1930年代危機も超える米トランプ政権の貿易戦争 戦後体制を壊し世界戦争へ進む

週刊『前進』04頁(2965号04面01)(2018/08/20)


1930年代危機も超える米トランプ政権の貿易戦争
 戦後体制を壊し世界戦争へ進む



(写真 「公教育を守れ」と訴える教育労働者のストライキ闘争が全米に拡大し、トランプ政権を揺るがしている。その口火を切ったウエストヴァージニア州の教育労働者たち【3月5日】)

保護主義を前面に第2次大戦と同じ道を繰り返す

 「貿易戦争に勝者はいない」----これは1929年の大恐慌から1930年代の大不況の過程が示すように、歴史の冷厳な教訓だ。ところが今、米帝トランプは基軸帝国主義でありながら「米国第一」という帝国主義ナショナリズムを叫び、保護主義を前面化し、中国や日欧帝国主義をターゲットに、大規模な貿易戦争を仕掛けている。
 かつて29年大恐慌の爆発にあえぎ、自己の延命に躍起となった帝国主義各国は、一方で英米を先頭にして金本位制から次々と離脱し、「輸出競争力の強化」を狙った為替戦争(通貨安競争)へと突き進んだ。
 そして他方で同時に、米帝が先頭に立って大統領フーバーのもと「国内産業を守る」と称し輸入関税を大幅に引き上げる「スムート・ホーリー法」の成立を強行した(30年6月)。もって世界は高関税競争に突入、大恐慌・大不況は本格的に激化し、世界経済は収縮と分裂・ブロック化をいよいよ深めた。これが第2次世界大戦勃発への道につながった。
 今また米帝トランプは、最末期帝国主義の絶望的延命形態である新自由主義のもと、パリバ--リーマン・ショックをもって爆発した大恐慌と、基軸帝国主義としての没落・衰退にあえぎ、1930年代以上の保護主義・貿易戦争=争闘戦政策に訴え、次なる世界戦争の道に突き進んでいる。

米中の制裁・報復合戦は世界経済の最大の危機点

 まずトランプは3月22〜23日に、「安全保障」を理由に(通商拡大法232条)、中国や日本を主要対象として、鉄鋼とアルミニウムにそれぞれ25%と10%の追加関税を発動した。当初、EU(欧州連合)やカナダ、メキシコ、韓国、オーストラリアなどには適用猶予の期間を与え、通商交渉で取引(ディール)する余地を残したが、結局、中国だけでなくEUなども同等規模の報復関税の発動で対抗した。
 この貿易戦争の現実化は、世界経済にも直ちに激震をもたらした。例えば3月23日の東京市場の日経平均株価は一時、1000円以上も急落、円も1㌦=104円台と1年4カ月ぶりの高値となった。世界の株価時価総額も2月末から3兆㌦(約315兆円)も暴落した。当の米帝自身も、輸入追加関税で鋼材が4割、アルミが3割前後も高騰し、自動車、住宅建設、缶製造などが大打撃を受けている。
 次いで7月6日、トランプは中国による「知的財産侵害」を理由にして(通商法301条)、総額500億㌦(約5兆5000億円)にのぼる25%の対中追加制裁関税の第1弾(340億㌦)を、自動車や産業用ロボット、半導体など818品目に対して発動した。これに対し、中国もただちに自動車、大豆、牛肉など重要545品目・340億㌦相当に報復関税を課した。
 さらに第2弾の160億㌦分は、産業機械や通信部品など284品目に対して、8月23日にも発動されようとしている。中国も引けずに、原油や天然ガスなど114品目に報復関税を直ちに発動すると発表している。
 中国による「知的財産侵害」を理由とするトランプの対中制裁関税の第3弾はより巨大だ。それは6031品目・総額2000億㌦(約22兆円)、中国からの輸入額の約4割、輸入品目の約5割を対象としており、追加する関税率も当初は10%と予定していたのを引き上げて25%の高関税をかけることを打ち出し、9月以降のどこかで発動を狙っている。
 中国は8月3日、これに対抗し、重要輸入品のLNG(液化天然ガス)を含む5207品目、総額600億㌦分(約6兆7000億円)に5〜25%の追加関税を課すと発表した。しかし、米帝の中国からの輸入総額約5000億㌦に対し、中国は米から約1300億㌦の輸入しかない。制裁・報復合戦になれば中国は「弾切れ」となり、後が続かない。それを覚悟で「600億㌦」の報復策を打ち出した。
 今や米中の貿易戦争は、「チキンレース」「米中共倒れ」とも称される深刻な様相をとり、いよいよ激化している。このような事態は今後の世界経済の最大の危機点だ。すでにこの7〜8月、中国通貨・人民元の下落と、中国株の時価総額の急落が止まらない。
 トランプはこの情勢に、中国、欧州や「他の国」(日本!)が通貨を操作し、金利を低くして、「米国の偉大な競争力」を奪っているとツイッターでうそぶいている。米帝が貿易戦争に加えて為替戦争も発動する時、1930年代的危機が本当に現実化する。

