焦点 英が「合意なきEU離脱」の危機 労働者階級は怒りのスト

週刊『前進』02頁(3009号02面03)(2019/02/07)


焦点
 英が「合意なきEU離脱」の危機
 労働者階級は怒りのスト


 イギリスの欧州連合(EU)離脱が国民投票で決まってから2年半、メイ英首相とEUとが昨年11月に合意した離脱協定が1月15日の議会で否決された。メイは議会に修正案を提出して承認を求めているが、EUは協定の変更を認めないと宣言している。このままでは3月29日に「合意なき離脱」となる。これはメイもEUも避けたい事態だ。
 メイがEUと合意した離脱協定は、イギリスは▼EU単一市場から離脱するが関税同盟にとどまる▼移民規制を優先する▼欧州司法裁判所の管轄から外れる、というものだ。イギリスは国家主権の回復を追求している。
 EUは「EU単一市場へのアクセスは商品、資本、労働力、サービスの『四つの自由移動』と切り離せない」とし、イギリスが単一市場に参加する場合、「自由移動」を保障する国家的義務から逃れて関税同盟から得られる利益だけを享受すること(いいとこどり)は許さないという立場だ。
 この両者の妥協として英領北アイルランドとアイルランドとの国境に「バックストップ(保証策)」を設けることになった。3月29日から21カ月の離脱移行期間中、▼ここには国境管理(検問所や税関)を復活させない▼北アイルランドにEU規制を適用する▼イギリス全体がEUとの関税同盟に入る、という措置だ。イギリスは、大ブリテン島内ではEU諸国からの移民を規制できるが、諸外国との新たな自由貿易協定は結べない。この妥協が支持されず、離脱協定案が否決された。
●独仏との争闘戦が根底に
 独仏帝国主義は世界大恐慌の中、帝国主義・大国間争闘戦の激化、階級闘争の高揚に直面し、EUの経済的政治的統合、軍事的統合を強めることで延命を図っている。これに対し英帝国主義は、EU統合で国家主権が制限されることを嫌う一方、EUから得られる経済的利益を追求してきた。
 イギリスが欧州共同体(EC)に加盟したのは1973年だ。構造的な経済危機をEC市場参入で突破しようとしたのだ。ところがイギリスは、85年のシェンゲン協定(「四つの自由移動」のためにEU内国境管理を撤廃)に署名せず、ユーロを共通通貨として98年に結成されたユーロ圏にも参加していない。
 ポンドが世界通貨としては没落したとはいえ、ロンドン金融市場が世界的位置を保持し、英連邦を維持しているからだ。核保有国、国連安保理常任理事国でもある。だからEU統合には簡単には乗れないのだ。
 このなかで80年代以来の新自由主義政策の矛盾が2007〜08年、金融大恐慌として大爆発した。これを乗り切るための緊縮政策によって、イギリスの社会保障制度の柱、国民保険サービス(NHS)は崩壊的危機に陥っている。救急搬送された患者は4時間以上待たされ、病院は患者であふれ、簡易ベッドに数日寝かされる。ロンドンでは数百人におよぶ路上生活者が死亡。集合住宅の火災は十分な消火活動を受けられない。貧困が広がり、公教育も破綻している。労働者階級人民の怒りはEUを標的にして爆発、国民投票でEU離脱賛成となったのだ。
●離脱で危機激化は必至
 合意の有無にかかわらずイギリスは3月末、EUを離脱する。すでに著しく低迷しているイギリス経済がEU離脱でさらに落ち込む可能性がある。EUへの影響も避けられない。
 昨年10月のイギリスの月次GDP(国内総生産)成長率は前月比プラス0・1%にとどまった。製造業では9月プラス0・2%、10月マイナス0・9%。世界的な金融バブルがはじけたら破局だ。
 このなかで労働者階級への攻撃は激化している。だが鉄道・海運・運輸労組(RMT)は民営化の一環である1人乗務に反対してストライキを継続している。医療労働者、教育労働者も緊縮政策と対決し、賃上げと労働条件改善を要求して続々とストライキに立ち上がっている。階級的労働運動の復活と国際連帯こそが現状突破の鍵だ。

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