新共謀罪の提出阻止を 弁護士西村正治さん
新共謀罪の提出阻止を
弁護士西村正治さん
「テロ対策」を掲げ制定狙う
安倍政権は3度廃案になった共謀罪法案を「テロ等準備罪」と銘打ち、3月上旬に閣議決定・国会提出を行い、今国会での成立を狙っている。
今回の新共謀罪攻撃には、とりわけ「テロ対策」を強調することで批判をかわし国民合意を取り付けようとする特徴がある。安倍は「この法案を通して国際組織犯罪防止条約を批准しなければ東京オリンピックを開けない」とまで言っている。日本共産党や体制内野党勢力の「テロ対策は必要」という立場ではこれに太刀打ちできない。
朝鮮侵略戦争が切迫する中、安倍は労働者階級の団結を破壊するために秘密保護法、刑訴法改悪(盗聴法・司法取引)に次ぐ不可欠の治安弾圧立法として新たな共謀罪制定攻撃に出ているのだ。
内心の考えを処罰の対象に
共謀罪法案は、組織的犯罪処罰法に一つの条項を加えて、数百の共謀罪を新設するものである。懲役4年以上の犯罪676のところを、277に絞ると言われているが、これまで治安弾圧に用いられてきた罪種はすべて残る。「犯罪遂行を共謀(合意)した」とみなされただけで処罰の対象になる。遂行前に自首したとき刑は減免される。客観的な行為がなくても内心だけで犯罪とされる。客観的行為があって初めて犯罪になるという刑法のあり方を根本的に転換するものだ。
今回の法案では、「共謀」という言葉を「計画」に言い換えている。「団体」を「組織的犯罪集団」に変更し、「準備行為」を要件に加えた、と言われている。しかし、共謀罪の危険な本質は何も変わっていない。
国会答弁で安倍は、「これを共謀罪と呼ぶのは間違い」「国民の思想や内心まで取り締まる、多数の一般人が監視の対象になるという懸念は、まったく根拠がない」と強調したが、それこそウソとペテンである。
どんな団体にも適用される
第一に、「共謀」を「計画」に変えたと言われているが、「2人以上で計画」というのは「共謀」と何も変わらない。
第二に、「組織的犯罪集団(結合の目的が重大な犯罪を実行することにある団体)」に限定したから一般の会社や労働組合、市民団体は関係ないと宣伝している。安倍や官房長官・菅は、国会で「一般の市民は対象にならない」と繰り返してきた。しかし、定款や綱領に目的は犯罪だと記載している団体はまずない。「組織的犯罪集団」かどうかは警察当局が認定するのだ。法務省も、もともと正当な活動を行っていた団体についてもその目的が犯罪を実行することにある団体に一変したと認められる場合は組織的犯罪集団に当たると認めざるを得なかった。
国家権力にとって都合の悪い人びとがいつの間にか「一般の人」ではなく「組織的犯罪集団」とされうることは、沖縄の辺野古や髙江で現に起こっている。捜査当局が弾圧しようとすれば、会社でも労働組合でも市民団体でも、共謀した「組織的犯罪集団」に仕立て上げられるのだ。歯止めにはならない。
第三に、「準備行為」を要件に加えたという。共謀には何らかの行為が必要ということだが、それが危険な行為である必要はない。銀行で預金を引き下ろす、ホームセンターで買い物をするといった日常的なことが「資金又は物品の取得その他の準備行為」とみなされる。人は生きている以上そうした行為を必ず伴うから、ハードルにはならない。
この「準備行為」が合意に基づいて行われる必要はない。一人の人間が何らかの行為を行えば、組織にとっての準備行為となり、何もしていない全員に共謀罪が適用されてしまう。
さらに、「準備行為」を発見するためと称して、団体の日常的な活動内容を監視する口実にもなる。何らかの行為が、結果がなくても警察の判断次第で「共謀があった」とみなし犯罪にできるのである。反政府的運動一切を取り締まる道具としての本質は何ひとつ変わっていない。
治安維持法の再来を許すな
共謀罪の捜査・立件のためには、新捜査手法の活用が不可欠となる。「共謀」の存在をつかむため、広範な盗聴捜査――通信の盗聴、車や室内の盗聴、街頭での顔認証カメラや街頭傍受、GPS監視が必要となる。
また、「共謀参加者の寝返り」が捜査の重要な環になる。密告奨励制度と全面的な司法取引制度、そして証人隠蔽制度とスパイ潜入捜査だ。
1925年に制定された治安維持法は、第1条が結社罪、第2条が協議罪(共謀罪)という構造だった。初めて適用された翌年の京都学連事件には、第2条の共謀罪が用いられた。集団にかかわる共謀罪が治安維持法の核心として猛威を振るったのだ。
今、共謀罪は歴史的悪法であった治安維持法の再来として制定されようとしている。歴史の岐路にある。新共謀罪の国会提出を阻止するために、全力を挙げて闘おう。
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3・22新共謀罪粉砕!国会提出阻止集会
3月22日(水)午後6時30分
東京・日比谷図書文化館(日比谷公園内)
主催 現代の治安維持法と闘う会