指導」の名のもとに行われてきた。それに公然とお墨付きを与えたのだ。

隔離部屋、仕事はずしも不問に

 指針案は第二に、「パワハラに該当しない例」を多数挙げて、使用者の悪用に道を開くものとなった。
 まず、「社会的ルールを欠いた言動が改善されない労働者、重大な問題行動をした労働者に対して一定程度強く注意することは該当しない」とした。「社会的ルール」「重大な問題行動」の内容が不明確なまま、「強く注意する」ことが認められるなら、労働組合の組合員つぶしでもなんでも許されることになる。
 処分を受けた労働者を復帰させるために一時的に別室で研修を受けさせることも該当しない。「一時的」とはどれだけの期間か。労働者を孤立させ追い出す隔離部屋送りに悪用される。また、能力に応じて業務量を軽減することも除外した。「能力」を口実に「仕事はずし」がいくらでもできることになる。
 使用者が家族の状況などのヒヤリングを行う、本人の了解を得て個人情報を人事部門に伝えることも不問にした。資本・当局による労働者の個人情報の取得を許し、圧力とすることが可能となる。個人攻撃、組合破壊の不当労働行為も認められるということだ。
 きわめて重大なのは、繁忙期に業務上の必要性から通常時よりも多い業務を任せることはパワハラに該当しないと明示したことだ。
 多くの労働者を過労死・過労自殺に追い込んだものこそ、過重労働・長時間労働であった。「繁忙」と人員不足は一体の問題だ。それを「業務上の必要」と称して1日8時間、週40時間を超える長時間労働を強いることは、それ自体がパワハラと不可分の違法行為だ。それを厚労省の指針として許すことは、労働者の過労死・過労自殺をさらに促進することになる。絶対に許されない。

過労死家族の訴えを聞け

 11月には全国各地でシンポジウムがもたれ、パワハラによる過労死・過労自殺で肉親を奪われた家族から痛切な訴えがされた。
 2015年に電通に入社し過労自殺に追い込まれた高橋まつりさんの母・幸美さんは必死の思いで各地を回り講演した。まつりさんはネット広告の部署に配属されると深夜残業が続き、53時間会社にいたこともあった。パワハラの中でうつ病を発症し、12月25日に自殺した。幸美さんは「娘の会社は長時間労働やハラスメントが社風だった。娘はたった数カ月で精神的に追い込まれた」「過労死した若者は娘だけではない。今も長時間労働に苦しむ人がいる」と訴えた。
 東京集会で滋賀大学の大和田敢太名誉教授は「過労死の陰にはハラスメントがある」と指摘。多くの親や弁護士が発言した。中部地方の21歳の女性はハラスメントや長時間労働で自殺した。いじめを訴えたが、配転先の仕事も大変でいじめも続いた。彼女は自殺の前夜、上司から自宅にかかってきた深夜の電話でも叱責されていた。

「働き方改革」と一体で命を奪う

 過労死・過労自殺が多発している。昨年度の脳・心臓疾患の労災・公務災害認定件数は253件(死亡89件)、精神疾患は500件(未遂含む自殺は89件)に達した。それを一層促進するのがパワハラ指針だ。
 11・3労働者集会で東京過労死を考える家族の会の中原のり子さんは「過労死は社会的な殺人だ」と訴えた。職場の団結が破壊されたときパワハラといじめ、長時間労働が横行する。職場に労働組合がない場合や組合が御用組合という中で労働者が殺されている。労働者の権利と健康を破壊し命を奪う犯罪を許してはならない。安倍政権の改憲への突進は労働者の命を国と資本のために捧げろという攻撃であり、これが「働き方改革」とパワハラ指針の正体だ。労働組合の闘う団結をよみがえらせてパワハラ指針粉砕へ闘おう。
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