日米貿易交渉が最終合意 対日争闘戦貫く米トランプ 全面対立への発展は不可避

週刊『前進』02頁(3075号02面04)(2019/10/10)


日米貿易交渉が最終合意
 対日争闘戦貫く米トランプ
 全面対立への発展は不可避

今回は第1段階対立は一層激化

 9月25日に開かれた日米首脳会談で日米貿易交渉が妥結した。日本が牛肉・豚肉などの輸入関税をTPP(環太平洋経済連携協定)水準まで引き下げた一方で、米国の自動車輸入関税撤廃は見送られた。ライトハイザー米通商代表部(USTR)代表は「我々は農業の圧倒的大部分を手に入れた。(米側の)乗用車や自動車部品は含めなかった。我々が(関税削減などの譲歩で)支払った分は日本よりもずっと少ない」と誇っている。日本側の「成果」などほとんどなく米国に一方的に押し込まれた。
 しかもこれは農業分野を優先した「第1段階」の協定であり、米国側が包括的なFTA(自由貿易協定)をめざす「第2段階」では医薬品や金融での日本市場開放や為替条項などのテーマが控えている。米国が検討中の通商拡大法232条に基づく自動車への追加関税も狙われている。双方が危機を深めながら、貿易をめぐる対立はより一層激化していかざるをえない。

米国産牛・豚肉の関税は引き下げ

 昨年9月に交渉入りで合意し、今年4月に交渉開始した貿易協定は、異例の早さで決着した。TPP離脱による輸出競争力低下と対中貿易戦争での報復関税が米農業を直撃する中で、来年の大統領選に向けて成果がほしいトランプが合意を急いだからだ。
 現在38・5%の米国産牛肉への関税率は協定発効後、26・6%に下がり、16年目には9%になる。トランプは共同記者会見の場に米牛肉生産団体の幹部を招き、これをアピールしてみせた。安倍の側は「TPP水準を守った」と主張しているが、それ自身が日本の農業を破壊する大攻撃だ。

日本車への関税撤廃は見送りに

 その上で、〈日本の農業を犠牲にして、自動車など輸出産業の利益を確保する〉というのが日本のTPP戦略の核心だったが、今回の米帝との二国間貿易交渉でこれ自身が破綻した。
 米国が離脱する前のTPPでの合意では、自動車関連の関税については、乗用車の関税率(2・5%)は25年目に撤廃、自動車部品(主に2・5%)は87%の品目で即時に撤廃することになっていた。しかし今回の合意では、関税率をまとめた米側の表に「さらなる交渉による関税撤廃」と記されただけで、部品も含めて関税撤廃は先送りされ、時期も示されなかった。25%の関税がかかるピックアップトラックは、交渉対象にも入っていない。
 さらにトランプ政権が狙う通商拡大法232条に基づく輸入車への追加関税の問題は未決着だ。米政権は232条に基づく調査で、輸入車が米国の産業基盤を弱め安全保障上の脅威となると認定し、日本やEU(欧州連合)については11月までに最大25%の追加関税発動を判断するとしている。この追加関税発動の回避で合意することは日本側にとって最大の目標だった。しかし共同声明には「日米両国は協定及び共同声明の精神に反する行動を取らない」との従来からの文言を盛り込んだだけで、発動回避については何一つ明記されなかった。
 日本車の対米輸出台数への数量規制もいま一つの焦点であったが、数量規制をかけないことは「閣僚間で確認」しただけだ。
 日本の米国への自動車・同部品の輸出額は、対米輸出全体の約35%を占めている。日本車の世界販売台数に占める米国での販売の比率も25%に上る。日帝にとって自動車産業と北米市場の位置は死活的だ。ここでの敗勢は日本経済の根幹を揺るがす。自動車産業をめぐる攻防を軸にした日米争闘戦は非和解的激化へ向かって新たな段階に入った。

危機深め改憲に走る安倍倒そう

 今回の合意は、米国にとって農業分野を優先した第1段階でしかない。第2段階については、20年1月とされる協定発効後、4カ月以内に交渉分野についての協議を終える「意図だ」と共同声明に記された。5月以降に交渉が始まると言われている。トランプも会見で「かなり近い将来、はるかに包括的な協定にサインするだろう」と述べた。
 米通商代表部が昨年末に公表した対日交渉目的では、米国が優位に立つ金融や情報通信などのサービス分野での日本市場開放について議論するとされている。米製薬会社の利益と直結する医薬品や薬価制度なども議題に上がっている。
 さらに米通商代表部は通貨切り下げを禁じる為替条項も要求するとしており、米財務長官は4月に「協定には為替条項を含めることになる」と述べた。為替条項が導入されれば、日銀の金融緩和策も円安政策だとして問題視され、制裁対象になる可能性が出てくる。
 本格化する日米貿易交渉は、日帝の存立基盤を揺るがす対日争闘戦を激化させ、貿易戦争・為替戦争としての全面的激突に道を開く。米帝の対中貿易戦争も、日帝も含めたアジア型生産体制―サプライチェーン(部品供給網)を破壊することを一つの大きな狙いにしており、根底に対日争闘戦が貫かれている。製造業の国内基盤と輸出競争力を失った米帝は、軍事と通商を一体化させ、戦後世界体制の枠組みを破壊することによってしか延命の道を見いだすことができない。
 日帝・安倍政権は米帝の対日争闘戦に追い詰められながら、日米安保の強化と改憲による独自の戦争国家化へと踏み込んでいくしかない。労働者国際連帯で日米帝国主義を打倒しよう。

このエントリーをはてなブックマークに追加