日産ゴーン事件の本質 大量首切りし巨額の報酬 争闘戦の激化が新段階に

週刊『前進』02頁(2996号02面03)(2018/12/06)


日産ゴーン事件の本質
 大量首切りし巨額の報酬
 争闘戦の激化が新段階に

強搾取で得た利益

 東京地検特捜部は11月19日、日産自動車のカルロス・ゴーン会長を金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)の疑いで逮捕した。2010〜14年度の5年度分の有価証券報告書に、実際の報酬が計約99億9800万円だったにもかかわらず、計約49億8700万円と過小に記載したという容疑だ。不記載分は退任後に受け取る仕組みをつくり、同様の手法を用いた15〜17年度も含めれば、報酬隠しは8年間で80億円にものぼる。それ以外にも、株価に連動して報酬を受け取る権利として計約40億円分を得ていたと報じられている。
 さらにオランダの子会社を通じて購入されたブラジルとレバノンの高級住宅がゴーンの自宅として無償提供されていた。購入・改装費用は20億円を超える。また02年以来、ゴーンの姉と「アドバイザー契約」を結ばせ、業務実績がないにもかかわらず給与として年10万㌦前後を支出してきた。
 そもそも巨額報酬の源泉は労働者が必死に働いて生み出した富であり、大量首切りによって得た利益だ。
 ゴーンは仏ミシュランタイヤ時代に「コストカッター」として名をはせ、その「実績」で仏自動車大手ルノーのナンバー2に引き抜かれ、99年に経営危機に陥った日産自動車の「再建」のために実質トップとして乗り込んできた。ゴーンは「日産リバイバルプラン」を発表し、全労働者の14%にあたる2万1千人の人員削減=首切り、村山工場など5工場の閉鎖を断行した。リーマン・ショック後の09年にも2万人の首切りを強行した。
 徹底した「成果型」システムを掲げ、株価や業績と連動させた高額な役員報酬を導入しながら、「(自分の報酬は)世界的に見れば高くない」などと居直ってきた。これこそ新自由主義的経営をむき出しにした今日の資本家の姿だ。ゴーンだけでなくすべての資本家連中を監獄にたたきこまなければならない。

西川社長らも同罪

 ゴーンによる報酬隠しや私物化は、日産の経営者連中の間では長年にわたり「公然の秘密」だった。社長兼CEO(最高経営責任者)の西川広人らは一緒に甘い汁を吸ってきた連中だ。今このタイミングでゴーンが逮捕されたのは、世界がすさまじい争闘戦の時代に突入しているからだ。
 とりわけ「自国第一主義」を振りかざす米トランプ政権が日本の自動車産業を標的にしていることが、日本と世界の自動車資本を再編とつぶし合いの渦にたたき込み、ルノー・日産・三菱自動車の3社連合の主導権争いに火をつけた。そして日産がゴーン追放をもってルノーとの資本関係を逆転させて主導権を握ろうと動いたのである。
 99年の資本提携以来、ルノーは日産の株式を43・4%保有し、逆に日産はルノーの株式の15%しか保有しておらず、仏国内法の規定で日産にルノーの議決権は存在しない。3社連合の実権は事実上、ルノーのCEOが握っている。しかし17年の世界販売台数では日産が581万台、ルノーは376万台で、売上高や利益でも日産が上回っている。しかもルノーの業績は日産に依拠しており、17年12月期でも日産からの「持ち分法投資利益」がルノーの純利益の約5割を占めた。
 ルノーの背後にはフランス政府がおり、仏経済の命運をかけて日産への影響力を強めようとしている。高失業率と支持率低迷にあえぐマクロン政権にとって、ルノーを主軸にした3社連合の位置は死活的だ。
 こうした中で、今年からルノー主導の経営統合に向けた動きが表面化し、4月にはゴーンが資本関係見直しを突然表明した。これに対する日産側の反撃としてゴーン逮捕があったのだ。

安倍の危機に直結

 鉄鋼、造船、電機と主要製造業で次々と衰退してきた日帝にとって、自動車産業は国際競争力を唯一維持している「最後の生命線」だ。だがこれは海外市場に依拠しなければ成り立たず、特に日産は米国と中国に極端に依存した収益構造であり、最も危機を深めている。それは安倍の危機に直結する。ゴーン逮捕問題も国家的利害をかけた事態として進行している。
 米帝の没落と戦後世界体制の崩壊の中で、自動車をめぐる争闘戦が国家的激突となり、市場・勢力圏の争奪は世界戦争として爆発していかざるをえない。こうしたすべてが安倍を改憲攻撃へとかりたてている。
 今こそ闘う労働組合をよみがえらせよう。ゴーンが逮捕されても「役員報酬」という形で奪われた富が労働者の手に戻ってくるわけではない。「ゴーン逮捕」に対する労働者の回答は、〝自らの力で闘ってすべてを奪い返す〟〝新自由主義を打倒し労働者の団結を取り戻す〟ということだ。
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