福島小児甲状腺がん175人に 検査の縮小・打ち切りを許すな
週刊『前進』04頁(2785号03面03)(2016/10/03)
福島小児甲状腺がん175人に
検査の縮小・打ち切りを許すな
福島県の子どもたちの甲状腺がんないし疑いが175人になった。3・11原発事故による被曝が、これほど深刻な健康被害をもたらしているのだ。しかしこの夏、重大な動きが発覚した。福島県当局が甲状腺検査の縮小・打ち切りへ動き始めたのだ。絶対に許すわけにはいかない。
県が「受診は不要」と誘導
福島の県民健康調査検討委員会は9月14日、11年3・11当時18歳以下だった子どもたち約38万人の甲状腺検査の6月末段階の結果を発表し、甲状腺がんないし疑いは175人に上った。そのうちすでに136人が甲状腺摘出手術を終えている。これほど深刻な事態にもかかわらず、県は甲状腺検査の縮小・打ち切りを狙っている。8月8日には福島民友新聞が「県民健康調査検討委員会は早ければ9月にも、甲状腺検査の対象者縮小や検査方法の見直しを視野に入れた議論に着手する。……検討委の星北斗座長が7日までに、本社の取材に明らかにした」と報道。検討委が「長期にわたり見守ります」としてきた方針を大転換し、縮小・打ち切りへ一気に突き進もうとしていることが明らかになった。
今年5月から、先行検査(11〜13年度)、1巡目の本格検査(14〜15年度)に続く3回目の甲状腺検査が始まった。その検査開始にあたって県は検査対象者に送り届ける文書に〝検査を受診する必要はない〟と誘導する重大な変更を行った。
❶「甲状腺検査のお知らせ」では、これまであった「受診することをおすすめします」を削除。代わって「甲状腺の特性上、治療の必要のない変化も数多く認めることになり、ご心配をおかけすることもあります。そのため、甲状腺の超音波検査による検診は、一般的には行われてきませんでした」と加え、縮小への策動をあらわにした。
❷「県民健康調査甲状腺検査(一次検査)同意確認書兼問診票」では、これまで検査を受けることに「同意します」というチェック項目だけだったが、「同意しません」という項目を新設した。
❸「甲状腺通信」(16年8月発行、第6号)の「Q甲状腺検査は必ず受診しなければならないのでしょうか?」への回答は「A小さな甲状腺がんは、治療をしなくても多くは生命には影響しないと考えられています」。また「Q震災時に5歳以下だった子どもからも甲状腺がんが見つかったと聞きました。原発事故で被ばくをした影響なのですか」への回答は「A『放射線による被ばくの影響』とは判断することはできません」。
上記❶❷❸はいずれも、検査を受診しないでいいと誘導する内容だ。これらの変更は今年3月に検討委が発表した「中間取りまとめ」が「これまでに発見された甲状腺がんについては放射線の影響とは考えにくい」と断じたことに基づいたものだ。県当局、検討委はともに〝甲状腺がんは被曝の影響ではない。検査を受診しなくてもいい〟と誘導しているのだ。
小児科医会が見直しを要望
8月25日には福島県小児科医会が、総会で決議した「声明」を県に提出した。「被ばくの影響とは考えにくいものの、この5年間に多数の甲状腺がんが発見されており健康不安の一因となっております」「子どもたちの将来の健康を守りかつ現在の不安を軽減する立場から……甲状腺検査事業実施の一部見直しを含む再検討が必要」と、〝被曝の影響ではない甲状腺がんの発見による不安を軽減するため、検査を縮小しろ〟と迫ったのだ。子どもたちの医療に携わる小児科医であれば、甲状腺がんの激増に対して、より丁寧な検査や治療を求めて当然である。それがまったく逆に、検査の縮小を求めるという実に犯罪的な役割を果たしているのだ。
9月14日、福島の保護者をはじめ、県内外の多くの人びとが大変な危機感をもって注視する中で、県民健康調査検討委員会が開かれた。
検討委では「縮小」通せず
会合には、一貫して「過剰診断・過剰治療」論を主張し、甲状腺検査の縮小・打ち切りをあおってきた国立がん研究センターの津金昌一郎委員が欠席した。そのこともあって、この間ずっと犯罪的な役割を果たしてきた清水一雄委員(日本医科大学名誉教授)ですら「放射線の影響ではないかという懸念を考慮に入れながら今後、検証を進めていくべき。今後少なくとも10年は縮小はなし」と述べるなど、各委員から縮小・見直しに反対する意見が続いた。それでも座長の星北斗・福島県医師会副会長は「どういう形で今後、検査をしていくべきかということは議論すべき」と述べ、今後も縮小・打ち切りへ向けた議論を続けるとした。今回は一定後退したものの、今後、縮小・打ち切りへ向けた圧力がさらに強まっていくのは間違いない。
他方、甲状腺がんをはじめとする健康被害に対し、実に多くの保護者と子どもたちが心から心配し、不安を抱えて苦しんでいる。検査縮小となればその不安や怒りが一気に噴き出しかねないことを、県は恐れている。福島の労働者住民、とりわけ子どもたちや保護者の思いの先頭に立ち「検査の縮小・打ち切り絶対反対」の声を大きく上げていかなければならない。
甲状腺検査の縮小策動と、自主避難者への住宅支援打ち切りや避難指示区域の解除による帰還強制は、完全に一つの動きだ。原発を再稼働し、核武装政策にしがみついて朝鮮戦争に突き進む安倍政権の国家意志なのだ。
福島の子どもたちと労働者住民にさらに被曝を強いる大攻撃に反撃しよう。子どもたちの命と健康を守るため「避難・保養・医療」の原則を掲げて活動するふくしま共同診療所を支援しよう。福島の怒りと深くつながって11・6日比谷へ駆けつけよう。
(里中亜樹)