「2千万円必要」に怒り 年金制度解体を許すな(上) 「自助努力」迫る金融庁報告

週刊『前進』02頁(3047号02面01)(2019/06/27)


「2千万円必要」に怒り
 年金制度解体を許すな(上)
 「自助努力」迫る金融庁報告


 「夫婦で95歳まで生きると、年金以外に2千万円の蓄えが必要」という金融庁・金融審議会の報告書に、労働者民衆の怒りが噴出している。諮問した財務相・麻生太郎は追い詰められて報告書の受け取りを拒否し、首相・安倍晋三も「政府の政策スタンスとも異なる」とする答弁書を閣議決定した。怒りをかわすことに必死だが、本音は〝老後の生活は自助努力でまかなえ。年金などあてにするな。2千万円貯蓄できなければ、働き続けるか野垂れ死にしろ〟ということだ。公的年金制度を解体して死ぬまで働かせることが安倍の基本政策だからだ。

「ふざけるな」「詐欺だ」の声

 怒りの的となっているのは、金融審議会市場ワーキング・グループによる「高齢社会における資産形成・管理」指針(案)。金融庁としては初の指針案で、5月22日にまとめられ、翌朝の朝日新聞が「細る年金 自助促す」の見出しで1面トップで報じた。
 その直後からネット上には労働者の怒りの声があふれ、炎上した。「ふざけんなよ。払った金は返せよ。積み立てのつもりで払ってるんだから(国民年金保険料は月額1万6410円。学生も)」「自助に期待するなら年金徴収やめろ」「詐欺だ」。制度への不信と共に、労働者の現実を無視した内容への怒りが噴き出た。「金融庁が出している図は、退職金が1千万円出ることが前提のプランだ。終身雇用制がほぼ崩壊しているのに」「非正規雇用で資産形成できない人はどうするんだ」「資産形成を促すなら、給料が増えるようにしろ」
 怒りはネット上では収まらず、6月16日の「年金返せ」を掲げた東京・日比谷での抗議デモには2千人が参加した。デモをツイッターで呼びかけたのは35歳の労働者だ。参加者は、25歳のIT企業営業職労働者、37歳のアパレル関連労働者、家族3人で参加した17歳の高校生など。青年・学生が誰よりも怒りと危機感を持っている。
 「香港のデモに勇気付けられた」という29歳の2人組は、「政府が(個人に)丸投げする姿勢はありえない」と憤る。3歳の子・妻とともに参加した41歳の労働者は「老後資金2千万円」を「ただごとではない」と感じ、30歳のフリーターは「死ねと言っているようなもの」と弾劾する。
 安倍や麻生は、金融審議会の報告書を「なかったもの」にするために躍起となっている。6月19日に提出された財政制度等審議会(財務相の諮問機関)の建議(意見書)では、「自助努力」に関する一文を削除し、私的年金にも言及しなかった。いずれも昨年の意見書には明記されていた。こんなペテンは許さない。

この賃金で貯蓄ができるか

 三十数年続いた新自由主義のもとで、労働者の非正規職化は徹底して進められてきた。全労働者に占める非正規職の割合は4割に迫っている。日々の生活さえままならない低賃金を強いられている非正規労働者には、生涯働き続けたとしても「2千万円を貯蓄する」見通しなどもてない。
 日本の労働者の賃金は時給換算で20年間に9%下落したというOECD(経済協力開発機構)の発表は、大きな衝撃を与えた。これを裏付けるように、1997年に467万円だった給与所得者の平均年収は、2017年には432万円と、35万円も落ち込んでいる。これは、あくまで正規労働者も含む平均値だ。非正規労働者の平均年収は175万円で、それは正規労働者の年収の約35%にすぎない。
 2016年の「国民生活基礎調査」では、年収100万円未満の世帯が全世帯の6・2%、年収100万円以上200万円以下の世帯が13・4%となっている。年収200万円以下の世帯が約2割に達しているということだ。1人あたりの収入ではなく、世帯の収入で200万円未満という状況は深刻だ。
 この現実で、貯蓄などできるわけがない。同じく2016年の「国民生活基礎調査」では、「貯蓄がない」世帯は年収100万円未満の層で32・9%、年収100万円以上300万円未満の層で23%になっている。この統計には、借金の有無は反映されていない。貯蓄があったとしても、借金があれば実質的な貯蓄はゼロに等しいかマイナスになってしまう。
 世代別に見ると、70歳以上の高齢者の世帯でも「貯蓄なし」が28・7%になっている。「2千万円の貯蓄」など、現実には無理なのだ。「老後の備えは自己責任で」と叫ぶ安倍は、こうした人たちに「死ね」と宣告したに等しい。
 さらに、20歳代では「貯蓄がない」世帯は43・5%を占める。社会保険にも加入しない「ブラック企業」が横行し、年金どころか医療すらまともに受けられない状態で、どうして貯蓄などできるのか。

「死ぬまで働け」と叫ぶ安倍

 現在、60歳から支給されていた厚生年金の上乗せ部分を65歳に遅らせる過程にある。2013年から始まり、男性(公務員は男女共)は25年に、女性は30年には全員65歳からになる。今年4月2日以降に54歳になる男性、同じく49歳になる女性すべてが該当する。60歳を過ぎても働かなければならないのは無年金、低年金に加えて、上乗せ部分を奪われているからだ。
 さらに安倍政権は、この年代以下の全員の年金支給開始年齢を70歳以上に引き上げようとしている。6月21日に閣議決定した経済財政運営の基本方針(骨太の方針)は、「70歳までの就業機会を確保するための法整備」を打ち出した。
 他方、財務省の財政制度等審議会は、4月に出した答申で、年金の受給開始年齢を70歳以降に先延ばしにする選択肢を設ける方針を打ち出した。年金は原則65歳から支給されるが、支給開始を66〜70歳まで先延ばしにした人には、年金額を割り増しする制度がある。それを、70歳以降にも先延ばしにできるようにして、「選択の幅を広げる」というのだ。
 年金を奪い「働け。それがいやなら投資して貯蓄しろ」と迫る安倍を倒そう。

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