3・22集会 内田博文さん(神戸学院大学教授)の訴え 共謀罪は治安維持法に類似戦争のため無限に弾圧拡大

週刊『前進』02頁(2834号02面01)(2017/04/06)


3・22集会 内田博文さん(神戸学院大学教授)の訴え
 共謀罪は治安維持法に類似戦争のため無限に弾圧拡大


(写真 講演する内田博文さん)

(写真 詳細で熱のこもった内田さんの講演に参加者が熱心に聴き入った【3月22日 千代田区】)


 3月22日、東京・日比谷図書文化館で「新共謀罪を粉砕しよう! 3・22集会」(主催・現代の治安維持法と闘う会)が開催され、会場をいっぱいに埋める230人が集まった。この集会で刑法学者の内田博文さん(神戸学院大学教授)が行った講演を紹介します。(編集局)

戦争の拡大に応じて積み重ねられた改悪

 最初に、戦前と現在を見くらべると、戦争への道という点できわめてよく似ています。
 治安維持法は1925年に制定され、28年の改定で死刑・無期懲役が導入されました。この28年の改定で、治安維持法の罪は思想的内乱罪とか思想的外患罪という、国を内外から転覆させる、思想的転覆の罪という位置づけが与えられた。また目的遂行行為の罪が新たに設置された。以後、治安維持法違反の罪は、もっぱらこの目的遂行行為の罪で処断されることになっていきます。
 さらに41年の改定で新しい犯罪類型が大幅に拡充されました。従来からの結社の罪に加え、結社をつくるための準備結社と結社を助ける支援結社、小さなサークル活動も取り締まる集団の罪が加えられた。その三つに目的遂行行為の罪が付加された。
 またこの41年の改正のポイントは、刑事手続きの部分でも、戦時における刑事裁判として簡単に有罪判決を確定させられるよう手続きが定められたことです。その1点目は、検察官・司法警察官に強制処分権を付与したこと。2点目は、捜査段階の自白調書にも証拠能力が認められるようになったこと。3点目は控訴審の省略で、事実上一審だけで有罪が確定されることになった。弁護人も国がつくった名簿の中からしか選べない制度にした。こうして事実上、弁護人が被告人を追及する側にまわりました。これらの仕組みは、戦後は廃止されるべきでしたけれども、戦時の衣を平時の衣に替えて一般的に認められることになった。それが戦後の日本の誤判とか弾圧の大きな武器になっていきました。
 4点目は、予防拘禁という制度を設けました。転向しない人は死ぬまで身柄を拘束できる。転向した人も思想犯保護観察制度でその行動をいちいちチェックされる。手紙の発送、友人との付き合い、旅行、すべてをチェックされました。
 こうした治安維持法の制定および改定は、戦争の拡大に照応していました。それは政府も認めており、41年の改定の目的を帝国議会で問われた政府は、国体を守るために戦争反対の人は取り締まるのだと説明しました。
 この段階になると、共産主義運動のみならず無政府主義運動、民族独立運動、新興宗教運動と各地の「危険思想」運動にも治安維持法を適用する実際上の必要があると、政府は公言してはばからなかった。
 注意すべきは、そもそも政府には治安維持法を限定解釈する意志はまったくなかったということです。話し合いや勉強会、サークル活動、宗教団体など、人が集まることがすべてターゲットにされた。この人たちが反政府活動や戦争反対の行動をするかもしれないから、事前に芽を摘んでおこうということです。こうして人びとの普段の生活がすべて取り締まりの対象になりました。
 さらに治安維持法違反の罪の特徴を言いますと、一つ目は検察官主導の刑事裁判だということです。特に「思想検事」という形で裁判官をものりこえて決めていた。二つ目は、事実に先立って有罪という結論が最初にあった。そのための事実認定でした。三つ目は、防御権が著しく制限された。治安維持法違反の弁護をされた方で、その方自身が弁護士資格を奪われたり、治安維持法違反の罪で刑務所に入った方も少なくありません。四つ目は、被告・弁護側の主張は問答無用で切り捨てた。五つ目は、法廷闘争を禁止した。この治安維持法違反の裁判は公開停止にできるとされました。法律への批判を国民の目に触れさせないようにしたのです。

