為替と安保で日米矛盾激化 サミット前に危機に立つ安倍
週刊『前進』02頁(2746号02面01)(2016/05/12)
為替と安保で日米矛盾激化
サミット前に危機に立つ安倍
4〜5月にかけて急激に進んだ円高・株安は、為替政策をめぐる日米間の矛盾と対立の決定的な激化を示している。今月26、27日の伊勢志摩サミットを前にして、没落・衰退する米帝と破滅的経済危機にあえぐ日帝との争闘戦は一層激化せざるを得ず、安倍の外交戦略は出口のない行き詰まりに直面している。
円売り介入を許さない米帝
周知のとおり日帝経済は年初来、円高・株安の進行に追われ、2月に導入したマイナス金利という「劇薬」もなんら効果を上げず、むしろ金融市場の混乱に一層拍車をかける事態となった。加えて実体経済においては、特に大企業・製造業の業績悪化を受け、16年1〜3月期のGDP(国内総生産)成長率は2期連続のマイナスが確実視されており、7月選挙前に「アベノミクス」の総崩壊が不可避となった。窮地に陥った安倍政権は、この間、当面の円高を是正するための「円売り介入」を画策してきた。ところが4月14、15日にワシントンで開かれたG20(20カ国・地域)財務相・中央銀行総裁会議は、日本側の思惑に反して「米当局が日本の円安誘導策をけん制する異例の終幕」(日経新聞4月17日付)となった。
財務相・麻生太郎はワシントン到着後すぐに米財務長官ルーと会談し、「円相場の偏った動きを懸念している」と述べて円売り介入への了解を求めた。だがルーは15日の記者会見で、当初「為替相場は秩序的だ」とだけ述べるはずだったコメントをアドリブで変更し、「円高が進んでいるものの為替相場は秩序的だ」として日本の円安誘導策をけん制した。市場が注目する公の場で麻生の主張に真っ向から反論したのだ。またルーは「日本は外需より内需に目を向けるべきだ」と付け加え「野心的な構造改革」を推進するよう促した。
「監視対象国」に日本を指定
さらなる決定打は、米政府・財務省が29日に発表した為替報告書で、日本を含む5カ国・地域の為替政策を「監視対象」に指定したことである。これは、米財務省が、不当な通貨安誘導に動いた国や地域を「為替操作国」と認定して制裁を発動するためのもので、今回の報告書で初めて「監視対象」が指定され、中国、ドイツ、日本、韓国、台湾を入れた。報告書は特に日本に対して「金融政策だけでは均衡ある成長が実現しない」と指摘し、日銀が追加緩和や円安誘導に動くことを露骨にけん制した。これに衝撃を受けた麻生は、「(円相場は)明らかに一方に偏った投機的な動きだ」「必要に応じた適切な対応をする」と述べ、米帝の意向に反して円売り介入も辞さないとの姿勢を示した。だが、実際には円・ドル相場への市場介入は、米側の了解なしにはほとんど効果をあげられない。
何より5月伊勢志摩サミットを目前に控えて、「議長国」である日本が米などの了解なしに円売り介入に踏み込んで通貨安競争を招くことになれば、G7(主要7カ国)の分裂・解体と争闘戦の果てしない激化は不可避であり、その中で最も脆弱な日帝の絶望的孤立化も避けられない。
これまで円安・株高をほとんど唯一のてこに政権を維持してきたアベノミクスは、米帝が円安を容認することで成り立ってきたにすぎない。だが、今や米帝はドル高修正に方針を転換した。
オバマはTPP(環太平洋経済連携協定)の早期批准に向け、アジア各国の通貨安誘導を抑制し、米帝資本によるアジア太平洋地域の市場制圧の道筋をつくろうと必死だ。TPPにおいて、米帝の最大の域内競争相手となるのは言うまでもなく日本である。すでに11月の大統領本選に向け、民主党のクリントンも共和党のトランプも「中国と日本は為替操作国だ」と絶叫し、ともに米帝資本の利害を代表して対日争闘戦(為替戦争)の激化を構えている。
日米安保粉砕し世界革命を
こうした中、安倍は打開策を求めて5月連休中に欧州6カ国(イタリア、フランス、ベルギー、ドイツ、イギリス、ロシア)を歴訪し、特に英・独に対して「機動的な財政出動」を強く求めた。だが独メルケルと英キャメロンはこれに応じず、結論は先送りとされた。伊勢志摩サミットを前に、安倍は八方ふさがりの危機に陥っている。安保政策においても、新たな日米矛盾が爆発している。4月1日の日米首脳会談では、沖縄・辺野古新基地建設の工事が中断されたことに対し、オバマは不満をあらわにした。だが安倍は、7月選挙を前に辺野古問題が焦点化するのを避けるために、そして何より沖縄の怒りが全島ゼネストとなって爆発することを恐れて、当面は工事を中断せざるを得ない。この策動自体があくまで基地建設を強行するための悪らつな「仕掛け」であり、戦争態勢構築のための新たな攻撃でもあるが、安倍は今や確実に追い詰められている。
「普天間返還」の日米合意から20年。不屈に辺野古基地建設を阻止してきた闘いによって、辺野古は日米安保の最大の弱点・破綻点となった。今こそ怒りの全島ゼネストで決着をつける時だ。日米安保を粉砕し、国境を越えた労働者の団結とプロレタリア世界革命で米日帝国主義に最後の断を下そう。
(水樹豊)