書評 森岡孝二著『雇用身分社会』 派遣法で戦前が復活すると暴く
週刊『前進』04頁(2729号02面05)(2016/03/07)
書評
森岡孝二著『雇用身分社会』
派遣法で戦前が復活すると暴く
「労働条件の底が抜けた? 派遣はいつでも切られる身分。パートは賞与なし、昇給なしの低時給で雇い止めされる身分。正社員は時間の鎖に縛られて『奴隷』的に働くか、リストラされて労働市場を漂流する身分――。こんな働き方があっていいのか」。『雇用身分社会』(森岡孝二、15年10月岩波新書)のカバー折り返しにはこう書かれています。今や派遣労働やパート労働が4割を占め、過重労働で過労死が多発するとともに「正社員の消滅」が現実のものとして迫っています。この10割非正規職化を狙う新自由主義攻撃について、本書は経過を追って明らかにしていきます。
歴史的転換点となったのは、国鉄分割・民営化と同時に進められた1985年労働者派遣法の成立でした。本書は「派遣で戦前の働き方が復活」と描き出しています。大正末期の『女工哀史』などに示された紡績工場や製糸工場での女性工員の雇用と労働を概観し、派遣制度の解禁と自由化で戦前のような雇用関係が復活したとします。多数の過労死・過労自殺を生んだ『女工哀史』の現実は過去の話ではありません。今現在の問題です。昨年9月に安保戦争法とともに成立した改悪派遣法は最悪であり、そのことが戦前の工場労働の実態を追う中で逆に明らかになり、怒りが込み上げてきます。
さらに女性労働者が大半を占めるパート労働の実態と正規職労働者の長時間労働、限定正社員制度導入の問題を取り上げて、労働者を分断して誇りと尊厳を奪い労働そのものを破壊するに至った社会の現実を取り上げていきます。
本書は「総評が解散して連合が発足した89年以降、日本はほとんどストライキがない国になった」と指摘しています。政府や資本による階級戦争攻撃に立ち向かう労働組合の闘いにすべてがかかっているということです。中曽根政権による国鉄分割・民営化は、闘う労働運動の解体と改憲・戦争国家化を目的に強行されました。しかしそれと真っ向から立ち向かって30年を超える国鉄闘争が闘われてきました。
今日の社会を覆う非正規職化による雇用破壊、労働破壊と団結破壊、貧困の攻撃との対決は、もはや資本主義体制の枠内での政策の変更の問題ではありません。国鉄決戦を基軸に労働者の団結と絶対反対のストライキで闘う階級的労働運動であり、動労千葉・動労水戸―動労総連合の闘い、韓国・民主労総のゼネストの闘いです。プロレタリア世界革命にこそ希望があり、資本の支配を打ち破って労働者が主人公となる社会をつくり出す力が労働組合にはあるにもかかわらず、残念ながら本書はそのことには触れていません。
本書は雇用が固定的な「身分」になったと強調しています。しかし労働者階級はひとつであり、分断攻撃をのりこえて団結し闘いに立ち上がる力があります。安倍政権が進める戦争・改憲と一体の労働法制大改悪と対決し、派遣法粉砕・非正規職撤廃、外注化阻止へ闘いぬく動労総連合を先頭とするストライキにこそ全労働者の未来があります。この本を読んで、そのことを一層強く確信しました。
著者は関西大学名誉教授で大阪過労死問題連絡会会長を務め『働きすぎの時代』(岩波新書)など多数の著作があり、本書は「こうした研究の一応の締めくくり」として出されています。労働運動の前進の観点からぜひ一読していただきたいと思います。
(大迫達志)