甲状腺検査の縮小を許すな 小児甲状腺がん患者175人の約8割にリンパ節転移や浸潤
週刊『前進』04頁(2805号03面04)(2016/12/12)
甲状腺検査の縮小を許すな
小児甲状腺がん患者175人の約8割にリンパ節転移や浸潤
福島県が子どもたちに行っている甲状腺エコー検査の縮小・廃止へ向けた動きが強まっている。甲状腺検査の縮小策動と、来年3月の避難者への住宅支援打ち切りや避難指示区域の解除による帰還強制は、「3・11フクシマをなかったことにする」、ひとつらなりの大攻撃である。福島の怒りと深く結んで、絶対に阻止しよう。
福島県の甲状腺エコー検査は11年10月に始まった。13年度末まで「先行検査」、14〜15年度に1巡目の「本格検査」が行われ、今年5月から2巡目の「本格検査」が始まった。対象者は3・11時点で18歳未満だった子どもと、3・11以降生まれた子ども、合わせて約38万人だ。先行検査を約30万人、本格検査を約27万人が受け、今年6月末時点で175人もの子どもたちが甲状腺がんないし疑いと診断された。そのうち136人が甲状腺摘出手術を終えている。
一般に「100万人に1~2人」といわれる小児甲状腺がんが、福島では約1600人に1人という高率で発症している。福島第一原発の大爆発による被曝が、子どもたちの健康をこれほど破壊しているのだ。
片葉摘出から全摘出手術へ
甲状腺摘出手術を受けた子どもに、リンパ節転移や甲状腺外浸潤などが多発している実態も明らかになった。今年9月26~27日、日本財団主催の「第5回放射線と健康についての福島国際専門家会議」が福島市で開催された。日本財団は、元A級戦犯で根っからの極右反共政治家の笹川良一が設立した日本船舶振興会の後継団体。世界各国からごりごりの原発推進派の御用学者をかき集め〝被曝による健康被害はない〟と大宣伝するための会議だ。
その会議で、福島県立医科大学の鈴木眞一教授が、医大で手術を行った125人の症例を報告した。125人のうち、甲状腺の全摘出手術を実施したのは4例で、残る121例は片葉だけを摘出した。腫瘍の大きさは1㌢メートル以下が43例、1~2㌢が31例、2~4㌢が2例で、腫瘍が4㌢以上またはがんが甲状腺の皮膜から外に広がる甲状腺外浸潤が49例もあった。リンパ節転移があったのは97例、そのうち中央部への転移76例、頸部への転移21例で、リンパ節転移がなかったのは28例だけ。腫瘍の大きさが1㌢以下で、リンパ節転移をしていなかったのはわずか5例のみだ。
この結果、リンパ節転移や甲状腺外浸潤があった患者は、初回の手術は片葉摘出であった人も、全摘出手術などに進んでいる(その症例数は明らかにしなかった)。
甲状腺とは、からだ全体の新陳代謝を促進するホルモンを生涯にわたって出す、とりわけ成長期の子どもには不可欠の臓器だ。そのため全摘出はもちろん、部分的にでも摘出したら、長期にわたって毎日ホルモン剤を飲まなければならないことが多い。また長期間、がんの全身への転移も心配しなければならない。大変な苦しみを子どもたちに与える事態なのだ。
「デメリット」強調する医大
深刻な健康被害が明らかになりながら、福島県や県立医大、県民健康調査検討委員会は、甲状腺エコー検査の縮小・廃止を狙っている。前述の会議で講演した福島県立医大の緑川早苗准教授の主張はその最たるものだ。緑川は「甲状腺がんの予後は非常に良好。スクリーニング(症状が出ていない段階での検査)をしない時の重篤な健康被害は生じることは考えにくい」「過剰診断が非常に起こりやすい疾患」と主張。スクリーニング検査の「デメリット」として「甲状腺がんにかかった人は、強く放射線被曝との影響について考える」と述べた。
さらに「デメリット」への対応として、保護者への説明会、子どもへの出前授業を実施していると報告。この説明会や出前授業は、「がんが見つかったら嫌だと思う人は、甲状腺検査を受けない意思も尊重される」などと話して、受診しないように誘導するものだ。
緑川は最後に「スクリーニングをいつまでやるか、スクリーニング基準、細胞診の基準などを再考する時期に来ている」と結び、検査縮小の意図をあらわにした。
検討委内部からほころびが
縮小へ向けた動きの一方で、県民健康調査検討委の内部からほころびが現れ始めた。10月21日付北海道新聞は、検討委委員で甲状腺検査評価部会長の清水一雄・日本医科大学名誉教授が部会長を辞任すると報じた。「清水氏は検討委が3月にまとめた『放射線の影響とは考えにくい』との中間報告に疑問を感じ、『部会長の立場では自分の意見が言えない』と辞任を決めたという。今後は部会員、委員として議論に関わる考え」という。甲状腺検査評価部会は昨年5月に中間取りまとめを作成した。同報告に「これまでに発見された甲状腺がんについては……放射線の影響とは考えにくい」と清水部会長自らが記したことが、今年3月の検討委の中間取りまとめにつながった。今さら「部会長の立場では自分の意見が言えない」などとは無責任にもほどがあるが、いかなるごまかしも通用しない福島の深刻な現実が彼を辞任に追い込んだのだ。
甲状腺がんの多発をはじめとする健康被害に対し、実に多くの保護者と子どもたちが心から心配し、不安を抱え、怒り、苦しんでいる。その怒りに突き動かされ、福島県議会も10月13日に「福島県民健康調査における甲状腺検診で、検査規模の縮小ではなく、検査の維持を求めることについて」という請願を全会一致で採択した。こうした中で検討委内部にもほころびが生じ始めたのだ。
福島の住民、子どもたちや保護者の思いを受け止め、その怒りとともに「甲状腺検査の縮小絶対反対、住宅支援打ち切り・帰還強制絶対反対」の声を大きく上げよう。「被曝と帰還の強制反対署名」に全国で取り組もう。被曝労働反対で闘う動労福島や、ふくしま共同診療所と固く結び、17年3・11郡山―3・12第2回被曝・医療福島シンポジウムへ進もう。