「『心の除染』という虚構」を読んで 福島の格闘が克明に 福島県伊達市 渡辺 馨

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週刊『前進』04頁(2835号04面05)(2017/04/10)


「『心の除染』という虚構」を読んで
 福島の格闘が克明に
 福島県伊達市 渡辺 馨


 著者の黒川祥子氏は福島県伊達市出身で第11回開高健ノンフィクション賞を受賞。この本は2011年3・11東京電力福島第一原発事故後の伊達市に密着し、震災当時から今の福島の現状と住民がかかえる悩みと矛盾を鮮やかに描いています。
 大震災とその後の混乱をなんとか切り抜けた後、原発事故で放射能が伊達市へ。被ばくへの不安、被害者に寄り添わない行政、行政と学校への不信。その後原子力規制委委員長になる田中俊一(伊達市出身)の暗躍でいち早く「除染」先進自治体として有名に。その後、これも田中俊一の手引きで住民全員にガラスバッジ装着。
 特定避難勧奨地点をめぐる、戸別指定による人間関係の亀裂、コミュニティの破壊。そして、1年そこそこで特定避難勧奨地点の一方的解除。市議会で暴かれるガラスバッジ測定の問題点とその実態。地域コミュニティ分断と闘う市会議員等々。ついには、「除染」ではなく「心の除染が大事」「いつまでも被害者ではなく放射能と戦うことが大事」と伊達市政が大転換していく中、子どもを被ばくから守るため、保護者たちが格闘する姿が読む者の胸をしめつける。
 実際、震災から伊達市はかなり独特な路線を突っ走っている。私自身も3人の子をもつ親として、3・11原発事故から2カ月後の5月、中学校、小学校、幼稚園のPTAで、伊達市に①学校の再開時期が早すぎる、②学校校舎、通学路、校庭の徹底した除染、③全学校全教室にエアコンの設置を要求して申し入れを行った。
 この時も伊達市長は、「ここは安全です。気にし過ぎ。国が安全と言っているのだから安全」と言うのみだった。国際放射線防護委員会(ICRP)の指針ですら、「年間1〜20㍉シーベルトの間で可能な限り『1』に近い方で、各国が独自に目標を選べば良い」というものだが、伊達市は、「国は学校の校庭の屋外活動について1時間当たり3・8㍃シーベルト(年間20㍉シーベルト)までは大丈夫だと言っていた」と言い張った。「線量が下がったのではなく、基準が上がったのでは……」と私たちは当時から主張していた。
 3・11から6年がたった。今も福島県内外に9万人が避難している。この3月末、飯舘村、川俣町の避難指示が解除され、また原発から20㌔圏内の浪江町と富岡町も一部を除き避難指示が解除された。高線量汚染地域へ住民の帰還の強制がなされようとしている。県の発表でも、小児甲状腺がんを発症した子どもたちは疑いも含め185人となり、増加の一途をたどっている。
 3月末で全国の自主避難者への住宅提供が打ち切られた。このすべての根拠は、「年間20㍉シーベルト以下では健康に影響を及ぼさないから、政府も避難指示を解除している。区域外避難者も避難の必要はありません」なのだ。
 4月以降も「被曝と帰還の強制反対署名」を集め続け、すべてをひっくり返そう!
(黒川祥子著/集英社/2017年2月24日発売)
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