リニア中央新幹線建設に3兆円もの国家財政投入 「ヘリコプターマネー」に踏み込む安倍
週刊『前進』04頁(2767号03面04)(2016/07/25)
リニア中央新幹線建設に3兆円もの国家財政投入
「ヘリコプターマネー」に踏み込む安倍
大手ゼネコンへのばらまき
安倍政権は6月2日に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太方針)で、リニア中央新幹線建設への国費投入を打ち出した。さらに安倍は、参院選後の7月12日、「アベノミクスは国民の信任を得た」とうそぶいて、「10兆円規模の大型景気対策」を打ち出した。その柱がリニア中央新幹線への3兆円もの国費の融資だ。イギリスのEU(欧州連合)離脱問題をきっかけに世界大恐慌はさらに深まり、資本主義は終わりの時を迎えている。その中で安倍は、公共事業を中心とした財政支出の拡大という、より破滅的な道に踏み込んだのだ。
安倍は、財政法を改悪して国債の日銀引き受けを可能にすることをも狙っている。日銀がマイナス金利で国家にカネを直接に供給し、それが公共事業という形で大手ゼネコンを始めとする大資本にばらまかれるなら、それは「ヘリコプターマネー」政策そのものだ。
「盟友」葛西に巨額の融資
安倍は「現在のゼロ金利環境を最大限に生かす」「21世紀型のインフラを整備する」と唱え、財政投融資を使って3兆円もの資金をJR東海に融資しようとしている。しかし、一企業に対してこれだけ巨大な資金を国家が融資したことなど、かつてない。実際、現在の財政投融資の枠組みでは、これは実施できない。だから安倍は、国債の一種である財投債の発行で調達した資金を、鉄道運輸機構を通してJR東海に融資できるようにするための関連法改悪を、秋の臨時国会で押し通そうとしている。安倍はまた、整備新幹線の建設にも同様の手法で国費を投入することを打ち出している。JR東海名誉会長の葛西敬之は安倍の「盟友」であり、戦争・改憲や原発再稼働の攻撃の最先兵になってきた。その葛西が支配するJR東海への巨額の融資自体、公金の私物化にほかならない。
葛西はリニア中央新幹線について、「JR東海が自らの経営的なイニシアティブのもとに、国の資金を当てにすることなく、二十一世紀に相応(ふさわ)しい日本の大動脈、基幹インフラを整備する」(葛西著『国鉄改革の真実』)と豪語していた。しかし、JR東海がリニア新幹線構想を打ち出した当初から、〝いずれ国費が投入されることになる〟という観測は絶えなかった。それを裏づけるかのように、安倍はリニア新幹線への国費の投入をあからさまに打ち出したのだ。
「国の資金を当てにせず」社債の発行で建設資金をまかなうことを前提に策定されたJR東海のリニア新幹線建設プランは、2027年までに品川―名古屋間を開通させ、その後、債務返済のための8年間の調整期間を置いた後、2035年から名古屋―大阪間の工事に着手し、2045年に大阪まで開通させるというものだった。だが、国費を投入すれば8年間の調整期間は不要となり、大阪開業は8年前倒しできるというのが、安倍やJR東海の理屈だ。
しかし、彼らが想定する建設工期や、品川―名古屋間で5・5兆円、名古屋―大阪間で3・5兆円と見積もられる建設費は、机上の計算によるものにすぎない。糸魚川・静岡構造線と中央構造線という日本列島の2大断層を横断して南アルプスをぶち抜く長大トンネルや、既存の鉄道を運行しながら地下深く駅設備を造る工事が、予定通り進むはずがない。工期が延びれば建設費も膨らみ、投入される国費も天井知らずに増えていく。
にもかかわらず、安倍とJR東海は膨大な国家財政をリニアにつぎ込もうとしている。「国鉄赤字の解消」を口実に葛西自身が強行した国鉄分割・民営化で、約20万人の国鉄労働者が職場を追われ、1047名が解雇された。その時、問題にされた国鉄債務は約29兆円だ。それに匹敵する巨大な財政赤字を抱えることになっても、安倍はリニアに国費を投入して、大資本をもうけさせようとしているのだ。
安全無視した悪夢の超特急
リニアには運転士がいない。動くことも止まることも地上からの遠隔操作による。事故が起きても、車内でブレーキをかけることはできない。リニアの安全性はなんら確証されていないのだ。大電力を消費するリニアは、原発再稼働とまさに一体だ。
南アルプストンネルの建設により、地下水が流出して、大井川の流量は毎秒2㌧も減少すると言われている。トンネル掘削により発生する残土は東京ドーム46杯分にもなるが、その処理方法も決まっていない。大規模なトンネル工事は、騒音・振動・工事車両の通行などで住民の生活を脅かす。人家や学校の立ち退きを迫られる地域もある。リニア建設は貴重な自然と、人間の生活条件をぶち壊す。
JR東海はそのすべてを居直り、各地でリニアの建設に着手している。だが、それへの抵抗も至る所で始まっている。
リニアなどという絶望的なものに寄りかからなければ延命できない資本主義など、もう終わっている。安倍と葛西を打ち倒し、リニア中央新幹線の建設を阻止しよう。