米中対決は戦争への道 軍事力を背景に保護主義で世界体制破壊するトランプ

週刊『前進』04頁(3064号04面01)(2019/09/02)


米中対決は戦争への道
 軍事力を背景に保護主義で世界体制破壊するトランプ


 米中対決が、さらなる激化へ向かって急速に展開し始めた。米トランプ政権は、6月末の米中首脳会談での「合意」をわずか1カ月で完全にほごにし、次々と対中強硬政策を発動している。ついには中国からの全輸入品を対象とする制裁関税第4弾にまで行き着き、さらに貿易戦争は為替戦争へと拡大している。こうした中で追い詰められた日帝・安倍政権は、排外主義をあおり立てて改憲と戦争国家化の道を突き進んでいる。今こそ韓国をはじめ世界の労働者と団結し、改憲・戦争阻止の闘いの爆発で安倍政権を打倒しよう。

非和解化する米中経済戦争

 トランプは米中高官級の通商協議直後の8月1日、制裁関税第4弾として中国からの輸入品のうち総額3000億㌦分への10%の追加関税を9月1日に発動すると表明した(その後、スマートフォンやパソコン、衣料品など1560億㌦分への適用は12月15日に延期した)。ついに中国からの全輸入品が対象になる。
 さらに8月5日、米財務省が中国を25年ぶりに、輸入品への関税引き上げなどの制裁措置の対象「為替操作国」に指定した。米財務省は、中国が「通貨安に向けて具体的な行動を取った」「国際貿易で不公正な競争優位を得るのが目的だ」と言うが、IMF(国際通貨基金)ですら年次報告書で「中国人民銀行による為替介入はほとんどみられない」と指摘している。
 6月末に輸出規制の緩和で合意していたファーウェイ(華為技術)については、緩和内容はまったく具体化しない一方で、8月19日に46の関連企業を新たに規制対象に加えた。13日には昨年成立した「国防権限法」に基づいて、ファーウェイなど5社から米政府機関が製品を調達するのを禁じる措置を発効させた。また原発最大手の中国広核集団を、原子力技術を軍事転用しているとして、事実上の禁輸リストに加えた。ハイテク(先端技術)部門での中国締め出しを徹底的に強化している。
 中国政府は23日、第4弾への対抗措置として、米国からの輸入品750億㌦分への5〜10%の追加関税を発表した。また、昨夏に一旦発動し、その後課税を停止した自動車・部品に対する最高25%の追加関税措置を12月15日に復活させることも発表した。
 これにトランプは激甚に反応し、同日直ちに1〜3弾計2500億㌦分の追加関税を25%から30%に、9月1日からの第4弾も10%から15%に引き上げることを表明した。
 このように、8月に入って米帝がもう一段強硬姿勢を強め、対立は後戻りのきかない非和解的激突になっている。

米帝の没落が一切の根底に

 米中対決の非和解化を生み出している最大の原因は、戦後体制の基軸国である米帝の没落だ。国内でサプライチェーン(部品供給網)と製造業資本の根幹を失った米帝は、中国を最終組み立て工程とした国際分業体制を徹底的に破壊することなしには存立できないところまで行き詰まった。
 自動車・鉄鋼などの基幹的製造業において日本・ドイツ資本との競争に敗退してきた米帝は1990年代以降、IT(情報技術)産業化と株式投資主軸のあり方へと転換することで延命した。こうして製造業が衰退を深める一方、GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)などの巨大資本が中心を占めるようになる。GAFAはインターネット上のサービス提供で世界市場を席巻し、広告収入やネット通信販売などで巨額の利益を上げた。18年の利益合計は約13兆円、19年6月末の時価総額は約340兆円だ。
 この米経済の構造は、投機的資本と結びついた資本家階級が巨額の富を独占する一方で、伝統的製造業の労働者である「ミドルクラス」=中間層を没落させて解雇・低賃金・非正規職化・貧困にたたき込み、極限的格差をつくり出した。
 製造業の衰退と中間層の没落、社会の崩壊という階級支配の危機を背景に登場したトランプ政権は「米国を再び偉大に」を掲げ「製造業の復活」を叫んだ。オバマ前政権が推進したTPP(環太平洋経済連携協定)のような自由貿易の推進によって輸出市場を確保する道には、何ひとつ展望を見出すことができなかったのだ。さらに製造業の根幹を失った米帝はアジアを拠点とする生産体制に割って入ることもできず、世界支配の影響力を失ってきたことで、「世界の警察官」として軍事支援や援助の名目で市場を確保することもできなくなった。
 だからこそ「米国第一」を掲げ、保護主義を前面化し、軍事力を背景に戦後体制的枠組みと国際分業体制を一旦徹底的に破壊する道に踏み込んでいる。それが米中対決を非和解化させている根本要因だ。

