リーマン超える大恐慌の切迫 日米株価暴落と世界経済の危機

週刊『前進』04頁(2987号03面02)(2018/11/05)


リーマン超える大恐慌の切迫
 日米株価暴落と世界経済の危機


 10月3日に史上最高値の2万6000㌦台を記録した米ニューヨーク(NY)市場のダウ平均株価が一転して急落を開始した。10月の1カ月で約2000㌦下落した。これは1000㌦規模の下落が繰り返し起きた2〜4月に続く事態であり、株式市場は乱高下しながら暴落していくプロセスに突入した。世界は2008年リーマン・ショック以上の大恐慌の再爆発へ向かって転落し始めたのだ。

バブル経済の崩壊始まる

 株価暴落が示すものは一つに、超金融緩和と財政投入によって引き延ばされてきた矛盾が、バブル経済の崩壊として爆発を開始したということだ。
 9月26日に米FRB(連邦準備制度理事会)は今年3度目の利上げを決定し、10月に入って米長期金利は一時3・26%まで上昇。これが株価暴落の直接的引き金となった。
 世界の債務残高(政府、企業、家計、金融機関)は2018年3月末で247兆㌦で、10年間で4割も増加した。特にドル建て債務を積み上げてきた新興国経済が破綻的状況にたたきこまれている。米国の超低金利の中で新興国に流れ込んできたマネーが利上げによって逆回転し、膨大な資金が流出している。すでに新興国による国債・社債の発行額は18年7〜9月に前年比25%も減少している。しかも新興国の債券は今後相次ぎ償還を迎え、18年から3年間の償還額は合計360兆円にのぼる。資金調達は危機的状態だ。
 南米諸国は軒並み通貨が暴落し、アルゼンチンやトルコでは年初からの下落率が40%を超えている。ベネズエラはハイパーインフレにより通貨単位を5ケタ切り下げるデノミを実施。トルコでは通貨暴落とともに外貨準備の約4倍にも上る対外債務(約4500億㌦)の危機が爆発し、欧州をはじめ各国に飛び火している。世界経済の瓦解(がかい)的事態が始まった。

大型減税で膨張する米財政赤字

 二つに、トランプの大型減税による一時的浮揚効果の行き詰まりだ。昨年12月に成立した大型減税は、法人税率を35%から21%に引き下げる典型的な大企業・富裕層減税だ。大企業にさらに金を流し込み、緩和策を失って崩壊寸前の株式市場を上昇させたが、こんなものは長続きしない。
 一方での減税と他方での軍事費の拡大で、18会計年度の米財政赤字は前年度比17%増の7790億㌦(対GDP比3・9%)に膨れ上がった。米議会予算局は20年度にはリーマン・ショック以来の水準である1兆㌦を突破すると試算している。いわゆる「好景気」や「好業績」は、恐慌対策を展開し続けなければならない極めて脆弱(ぜいじゃく)なものだ。債務膨張に歯止めはかからず、国債をさらに増発させ、長期金利の上昇の圧力をより一層高め、株価の暴落・乱高下をいっそう促進していく。

貿易戦争により実体経済が収縮

 三つに、最大の問題は貿易戦争が実体経済を直撃し、急減速・急収縮へ向かって転落し始めたことだ。米国は対中国の制裁関税を8月23日(第2弾、160億㌦)、9月24日(第3弾、2000億㌦)と発動した(中国も同日、報復関税を発動)。さらに中国からの全輸入品への制裁関税を繰り返し公言している。
 中国経済はすでに失速過程に入った。成長率は鈍化し、工業生産、個人消費、設備投資のあらゆる面で指標が悪化している。特に景気を牽引(けんいん)してきた自動車販売が9月は11%減と急減している。上海総合株価指数も、節目と言われてきた16年1月の「人民元切り下げショック」後の安値水準を割り込み、政府が必死に株価対策を展開しても暴落を抑えられなくなっている。
 米経済もまた、鉄鋼関税などによる原材料コストの上昇、輸入製品の価格上昇、中国市場の減速による輸出の低迷などでギリギリと締め上げられており、世界的なサプライチェーンの崩壊にも直面している。
 世界経済は分裂・対立を深めながら、急収縮していかざるをえない。リーマン・ショックから10年、ついに基軸国である米帝が先頭で「自国第一」を掲げ、協調的あり方を破壊する以外には存立することができなくなった。米帝の没落と戦後世界体制の最後的崩壊があらわとなり、大恐慌の再爆発と争闘戦・戦争が加速度的に進行していく局面に突入したのだ。

最大の打撃を受ける日帝

 中でも最大の打撃を受けているのが日帝だ。日経平均株価は9月上旬から急上昇し、10月2日にはバブル崩壊後(1991年11月以来)の最高値となったが、NY市場の急落を受けた11日以降に急落を繰り返し、1カ月で約3000円の暴落となった。日銀が10月だけで8688億円ものETF(上場投資信託)を買い入れて下支えしたにもかかわらずこの結果だ。
 とりわけトランプ政権による対日争闘戦が決定的に激化し、日帝の存立基盤を揺さぶっている。9月末には、トランプが一貫して突きつけていた二国間協定に向けて、新たな関税交渉開始で合意した。安倍は包括的なFTA(自由貿易協定)とは異なるTAG(日米物品貿易協定)だと必死に強弁するが、これはFTA以外のなにものでもない。共同声明でも、この協定の議論完了後には「他の貿易・投資の事項も交渉を行う」と明記されている。しかも、NAFTA(北米自由貿易協定)再交渉と同じく、通貨安政策を禁じる為替条項や自動車の輸出制限をも協定の中に盛り込もうとしている。
 またトランプは「日本が市場を開放しないなら、日本の自動車に20%の関税をかける」と叫んでいる。日帝の最後的生命線である自動車産業が最大の標的だ。
 大恐慌の本格化と争闘戦の激化、とりわけ日米矛盾の中で日本経済の脆弱性があらわになり、自動車産業をはじめとした日帝資本の根幹が揺さぶられている。にもかかわらず日米安保にしがみつく以外に世界政策を展開できないのが日帝だ。こうした絶望的危機の深さが安倍を改憲・戦争、働き方改革攻撃へとかりたてている。とことん追い詰められているがゆえに、クーデター的な改憲攻撃に突き進む以外にないのだ。
 労働者が団結して闘えば安倍を倒すことができる。改憲阻止決戦を歴史的決戦として闘おう。
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