芸術への検閲は戦争への道 「不自由展」に補助金不交付
週刊『前進』04頁(3074号01面02)(2019/10/07)
芸術への検閲は戦争への道
「不自由展」に補助金不交付
再開協議への報復
愛知県で開催されている国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」の中の企画展「表現の不自由展・その後」をめぐる一連の問題は、安倍政権が狙う改憲の正体を示すものだ。この展示は、さまざまな理由から別の会場で公開できなかった作品を紹介するもので、テーマは天皇制や軍隊慰安婦、原発事故、米軍基地、安倍政権批判など多岐にわたっていた。
しかし、日本軍軍隊慰安婦とされた女性を象徴する「少女像」や、昭和天皇の肖像が燃やされる映像などを展示することに対してテロ予告や脅迫が殺到したことから、8月1日の開幕から3日間で中止に追い込まれた。この衝撃的な展開に対し、直後から芸術家や市民を中心に再開を求める声が広がっていた。
こうした中で、愛知県の検証委員会さえもが展示の中止について「一部の作家が実質的検閲と認識している」と認め、速やかな再開を求める中間報告を提出。その後の協議で、早ければ10月6日に展示が再開されることが決定した。
しかしこれに対して、直ちに露骨な弾圧が強行された。文化庁が、あいちトリエンナーレ全体を「文化資源活用推進事業」として採択を決めていた補助金約7800万円の全額を交付しないと発表したのだ。
文科相・萩生田光一はその理由として「手続きの不備」を挙げ、「展示内容の是非は不交付の理由ではない」としているが、これが再開協議に対する恫喝を目的とした政府の弾圧であることは明らかだ。右翼の卑劣なテロ予告を追認し、これを利用して「政府の意に沿わない者に金は出さない」と見せしめにし、行政や美術館、芸術家に国家への服従と自主規制を強要するものだ。かつて歩んだこの道の先には戦争があり、芸術家の戦争動員があった。安倍政権の一線を越えた暴挙に対し、続々と怒りの声が上がっている。
事実上の改憲攻撃
この展示への「抗議」の殺到は、「ネトウヨ内閣」とやゆされる安倍内閣の閣僚を筆頭とする極右政治家らが、日帝の戦争犯罪の歴史的事実を打ち消そうと「少女像」を目のかたきとし、徴用工への賠償を求める韓国最高裁判決に無視を決め込み、韓国への敵意をあおり続けてきた結果だ。国家権力を背景とするこのような暴挙を許せば、今後も政権の意に沿わない美術館での展示の一切が禁圧され、一方で天皇や旧日本軍、旭日旗を称揚する作品ばかりが公然と展示されることになる。「表現の不自由展・その後」に出品した作家は、政府の措置は「ある種の文化統制」であり、われわれは自由を放棄するのかどうかの瀬戸際に立っていると語った。
メディアに圧力をかけて韓国への敵意をあおる番組をどんどん流させる一方で、自国政府や大企業の腐敗は徹底的に隠蔽(いんぺい)する——現在の状況は異常としか言いようがない。かんぽの不正販売問題を追及した番組をめぐって日本郵政グループがNHKに圧力をかけていたことも発覚した(記事2面)。社会の隅々において、憲法を公然と踏み破る暴挙が相次いでいる。改憲は、すでに始まっているのだ。
「こんなことを許したら戦争になる」「明日はわが身だ」という怒り・焦りは社会に満ちている。この怒りを一つにまとめ上げ、安倍を倒すうねりにしよう。国際連帯で闘う労働組合こそが、その先頭に立とう。