司法取引・刑事免責制度廃止を 改憲の切っ先、極悪の治安立法 組織活動=団結の破壊が狙い 弁護士 西村正治さん

週刊『前進』04頁(2955号04面01)(2018/07/09)


司法取引・刑事免責制度廃止を
 改憲の切っ先、極悪の治安立法
 組織活動=団結の破壊が狙い
 弁護士 西村正治さん


 改憲攻撃の切っ先としての極悪の治安立法「司法取引・刑事免責制度」が始動している。制度廃止へ闘う西村正治弁護士に語っていただいた。(編集局)

動き始めた新たな捜査手法

 2016年5月24日の刑事訴訟法等改悪で導入された司法取引・刑事免責制度が6月1日から施行されている。共謀罪弾圧体制下で、組織弾圧のための新たな捜査手法が動き始めた。
 まず、司法取引について。この制度は「捜査・公判協力型」と言われ、対象が他人の犯罪に限られている。他人の犯罪を明らかにする見返りに罪を軽くするよう取引できる制度だ。自分の犯罪を告白し罪を軽くさせるのなら説明もつくが、他人を売り渡して利益を得ることに特化する制度は、他国にも例がない日本独自のものだ。国家権力が人々の組織的活動=団結にくさびを打ち込み、仲間を売らせるものにほかならない。また、自分が助かるために無関係の他人を巻き込むこともよしとすることは、まさしく冤罪の温床そのものだ。
 法文上、取引の申し出は、検察官側と被疑者側双方からできることになっている。しかし実際には、検察官側が立件に必要な場合に対象を選んで一方的に取引を持ちかけるという、検察官だけに都合のよい制度だ。被疑者側が取引したいと申し出ても、検察側でその必要性を認めていなければ、取引は成立しない。
 被疑者側から申し出があったとき、どのような協力ができるのかを聞くだけ聞いて、その上で取引を成立させない対応となるのが一般的である。条文では、取引が成立しなければ、そこでなされた供述自体は、被疑者本人・他人側双方の事件で証拠にできないこととされている。しかし、検察庁は、その供述をきっかけに捜査が行われて得られた「派生証拠」は、被疑者本人・他人側双方の事件で証拠として使えるものと解釈している。被疑者から情報を聞くだけ聞いて、取引が成立しなくても、その情報は都合よく利用することができるのだ。
 取引を行うには、被疑者の弁護人の同意が必要で、協議には弁護人が必ず関与することになっている。濫用(らんよう)の危険や冤罪巻き込みの危険を防止するためだとされている。しかし、被疑者の弁護人は、売り渡される他人側の弁護人とは通常別である。会社や労働組合等の顧問として共通の弁護人になっているケースがありうるとしても、司法取引が問題となった段階で「利益相反」だとして、どちらかの弁護人を辞任せざるを得ない。
 したがって、被疑者側の弁護人が関与したとしても、「被疑者の利益を擁護するための最善の弁護活動」が責務とされる刑事弁護人にとって、客観的な立場には立ち得ない。被疑者の弁護人の関与が濫用や冤罪防止のために役立つというのは、この制度に弁護士を動員する権力の仕掛けである。
 冤罪防止のためとして、虚偽供述への処罰を新設したとされる。しかし、司法取引による供述は、検察官に都合良く合意されたものであり、それが客観的事実に明白に反することが判明するなど極端な場合にしか虚偽供述処罰は問題にならない。
 虚偽の供述で他人を冤罪に巻き込んだ供述者が翻意し、前の供述はうそで今度の供述が真実だと言ったとしても、検察官がそれを認めなければ、逆に供述を変えたことを虚偽供述だとして処罰されかねない。これでは虚偽の供述が維持される方向に働いてしまう。
 人身に被害が生じた犯罪や死刑・無期に当たる犯罪の場合は、被害者等との関係で司法取引を行うのに強い反発があるとして、それらは対象犯罪から除かれた。その結果、組織犯罪や経済犯罪に対象が限られ、一般人には関連が薄いなどと言われている。
 しかし、刑法犯でも、詐欺、横領、恐喝、各種文書偽造など、これまで組織弾圧の口実とされてきたものは含まれている。労働運動などに対する弾圧は、関係ないどころか、主要な適用場面として想定されている。例えば、労働組合の弾圧で、執行委員への弾圧から組合委員長の犯罪事実をつくり出すなど、悪辣(あくらつ)な組合弾圧の手段に十分に使いうる。こんな制度は廃止あるのみだ。

免責はうそ、実は証言強制

 司法取引制度と同時に、刑事免責制度が導入された。刑事免責というが、このネーミングは虚偽である。免責のための制度ではなく「証言強制のための制度」以外のなにものでもない。
 証人は誰でも自分が刑事責任に問われる恐れがある場合には証言を拒否する権利を保障されている(自己負罪拒否特権)。
 しかし、この「証言強制制度」によって、証言を拒否すると予想される証人や現に法廷で証言を拒否した証人に対して、法廷で証言を強制したい場合、検察官は刑事免責を裁判所に申し立てる。それに応じて、裁判所が、証人の証言を証人の刑事事件で不利益に使わないことを宣言することによって証言拒否の理由を取り除き、証言を強制することになるのだ。
 司法取引と異なり、この場合には対象犯罪の限定は一切ない。証人の思惑に関係なく、検察官が必要と判断すれば、一方的な権限行使として請求できる。しかも、この場合、請求を受けた裁判所には裁量権がなくそれを拒否することができないとされている。
 この制度は、司法取引の陰に隠れて国会でもほとんど議論なしに導入されてしまった。しかし、検察庁にとっては最大の狙い目の制度だった。司法取引が複雑に制度化されてしまい、検察側にとって非常に使い勝手が悪くなっている中で、検察側が思い通りに請求してその通りに証言を強制できる便利な制度なのだ。
 司法取引については、検察庁内部で通達が出され、慎重な運用が図られているというが、刑事免責にはそのような縛りもない。実際、施行直後の6月19日、早速、東京地裁で第1号事件として刑事免責による証人尋問が実施された。
 労働運動・学生運動に対する弾圧事件で、今後、証言を拒否する証人に対する証言の強制手段として、この制度が広範に使われることが予想される。
 あらためて完全黙秘・非転向の原則を確認し、司法取引・刑事免責制度を根底から粉砕する闘いを実現しなければならない。
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