米ロ激突はらむシリア情勢 中東でも核戦争の危機が切迫 阻む力は労働者の国際連帯に

週刊『前進』02頁(2922号02面04)(2018/03/08)


米ロ激突はらむシリア情勢
 中東でも核戦争の危機が切迫
 阻む力は労働者の国際連帯に

トルコ軍が侵攻

 シリアの戦争情勢は1月20日のトルコ軍6千人、自由シリア軍1万人によるシリア北西部のアフリンへの大規模侵攻によって一挙にエスカレートしている。
 トルコ軍は戦車、装甲車、大砲、戦闘機でクルド人とシリア難民など約100万人が居住するアフリンを包囲、攻撃し、多数のクルド人民防衛隊(YPG)戦闘員と市民を殺害している。エルドアン大統領は、この作戦になんとトルコに逃げてきたIS(イスラム国)の敗残部隊を再訓練し、再武装した上で自由シリア軍の名前をつけて動員するという暴挙に打って出た。エルドアンはこの作戦でシリアのクルド人の自治領がトルコとシリアの国境地域に形成されることを阻止し、逆にこの地域を長期占領しようとしている。
 これに対しYPGは、アフリン防衛体制を強化するとともに、トルコ軍の領土侵犯に抗議するシリア政府に働きかけて政府派民兵部隊をアフリンに派遣させた。この部隊は現在、トルコ軍の攻撃を受けアフリン周辺に撤退している。しかし、今後シリア政府軍とトルコ軍との激突、さらにはロシアの介入と米ロ激突に発展する可能性さえある。
 この侵攻の直接の引き金となったのは、ティラーソン米国務長官が1月18日にシリアのトルコとの国境地帯にYPGを主軸とするシリア民主軍(SDF)による3万人の国境警備部隊創設を発表したことだった。シリアの国境地帯にクルドの自治区が建設されかねないことに激怒したエルドアンは、今回のシリア侵攻「オリーブの枝作戦」を決断したのだ。米帝は、エルドアンにこの作戦の中止を要求すればトルコがNATO(北大西洋条約機構)から離反しかねないことを恐れ、国境警備隊創設構想を撤回し、この作戦を容認せざるをえなくなった。
 ロシアも同盟関係を強化しつつあるエルドアンとの激突を回避しようとこの作戦に暗黙の承認を与えた。

支配力失う米帝

 米帝のシリア侵略戦争の目的は2010年に発見されたシリアの地中海地域の巨大天然ガス田と天然ガス・石油パイプライン、そしてデリゾールなどのシリアの石油資源の支配であった。そのためにはISに対する対テロ戦争を口実としてシリアに侵攻し、有志連合の空爆に依拠しつつ、SDFを地上軍として利用してシリアの領土を制圧することが必要であった。
 だが、ロシアの参戦、イラン、ヒズボラ(レバノンのシーア派武装組織)によるシリア政府に対する軍事支援によってアサド政権打倒の展望が見えなくなった。その上に、戦局がシリア政府に有利に転換したため、この構想は重大な危機に直面している。米帝は現在、SDFにデリゾールの油田を占領させることしかできていない。米帝の軍事力の衰退と地上軍の崩壊的事態により、ロシア、イラン、ヒズボラと対抗しうる力を米帝が喪失していることが完全に露呈した。

イラン制裁強化

 こうした中で、イスラエルやサウジアラビアなどの反動湾岸王政諸国はロシア、イラン、ヒズボラなどと独自に対抗する軍事的活動を強めている。
 とりわけイスラエルはイランの核開発やイスラエルとの国境地帯への軍事的進出や軍事基地建設、ヒズボラの武装の強化などに対する危機意識を燃やし、今年に入ってシリア領内のイラン軍やシリア軍基地、ヒズボラの基地などに対する空爆やミサイル攻撃を強化している。さらにはイラン本土に対する核攻撃さえ準備し始めている。
 米帝はイランの核開発を非難しながら制裁体制を強め、核合意を撤回してイランとの新たな戦争態勢へ進んでいる。そうしてイランやロシアとの軍事的対決を激化させている。
 軍事力の衰退のもとで米帝トランプは、中東でロシアやイランと対抗するために核兵器の使用に踏み切ることも選択肢に入れた戦争態勢を強化しようとしている。中東においても核戦争の危機が成熟しつつあるのだ。
 こうした状況下でトルコの労働者たちはエルドアンのシリア侵略戦争への突進に反対する闘いを開始している。エルドアンはシリア侵攻後の2週間に、シリア侵攻に反対する労働者、知識人など310人以上を逮捕したが、トルコの労働者は決してこの弾圧に屈していない。闘うトルコ労働者との国際連帯で中東大戦争情勢と対決する闘いが今こそ必要である。
(丹沢望)
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