中東を核の戦場にするな 米のイラン核合意離脱が引き金
週刊『前進』04頁(2943号03面02)(2018/05/28)
中東を核の戦場にするな
米のイラン核合意離脱が引き金
イスラエルが過去最大のイラン攻撃
5月8日にトランプがイラン核合意からの離脱を発表し、厳しい制裁措置を再開する方針を打ち出すと、イスラエル・イラン間の軍事的緊張が急激に高まっている。イスラエルはこれを、イランへの攻撃強化の好機ととらえた。イスラエル軍は同日、イスラエルが占領するゴラン高原へのイラン軍の攻撃の兆候があるとして、シリアのダマスカス近郊にあるイランの革命防衛隊の武器庫やロケットランチャーをミサイルで攻撃し、少なくとも15人が死亡した。これに対して5月10日、シリア駐留のイラン軍がゴラン高原のイスラエル軍拠点に向けてロケット弾30発を発射した。イラン軍によるシリア領からゴラン高原への攻撃は初めてだ。一方、イスラエル軍は同日、報復としてイスラエル空軍の戦闘機を28機も投入してシリア領内のイラン革命防衛隊の拠点数十カ所を空爆。少なくとも23人が死亡した。
イスラエルは2012年以降、シリア領内でイラン軍やヒズボラ(「神の党」、シーア派系の軍事組織)などへの空爆を100回以上行ってきたが、今回は過去最大であった。
3月末にはイスラエル軍のF35ステルス戦闘機2機がイランの核関連施設の上空を偵察飛行しており、イスラエルは核関連施設の空爆さえも検討している。
このようにイスラエルとイランの戦争は事実上開始されている。これは米帝、イスラエルとイランおよびイランと同盟関係にあるロシアやシリア、レバノンのヒズボラ、イラクのシーア派民兵組織との軍事的対立を激化させ、中東に新たな戦乱を引き起こしている。イランは「核合意が崩壊すれば核開発を進めていく用意がある」という声明を出しており、米・イスラエルとイランの間の核戦争の可能性さえある。しかもイランは核大国ロシアとも同盟関係にあり、ロシアも巻き込む核戦争の危機を中東にもたらしかねないのだ。
北朝鮮・中国への圧力強化とも一体
米帝の核合意離脱は、イランがこの間、シリア、イラク、イエメン、レバノンなどで影響力を拡大して中東の大国としての存在感を増して米帝の中東戦略の重大な阻害要因となっていることに対する反撃の措置であるとともに、北朝鮮に対する恫喝(どうかつ)でもある。それは、核開発を完全にやめなければイランに対するような制裁強化と軍事的圧力で屈服させるというメッセージだ。同時にそれは、北朝鮮との関係を急速に強化している中国に対する恫喝でもある。中国はイランの最大の貿易相手国であり、イランへの制裁が再び発動されれば最も大きな打撃を受ける。米帝の制裁は、イランと経済的関係を有する国家の諸企業に対しても科されるからだ。
米帝とEU・日帝との争闘戦も激化
米帝のイラン核合意離脱とイランに対する制裁の再開は、15年7月にイラン核合意を結んだEU諸国と日帝、ロシアなどに対する争闘戦でもある。16年1月にイランへの制裁が解除されると、ドイツを先頭としたEU諸国は直ちにイランとの経済関係強化に動いた。
ドイツは自動車の合弁事業、インフラ整備、油田・ガス田開発の機材などで諸契約を締結し、16年にはイランとの貿易額は前年比で倍増した。仏も自動車の合弁企業、インフラ整備、航空機売却などでイランに進出し、イラン最大のアザデガン油田開発、技術協力に関する契約を結んだ。制裁中もイランを支援していた中国も油田・ガス田開発、原発建設などで協力を強化した。日帝も16年2月に2国間投資協定に署名し、100億円規模の与信枠と資金供与が約束された。16年度のイランの輸出は前年度比30%増、輸入は同20%増で、イランへの投資も64%増加した。
米帝がイラン核合意を離脱した今、これらの経済活動はすべて米帝による制裁の対象にされる。
米帝のあまりにも横暴な制裁措置にEU諸国は猛反発し、米帝とEU・日帝の帝国主義間対立は一層激化している。
こうした情勢下で米帝は大使館をエルサレムに移転し、怒りの声を上げたパレスチナ人民のイスラエル軍による虐殺を容認した。パレスチナ人民追放政策の一環であり、中東戦争情勢を一層激化させるものだ。米帝トランプの中東での新たな戦争政策を、イラン人民、パレスチナ人民との国際連帯で阻止しよう。