米帝の没落・衰退背景に日・欧との争闘戦も激化

 7月25日、米帝とEUは鉄鋼・アルミの関税問題はそのままにして、「新たな貿易協議の開始」で合意した。トランプは対中貿易戦争に最重点を置き、EUとは「一時的休戦」を装った。だが米・EU間の今後の大問題は自動車関税で、米帝はEUの輸入車関税が10%で米が2・5%なのは「不公平だ」と批判している。しかしEU、特にドイツは米が自動車に追加関税をかければ約45億ユーロの減益になり、簡単にはこれをのめない。
 日帝・安倍も今後の米帝の要求にビリビリしている。米通商代表部(USTR)代表のライトハイザーは「米国は日本とFTA(自由貿易協定)を交渉すべき」と公言しており、安倍や麻生の「時間稼ぎ」はもはや通用しない。米帝との二国間交渉=「新たな日米貿易協議」は農業と自動車が焦点である。だが安倍は、ここで「絶対に譲歩できない」。
 米帝が自動車と同部品に25%の追加関税をかければトヨタなど大手6社で約2兆円もの打撃となる。牛肉など農産品の「貿易障壁」撤廃問題も日帝の危機点である。安倍はトランプとの交渉を、①7月17日に日欧経済連携協定(EPA)に署名したEUとの連携、②環太平洋経済連携協定(TPP11)の加盟国拡大、③米帝からのシェールガスや武器輸入強化をもって突破しようとあがいている。

リーマンを超える米バブルの崩壊へ

 トランプがこれだけ大規模な貿易戦争(=帝国主義間・大国間争闘戦)を仕掛ける根底には、基軸帝国主義としての一層の没落、とりわけ伝統的な製造業の衰退がある。
 第一に、米帝はすでに最大の貿易赤字国、経常収支赤字国だ。2017年のモノの貿易赤字は実に7962億㌦(約88兆円)。特にGDP(国内総生産)の7割を占める家計部門の過剰消費・低貯蓄構造は伝統的なもので、景気が良いと逆に国内で生産できないものが多いため、「世界の工場」=中国をはじめとする全世界からの輸入が増加して赤字が拡大するのだ。こんな危機的なあり方は、ドルが基軸通貨だからこそ成立しているに過ぎない。
 第二に、貿易戦争の最大のターゲットは中国スターリン主義である。それは「ハイテク覇権」をめぐる米帝の激しい争闘戦だ。中国は「改革・開放」路線下で2001年にWTO(世界貿易機関)に加盟し、新自由主義下で超低賃金を武器に米欧日などから資本も導入し「世界の工場」と化した。そして世界第2の経済大国(GDPは日本の2・6倍)に肥大化し、製造業やIT企業のサプライチェーン(供給網)にも組み込まれている。
 しかし体制は経済や金融の実態などをも含め、依然としてスターリン主義そのもので、米帝に政治的・軍事的に激しく対抗しつつ、経済では「中国製造2025」のもと、IT(情報技術)、AI(人工知能)、EV(電気自動車)など先端部門で、国家の総力を挙げて米帝を追撃している存在である。
 米帝はこの中国をロシアと並び「修正主義勢力」「現状変更勢力」と呼び、軍事=安全保障をからめて争闘戦を激化させている。
 その上で米経済の現在の真の危機は「史上まれに見る大バブル」(7月17日付朝日新聞)であり、その崩壊も切迫していることだ。
 トランプの大型減税や財政拡大で米経済は「絶好調」「拡大局面は10年目に」などとはやされている。しかし、①米家計の持つ株式や不動産など純資産額の異常な膨張(可処分所得の7倍!)、②最高値に迫るナスダック総合指数や、突出する株価収益率などが示す完全な株バブル、③初の1兆㌦を突破した米アップルの時価総額(グーグル、アマゾンもこれを追う)等々は、米帝バブルがいつ破裂してもおかしくないことを示す。リーマン・ショックを超えるような金融危機の爆発が、米帝と世界経済に迫っているのだ。貿易戦争の激化はそれを激しく加速させる。

改憲阻止・日帝打倒闘い、世界革命の勝利へ進もう

 トランプは、戦後の米帝がソ連スターリン主義と対峙・対決しながら世界支配のために自ら主導してつくり上げてきた制度や体制を、公然と無視し、破壊しながら、「米国第一」を叫んで帝国主義的国益と排外主義とナショナリズムを貫こうとしている。
 現在的には、「イラン核合意」離脱と石油輸出への制裁、米・トルコ対立が根底にあるトルコ・ショック(通貨リラの大暴落)、新興国・高債務国の危機なども、欧州や世界経済の激震となり、帝国主義間・大国間の争闘戦はさらに深刻化していく。まさにトランプが傍若無人にも振りかざす保護主義と貿易戦争こそは、1930年代危機の状況をも超える米帝の絶望的な延命のあがきである。
 今や没落し衰退を深める基軸帝国主義・米帝が、むしろ先頭に立って新たな大恐慌を爆発させ、朝鮮や中東での侵略戦争を狙い、中国やロシアをも巻き込んで帝国主義戦争―世界戦争・核戦争の引き金を引く破滅の道に突き進んでいる。国際連帯、労働者階級のゼネスト、世界革命への闘いで、この米帝トランプと対決し、絶対に打倒しよう。
 安倍は米帝の激しい争闘戦政策にあえぎながら、トランプと一体的に同盟し、限りなく追随して、自民党総裁選での「圧勝」(=3選)に全力を挙げ、「安倍一強」などというボナパルティズム的な強権的国家体制を固めて、改憲・戦争の道に突き進んでいる。
 改憲阻止・日帝打倒と安倍打倒の闘いを、今秋からさらに大爆発させよう。それが今のトランプ情勢、未曽有の貿易戦争情勢と切り結び、労働者の勝利を切り開く道だ。
〔城戸通隆〕

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▼スムート・ホーリー法
 1929年10月に勃発した世界大恐慌のもと、米フーバー政権が農産品など約2万品目の輸入関税を平均60%まで引き上げた法律。法案を作成した2人の議員の名をとってこう呼ばれる。同法案への反対声明にはアメリカ経済学会を中心に千人以上の経済学者が名を連ねたが、フーバー大統領は30年6月に法案に署名。ただちに欧州を始め各国が一斉に報復関税措置をとり、世界経済の大収縮と大恐慌のさらなる激化をもたらした。米英独の失業率は一時20%を超え、第2次大戦の一因となった。

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