トルコでの軍隊反乱が示した米中東支配の危機と革命情勢 労働者人民を抑圧するエルドアンに怒り
週刊『前進』02頁(2768号02面01)(2016/07/28)
トルコでの軍隊反乱が示した米中東支配の危機と革命情勢
労働者人民を抑圧するエルドアンに怒り
7月15日深夜(現地時間)、トルコで軍の一部勢力によるクーデター、大規模反乱が勃発した。このクーデターはイギリスのEU離脱、フランスを始めとするヨーロッパや韓国のゼネスト情勢など世界が革命情勢に突入し、トルコでも労働者階級の怒りがエルドアン政権打倒に向けて爆発し始めている中で起きた。
クーデターに参加した兵士たちは全世界とトルコの労働者階級の怒りの爆発に影響され、労働者人民を新自由主義政策によって苦しめているエルドアン政権を打倒したいという気持ちを持っていた。そのことはトルコでも革命情勢が成熟しつつあることを示している。だがクーデターを組織した親米派、反エルドアン派の将軍たちは、自分たちの特権と利権を守るためにこの兵士たちの気持ちを利用して権力を奪取しようとした。
ところが事前に計画を察知したロシアによるトルコの情報機関への警告によって、急遽(きゅうきょ)対応策をとったエルドアン派の軍隊が動いてこのクーデターは粉砕されてしまった。
今回のクーデターで注目すべきことは、トルコにおける軍や政府の内部分裂が公然と暴露されただけでなく、トルコの中東における軍事外交政策の重大な変容が明らかになったことだ。またエルドアンと米帝との対立の激化によって、米帝とNATO(北大西洋条約機構)の中東政策が重大な危機にたたき込まれるのは不可避になったということだ。
クーデターで米とトルコの対立あらわに
まず第一にエルドアン政府がこのクーデターの背後にアメリカがいたと非難し、米帝との激しい対立状態に入ったことである。7月16日、クーデターが鎮圧された後、チャブシオール外相は、このクーデターにインジルリク米空軍基地の司令官・兵士らが関与したため複数の軍人を拘束したと発表した。このためトルコ政府は、クーデター後の軍内の粛清作戦が完全に終了するまで米軍の核兵器が約90発備蓄されている同空港を閉鎖し、使用を禁止するとした。こうして核兵器がトルコ政府によって当面管理されることになるとともに、同基地からの空爆作戦も停止されるという驚くべき事態が現出した。ほぼ同じころに労働相のスレイマン・ソユルは「クーデターの背後にアメリカがいる」と非難し、またエルドアン自身も、このクーデターの背後には外国勢力がいると言明した。
エルドアンはこれと並行して、CIA(米中央情報局)と密接な関係をもち、トルコ国内の軍や司法・行政機関に大きな影響力をもつと言われるギュレンというイスラム教の説教師の影響下にあるとされる「ギュレン派の壊滅」を掲げて軍、司法機関、行政機関内の4万5千人の反エルドアン派の大粛清に打って出た。その上で死刑の復活を宣言し、7月21日の3カ月間の非常事態宣言で、さらに弾圧を拡大しようとしている。
また国内の最大の反エルドアン勢力である労働組合や左翼組織に対する弾圧も準備して、反政府活動を一切許さない態勢がとられている。
対ロシアと対シリアで重大な政策の転換
第二に、このクーデター以前にトルコは対ロシア、対シリア政策の重大な転換を開始し米欧諸国の中東政策と決定的に対立する方向に動き始めていたことである。昨年11月のトルコ軍機によるロシア軍戦闘機撃墜事件以降、ロシアからの制裁を受けたことでトルコ経済は深刻な打撃を受けた。にもかかわらず、ロシア機撃墜を示唆し支持した米欧諸国からの支援が何もないことにエルドアンは不満を抱いていた。エルドアンは、この危機を突破するためにはロシアとの関係を改善するしかないと決断し、今年6月にロシア軍機撃墜に関する謝罪文をロシアに送り「ロシアはトルコの友人であり、戦略的パートナーである」と確認した。6月末にはエルドアンはプーチンとの電話会談で制裁解除の約束を取り付けた。
7月6日には、5年間以上にわたって反アサド政権の武装部隊を支援し強硬にアサド政権打倒を目指していたエルドアンが突然、「アサド政権との関係改善に努力する」「われわれはシリアとの紐帯(ちゅうたい)を正常なものにすることができると確信している」と言い始めた。このようなエルドアンの政策転換は、シリアの反政府武装勢力だけでなく米欧帝国主義諸国をも驚愕(きょうがく)させた。NATOに所属するトルコが、しかも対シリア戦争において戦略的位置を占めるトルコがこのような利敵行為に走れば、米欧の中東戦争政策は大破産しかねないからだ。
トルコのこのような政策転換は、米欧帝に対するエルドアンの不信感が極限にまで達したからだ。米帝は現在、対シリア戦争においてシリアのクルド人武装勢力・YPG(クルド人民防衛隊)に武器と資金を供給して反アサド軍の主要な部隊にしようとしている。だがそれはトルコのPKK(クルディスタン労働者党)と強いつながりのあるYPGのトルコとの国境地帯における強大化と自治国家建設を容認するものであり、エルドアン政権にとってはとうてい認められないことだ。
また将来、中東や中央アジアからの天然ガスパイプラインを国内に敷設することで経済的再建を図ろうとしているトルコの意向を無視し、米帝がカタールの天然ガスをトルコを通過せずシリア東部を経てヨーロッパに輸出しようとしていることはエルドアンを激怒させた。エルドアンは、それならばトルコを経由するロシアのガスパイプラン建設計画を選択するしかないと考え、ロシア、シリア、イスラエルなどとの関係を改善することで延命する道を選択した。
トルコ労働者の政権打倒の決起は不可避
以上のようなトルコの動向は、米帝の中東政策全体を破綻の危機にたたき込みかねない。だがこのような危機が現出したのは、米帝の中東軍事支配力が決定的に衰退したからだ。その上で米帝が自国の利害をなりふり構わず追求したからだ。トルコでのクーデターの失敗とエルドアンと米帝・NATOとの対立の激化を契機に、米帝の中東支配体制はさらなる重大な危機に突入するであろう。そうした情勢下でトルコの労働者階級は必ずやエルドアン政権打倒の大決起を開始し、世界の革命情勢に合流してくるであろう。
(丹沢望)