ドイツ 鉄道事故 民営化が人命奪う 原因は信号担当者の削減だ

週刊『前進』04頁(2731号02面04)(2016/03/14)


ドイツ 鉄道事故
 民営化が人命奪う
 原因は信号担当者の削減だ

(写真 単線での列車の正面衝突で運転士を含む11人が死亡した)

独機関士労組が重大な指摘

 2月9日、ドイツ・バイエルン州のバートアイブリング近郊(州都ミュンヘンの南東約60㌔)で2台のローカル線列車が単線区間内で正面衝突し、運転士を含む11人が死亡した。マスコミは「人為的ミス」と報じ、一切を信号操作所の列車運行業務担当者の責任としている。
 現実はどうなのか。ドイツ機関士労組(GDL)のベルリン都市鉄道支部のクルト・シュナイダーさんが現場からの報告を送ってくれたので、まず紹介したい。
  □  □
 バートアイブリングの列車事故の原因は、周知のとおりである。単線となっているこの区間の両端の信号とポイントを管理していた列車運行業務担当者が、2台の列車を同時に同じ区間の線路に進入させてしまったのである。以前は単線区間の両端の各駅に1人ずつ列車運行業務担当者が配置されており、この個所の信号に責任をもっていた。ところが現在では、単線区の両端に責任をもつのは1人の列車運行業務担当者であり、一つの制御台で信号操作の作業にあたっている。
 単線区の両端にそれぞれ1人、都合2人の列車運行業務担当者が配置されていれば、単線区間の業務に関して2人の間で情報の交換ができたことは間違いない。バートアイブリングの場合はそれが1人の担当者だったのだ。人員削減の結果、単線の他の末端にいるはずの1人の列車運行業務担当者が減らされ、もう1人の担当者の過失に気付く人はいなくなり、事故を回避することができなかったということだ。
 さらにもう一つの問題がある。列車運行業務担当者は、自分の過ちに気付き、両方面から接近していた二つの列車に緊急無線通信を送った。だが、この緊急通報は双方の列車に届かなかった。列車が走っていたのはちょうど無線が届かない地域だったからだ。その時にはもう列車を止めることができなかったのだ。
 列車の無線網はDB Netz(ドイツ鉄道・軌道/駅舎営繕会社)というドイツ鉄道株式会社のインフラ部門担当企業が担っている。こうした分社化・子会社化により、無線アンテナの配置が少なすぎることとなり、どの列車に対してもいつでも緊急呼び出しができる状態にはなっていない。費用削減の結果、ドイツ鉄道株式会社の無線網はいたるところに設置されているわけではない。ベルリン都市鉄道の場合もそうである。
 われわれの組合の追悼集会では、死亡した鉄道労働者の仲間たちと乗客の人々に対して黙禱(もくとう)をささげた。

自動停止装置の配備もせず

 以上のレポートから明らかなように、この重大事故の根本原因はドイツ鉄道の民営化・分社化による業務の細分化、経費削減による人減らし、装備のカットなどに示される安全の軽視にある。
 ドイツの鉄道網の大部分は単線だ。全体で3万3200㌔メートルの路線のうち単線が1万5千㌔メートルで、ローカル線だけでなく幹線やICE(国際急行列車)の路線も単線が多い。事故の起きたバイエルン州では全線路の半分、6千㌔メートルが単線だ。
 列車の安全装置を担当しているのはDB Netzで、信号が赤になると運転士はキーを押して信号を受け取ったことを確認するが、確認がない場合には自動的にブレーキがかかる仕組みだ。だが、こうした装置が配備されていない区間があることが指摘されている。

極限まで進む業務の細分化

 東西ドイツの国鉄はドイツ統一後の1994年に統合された上で民営化され、96年には持ち株会社のDBに移行した。鉄道業務は旅客列車運行部門、貨物列車運行部門、軌道の保守と駅の管理運営部門など多数の子会社に細分化された。列車を走らせる会社と、列車の運行を管理するのは別会社だ。地域鉄道の管理も州に移管され、各州が業務を鉄道会社に請け負わせる形になった。
 バイエルン州の鉄道はバイエルン高地鉄道有限会社に委託されているが、その親会社はフランスの交通コンツェルン=トランスデフだ。トランスデフはフランスの国有金融機関CDUと上場コンツェルン=ヴェオリア環境会社の2社の支配下にあり、車両はスイス製だった。
 こうした民営化・外注化のもとで次のような事故が起きている。
 2003年6月 バーデンビュルテンブルク州で2台のローカル線列車が衝突、6人が死亡
 09年10月 ザクセン州での記念行事で列車が衝突、52人が重傷
 11年1月 ザクセンアンハルト州でローカル線の列車が貨物列車と衝突、10人が死亡
 12年4月 ヘッセン州で電車が工事用車両に衝突、3人が死亡
 14年8月 マンハイムで貨物列車がユーロシティ(国際列車)と衝突、35人が負傷
 新自由主義下で鉄道の民営化による安全の解体と労働者・乗客の労働・生命の抹殺は世界中で起きている。国際連帯を発展させ、動労総連合を全国に建設し、反合理化・運転保安闘争に立とう。
〔川武信夫〕

このエントリーをはてなブックマークに追加