ハイテク分野をめぐる対立激化

 さらに、ハイテク分野での激突は死活的だ。それは、戦後体制の柱であった絶対的軍事力と90年代以降のIT産業化を土台に築かれてきたハイテク分野での圧倒的優位性が米経済の唯一の牽引(けんいん)軸となり、米帝をいまだ基軸国たらしめている決定的要素だからだ。ここでの敗北は、米帝を最後的な崩壊にたたき込む。しかも、5Gなど通信インフラをめぐる争いは軍事にも直結する。その危機感からファーウェイなどを米国市場から締め出し、たたきつぶそうとしているのだ。
 しかし他方で、ハイテク分野ですら、具体的な生産・製造工程は中国を抜きには成り立たない。米帝を代表する企業になったアップルは、中国の工場に低賃金構造の製造委託体制を築くことで巨額の利益を手にしてきた。米クアルコムなど半導体企業は設計・開発に特化し、やはり中国で生産する体制を築いてきた。
 こうして深く結びついているがゆえに、どんなに自身にとっても破局的であろうが、この米企業のあり方も含めて生産体制全体を破壊しなければならなくなっているのだ。それは世界経済を分裂・対立にたたき込みながら、対抗的なブロックを形成していくものとなる。

大恐慌の爆発が世界戦争へ

 貿易戦争と一体で大恐慌が再爆発し、世界戦争へ進むことは不可避である。
 一つに、空前の恐慌対策としての低金利と量的緩和策による延命策によって、低格付け企業への融資を証券化したCLO(ローン担保証券)がリーマン・ショック前以上に膨れ上がるなど、巨大なバブルが醸成されている。しかも米FRB(連邦準備制度理事会)が7月末に09年以来10年ぶりの利下げに踏み切ったことは、緩和策による危機抑え込みの準備をすべて失うことを意味する。
 二つに、中国への為替操作国指定は世界を通貨安競争に本格的にたたき込む。
 三つに、G7(主要7カ国)やG20(20カ国・地域財務相・中央銀行総裁会議)などの国際協調的枠組みの崩壊である。8月のG7サミットでは、発足後初めて、文言を詰めた首脳宣言を採択することができなかった。いずれの国も経済危機と政治危機に直面し、米帝の貿易戦争と保護主義の激化に対してもはや協調的融和的にまとめることもできなくなり、先を争って対抗的な「自国第一」主義の道を深めていくしかない。リーマン・ショックから大恐慌の本格的爆発を一時的にであれ抑え込んできた国際協調的枠組みが、ついに崩壊の時を迎えた。
 四つに、貿易戦争が国際的な生産構造を破壊するものである以上、金融恐慌がストレートに製造業を軸とした産業全般の恐慌へと急発展することは不可避だ。
 大恐慌の再爆発と一体で米帝は一層「自国第一」主義を強め、これを最大の動力として不可避的に世界戦争情勢が激化していく。

安倍の戦争外交は危機の表れだ

 こうした大恐慌と世界戦争情勢が、安倍政権を絶望的危機にたたき込んでいる。米帝の対中対決は同時に、日帝、さらに中国市場と深く結びついたドイツ帝国主義に対する争闘戦としてある。とりわけ、北米とともに東南アジアに生産拠点を築いてきた日本の自動車産業は最大の焦点だ。
 日米通商協議をめぐっては、8月の閣僚級協議とG7サミット過程の首脳会談で、日帝は牛肉など農産品の関税についてTPP水準への引き下げを容認する一方、自動車の輸入関税撤廃については先送りを余儀なくされた。
 争闘戦に追い詰められながら、安倍政権は自ら戦後的秩序を破壊し軍事大国化と改憲に突き進む以外にない。経済と軍事を結びつけたむき出しの戦争外交として韓国への経済制裁―貿易戦争にも踏み込んでいる。国際連帯を力に巨大な改憲・戦争阻止闘争を巻き起こし、安倍政権を倒そう。
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