書評 内田博文著『治安維持法と共謀罪』(岩波新書) 共謀罪粉砕の必読書 現代の治安維持法と闘う会 森川文人弁護士(寄稿)

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週刊『前進』04頁(2933号04面04)(2018/04/16)


書評
 内田博文著『治安維持法と共謀罪』(岩波新書)
 共謀罪粉砕の必読書
 現代の治安維持法と闘う会 森川文人弁護士(寄稿)


 私たちは、ここ数年の特定秘密保護法、刑事司法改悪、共謀罪法を「現代の治安維持法」体制と呼び、危険性を訴えている。内田博文教授は本書で、「平成の治安維持法」として、共謀罪による治安維持法体制化の危険性を歴史的・論理的に明快に提示してくれる。
 1.濫用の危険性----一度できれば「悪法も法」
 治安維持法は、その第1条から「国体ヲ変革シ又ハ私有財産制度ヲ否認スルコトヲ目的」とする組織を取り締まるために作られた思想弾圧立法であったが、当初から当時の司法大臣は「思想を圧迫するとか研究に干渉するとかはあり得ない」と答弁していた。その後の逸脱・濫用(らんよう)の歴史を考えれば、今、学ぶべきことは多い。
 さらに裁判所も「我日本臣民たる者は何人(なんぴと)といえども、現行法律に服従すべきもの......この服従義務を否認する論旨は到底、上告理由とならず」という「悪法も法」という法理をとっていたことも過去のこととは言い切れない。最近の公安事件での勾留理由開示公判で暴力的に傍聴者への退廷命令を連発する現代の裁判官も変わらない。
 2.責任追及の曖昧
 「日本最大の言論弾圧事件」とされる横浜事件で、再審確定後の刑事補償請求において「拷問を見過ごして起訴した」検察官、「拙速、粗雑と言われてもやむを得ない事件処理をした」裁判官と認定されたが、その当該検察官・裁判官はなんら責任が問われたわけではない。このような責任追及が曖昧(あいまい)なまま始まった「戦後」が、新たな「戦前」化を招く一要因になったと思われる。
 3.弁護士会の「役割」
 指定弁護人制度などで大幅に弁護活動が制限されていた治安維持法下の弁護士のあり方を紹介したうえで、「1990年代末から始まった司法制度改革は、司法の反動化と司法行政の官僚的統制に歯止めをかけるものではまったくなかった。冤罪を生み出す刑事司法制度の構造的問題点にもまったく手がつけられていない」「捜査機関に......武器を十分に与えれば人権蹂躙が防止できるという『焼け太り』の論理が、戦前と同様に横行している。これに対して弁護士会は十分に対抗し得ているのか」と今の弁護士会の危機を指摘する。耳が痛い現実だ。
 4.内田教授のメッセージ
 全編、歴史的事実に基づき重要な指摘がなされており、治安維持法及び共謀罪についての「字引」のようにも利用できる必読書だ。「治安維持法の制定および拡大がそうであったように共謀罪の創設も安保法制や秘密保護法などとの関連において捉える必要がある。いざ憲法を改定し、今以上に世界中に軍隊を派遣できるようにする時には反対者がもっと広範に出てくるだろう。......その時に共謀罪はその気になればいくらでも使える」「問題は私たちがその意欲と能力、そして勇気を有しているかである」と結ぶ内田教授の熱いメッセージをしっかり受け止める必要があるだろう。

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改憲と共謀罪を撃つ!4・23集会
 4月23日(月)午後6時30分開場
 東京・日比谷図書文化館 地下コンベンションホール
 講演 内田博文氏(九州大学名誉教授)
 主催 現代の治安維持法と闘う会

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