イギリス総選挙で与党大敗北 青年と高齢者が緊縮政策に反発 高層住宅大火災に怒りのデモ

週刊『前進』04頁(2855号02面05)(2017/06/26)


イギリス総選挙で与党大敗北
 青年と高齢者が緊縮政策に反発
 高層住宅大火災に怒りのデモ

(写真 「グレンフェルにまっとうな施策を」と書かれたプラカードを持ってデモ行進【6月16日 ロンドン】)

ユースクウェイク

 欧州連合(EU)離脱交渉を前にした6月8日、イギリス総選挙で保守党は過半数の議席を獲得できず、メイ政権は大敗北を喫した。世界大恐慌の激化のもとでの新自由主義の総破綻、非正規職化、緊縮政策の強行にさらされた青年労働者、そして社会保障制度改悪に直面している高齢者の怒りが爆発したのだ。
 そのさなかの6月14日、ロンドンで公営の高層集合住宅ビル(グレンフェルタワー)の大火災が発生、数十人が死亡する大惨事となった。公営住宅管理のずさんさ(外壁の改修に可燃材料を使用、諸設備の腐朽、火災報知機やスプリンクラーの不備など)が直接の原因である。さらに緊縮政策により、この数年で1万人の消防士が削減され、数十の消防署が廃止された影響で消火作業は絶望的な困難に陥った。住民たちは連日、市当局とメイ政権の責任を追及、怒りの抗議デモに立ち上がっている。
 予想に反した保守党と労働党の支持率の劇的な変化をイギリスのマスコミは〝ユースクウェイク〟(アースクウェイク=地震のもじり。ユース=青年が社会を揺り動かしているという意味)と表現している。
 選挙結果、保守党は13議席減らして318議席となり、単独過半数に届かなかった。労働党は30議席増やして262議席を獲得した。得票率は保守党が42・4%で労働党が40%。労働党が僅差まで追い上げた。このような急激な変動は戦後の1945年選挙以来であり、68・7%という投票率は1997年以来の高率である。
 メイ政権は、信任と勢力拡大を狙って2020年に予定されていた総選挙を繰り上げ実施したが、裏目に出た。政権与党が過半数割れとなるのは戦後3回目の異常事態であり、「メイ政権は死に体だ」(BBC)。メイ首相は政権維持のために連立政権が必要となり、10議席を獲得した第5党の民主統一党(DUP)と連立交渉に入っている。DUPは北アイルランドの王党派の軍事組織の流れをくむ極端な排外主義・差別主義の党だ。直ちにDUPとの連立に反対するデモが行われ、保守党内部でも危惧が広がっている。

英帝国主義の危機

 メイ政権の重大な敗北の原因は、EU離脱問題の根底にあるイギリス帝国主義の危機そのものである。
 保守党は選挙綱領で〝労働者へのニューディール〟と称して、労働党の2015年選挙綱領を公然と取り込み、労働党支持層を切り崩そうとしたが、他方で「高齢者の在宅介護の自己負担料の引き上げや年金生活者への給付の調整」などが批判され、綱領の一部修正に追い込まれた。
 労働党の選挙綱領は「少数ではなく多数のために」というサブタイトルを掲げた。2015年以来の保守党キャメロン政権の新自由主義政策の結果、「生活水準は低下し、職は不安定の状況であり、公共サービスは後退している」「教育と社会保障は危機的状態にある」と指摘し、法人税率を26%に上げ(現行19%)、国民医療制度(NHS)予算を増やし、大学授業料を廃止し、鉄道・郵便会社を再国有化すると約束した。しかし、「イギリス経済のグレード・アップ」のためには「労働者と経営者、投資家と政府が公正な仕方で役割を果たすことが必要である」としている。
 コービンは、保守党に続いて新自由主義を推進した元党首・首相ブレアに対抗し、鉄道・海運・運輸労組(RMT)などの戦闘的労働者や青年たちの怒りを背景に一昨年労働党党首となったが、「政労資協力」を明記し「国家防衛の任務」として「トライデント(核ミサイル)配備支持」を打ち出しているように、労働党右派に迎合している。コービンと労働者階級人民との対立・決裂は不可避だ。
 今回の総選挙結果はイギリスの労働者階級人民の激しく深い怒りを表している。これは、保守党政権が強行してきた緊縮政策、教育・医療・交通などの予算削減・民営化、社会保障制度破壊、非正規職化など労働者階級人民への攻撃の全結果である。これが昨年の国民投票ではEU離脱という形をとった。年初から鉄道・航空労働者がストライキに立ち、教育・医療労働者も昨年来の闘争を継続する構えだ。韓国、アメリカ、日本とともにイギリスでも革命的指導部の形成が急務となっている。
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