政府の言う「絞り」は歯止めにはならない

 治安維持法を研究して痛感したのは、この法律で有罪とされた人たちの名誉が回復されていないことです。韓国では、治安維持法で有罪とされた人に国家賠償が行われた。日本は名誉回復も国家賠償もしていません。
 次に共謀罪の話に入りたいと思います。政府の言うところの「テロ等準備罪」は、大きく言って4本の柱があります。1番目は、「組織的犯罪集団である団体」の活動として行われる犯罪であること。2番目は、重大な犯罪であること。3番目は、計画は具体的・現実的な計画でなければならないこと。4番目は、計画に加えて、計画した犯罪の準備行為が行われること。この四つです。
 重要なことは、例えば窃盗罪と窃盗共謀罪とは質的に異なるということです。窃盗罪には「行為」「結果」「因果関係」等が必要で、これらの客観的要件が満たされているかどうかで窃盗罪の成否が客観的に判断される。これに対して、窃盗共謀罪の場合は、こういう客観的要件は事実上ありません。
 では、共謀に当たるかどうかを判断するのは誰か。それは取締官や捜査官です。捜査官が1人も逃すまいという観点で運用する。そして有罪証拠の決め手は本人の自白、あるいは共犯者の自白になります。自白を得るために何日でも取り調べが続けられる。Aという共謀罪で23日間取り調べ、今度はBという共謀罪で23日間取り調べ、という構造になるのです。
 政府の言う「組織的犯罪集団である団体」の活動という要件が絞りになるのか。あるいは準備行為という要件が絞りになるのか。これらは何の歯止めにもなりません。
 政府の説明では、組織的犯罪集団の活動の例をいろいろあげています。しかし、法務大臣は「普通の団体も一変すればこれに該当する」と言っている。しかし「一変」を認定する具体的な例が出されているわけではない。捜査当局が「一変した」と判断すれば、取り締まり対象にされることに注意しなければいけない。
 この共謀罪の隠された狙い、真の狙いとして、われわれが非常に懸念しなければいけないのは、権利運動に手をかけてきていることです。
 日本国憲法は、国民に権利を保障しました。のみならず、その権利を自らの運動で実現することも認めました。権利運動というのは、憲法が保障した基本的人権を実現するための非常に重要なチャンネルですが、このチャンネルを抑えることも共謀罪では法文上はできる構造になっている。
 対象犯罪が選別されている点にも留意が必要です。為政者がターゲットになるような犯罪は慎重に全部除かれている。他方で、組織的威力業務妨害も対象犯罪とされています。威力業務妨害は対象犯罪とされていませんけども、組織的ということになると、これも対象犯罪にされている。辺野古基地建設反対運動を住民の方がしようと相談しても、この組織的威力業務妨害罪に問われる可能性が出てくるのです。
 共謀罪=「テロ等準備罪」は刑事手続きの改正と連動しています。昨年、「刑事訴訟法等の一部を改正する法律」が成立しました。共謀罪の捜査や予防のために警察官などによって、通信傍受が日常的に行われることも懸念されます。

関係ない人はいないと訴えて阻止しよう

 最後に、治安維持法違反の罪と共謀罪の「類似性」はどこにあるか。
 1番目は、ともに憲法違反ということです。共謀罪は憲法違反であり、政府は憲法改正して合憲化をはかっていくことになる。のみならず、改憲のために共謀罪をつくって反対運動を抑えていくのではないか。そういう意味で車の両輪です。
 2番目は、思想・信条を処罰してはならないという刑法の基本原則に反していることです。
 3番目は、「敵刑法」という考え方に属しているということです。「敵は徹底的にやっつけていい。敵の人権は保障する必要はない。その思想さえも取り締まっていい」という考え方に立脚していることです。
 4番目は、戦争国家のための法整備の一環だということです。戦時の治安維持法としての共謀罪は、戦争国家の法整備の一つだとおさえることが必要です。
 5番目は、名目と実際の狙いとが大きく離れていることです。戦前の治安維持法も共謀罪についても、政府は特定の人が対象で一般の人は関係ありませんと言ってます。けれども、治安維持法にも共謀罪にも、特定の人に限るような文言はありません。
 6番目は、拡大解釈ないし逸脱解釈が当初から想定されていることです。辺野古の例で言いますと、基地建設の反対運動について話し合ったとする。そこには参加しないけども、心の中で賛同している場合は、その人も「黙示の共謀」という形で罪に問われ得る。少なくとも取り締まりの対象になり得る。
 7番目は、検察官の権限が非常に強力だということです。起訴するかどうかは検察官が決める。有罪かどうか、その量刑も事実上は検察官が決める。この検察官司法が、共謀罪を運用するようになることも注意しなければいけない。
 8番目は、自白による有罪立証がなされるということです。
 9番目は、防御権の制限、弁護権の制限ということです。現在は「テロというのは敵なんだ。敵の弁護をするなんて許せない」と、その弁護をした人に対して懲戒処分だという運動が起こりかねない。そういう形で弁護権が制限されていくことも考えられます。
 10番目は、保護観察・予防拘禁との連動という問題です。満期釈放した人に対して、保護観察を付けることを法制化するという検討もすでに法務省ではされております。事後的な刑罰ではなくて、事前の抑止としての保安処分的なものに刑罰を変えていく動きもすでに始まっています。
 最後に、少し話をさせていただきたいのは、治安維持法も今回の共謀罪も、「私には関係ない」という世界はないんだということです。
 このことを1人でも多くの方に理解していただくことが、共謀罪を制定させないための、一番重要な論点ではないかと思います。

このエントリーをはてなブックマークに追加