反原発3・11郡山集会へ 福島からの訴え④ 被曝の影響否定を許さない ふくしま共同診療所院長/福島市 布施幸彦さん

週刊『前進』04頁(2727号03面01)(2016/02/29)


反原発3・11郡山集会へ
 福島からの訴え④
 被曝の影響否定を許さない
 ふくしま共同診療所院長/福島市 布施幸彦さん

甲状腺がん167人

 ----2月15日に県民健康調査検討委員会が行われましたね。
 昨年末現在の小児甲状腺がんが疑いを含め167人、そのうち117人が手術を終えたと発表されました。11〜13年度の先行検査の時には「A1判定(結節やのう胞を認めなかった)」や「A2判定(5㍉以下の結節や20㍉以下ののう胞を認めた)」だったのに、14年度以降の本格検査で新たに見つかった子どもは51人。先行検査以降の2〜3年で新たに発症したということです。
 受診者は約30万人なので、先行検査では約2600人に1人くらいだった発症率が、今は約1800人に1人と、どんどん高くなっています。
 それでも検討委は「放射線の影響は考えにくい」と言っています。理由は「被曝線量がチェルノブイリ事故と比べてはるかに少ない」「被曝からがん発見までの期間がおおむね1年から4年と短い」「事故当時5歳以下からの発見はない」「地域別の発見率に大きな差がない」などです。
 しかしその理由はみな論破されています。『世界』3月号でロシア研究者の尾松亮さんが、チェルノブイリ原発事故25周年に発行された『ロシア政府報告書』を紹介しました。そこには1986年のチェルノブイリ事故の翌年に甲状腺がんが増えたと書かれています。2年目から増加し、その後4〜5年後に大幅に増加したというのです。
 「チェルノブイリでは事故時5歳以下で多発した。福島では事故時5歳以下の発症がない」とも言われます。しかし同報告書によれば、チェルノブイリ事故時15〜19歳の甲状腺がんは事故直後の年から増え始め、事故時0〜5歳の子どもに増えたのは10年後でした。福島の現状はチェルノブイリに近似しています。
 「福島の被曝線量がチェルノブイリ事故と比べてはるかに少ない」というのも理由にはなりません。UNSCEAR(原子放射線の影響に関する国連科学委員会)は、チェルノブイリ原発事故の高度汚染地域は1歳児の甲状腺吸収量が500㍉グレイ、福島県の最大値は約80㍉グレイと推計しています。しかしチェルノブイリ原発から500㌔以上離れ、10〜50㍉グレイ程度の甲状腺吸収量だった地域でも小児甲状腺がんは増えました。
 さらに「地域別の発見率に大きな差がない」という主張に対しては、岡山大学の津田敏秀教授が昨年10月の論文で全面的に反論しました。
 何の検証も行わずに「放射線の影響は考えにくい」と言い続けるのはおかしい。現実に甲状腺がんが多発しているという事実から出発して、そこから原因を探るべきなのです。
 検査の対象者のうち、高校を卒業して県外に出た人も多い。18歳以上で本格検査を受けた人は25%しかいません。またこれまで2年に1回だった検査が、今後、20歳を過ぎると5年に1回に減ります。受診する機会が減れば、のどが腫れるなどの症状が出るまで甲状腺がんが発見されないということも起きかねません。もっと密でていねいな検査が必要です。

親とつながって

 ----この間の診療所の活動を教えてください。
 甲状腺エコー検査を続けています。検査を続けている親御さんは被曝の影響を本当に心配しています。帰還の対象となる人は不安を感じているし、これ以上被曝したくないから多くの人が戻りません。昨年9月に避難指示が解除された楢葉町に戻った住民はたったの5・9%です。
 被曝を真剣に心配しているお母さんたちの思いは根底的です。彼女らの横の連携をつくりたいと考え、保養活動に参加した家族の交流会をやっています。仲間をつくりいろいろ話し合いながら、声を上げ、必要なことを行政に要求していくネットワークが必要です。
 診療所は仮設住宅の個別訪問も行っています。これからは復興住宅の訪問も始めます。仮設ができた時は、まったく知らない人たちが集まり一から人間関係をつくってきた。今度は復興住宅に移り、また新しい人間関係をつくらなければならない。大変なことです。孤独死が起きたりしないよう取り組んでいきたい。
 動労水戸平(たいら)支部やいわき合同ユニオンと連携して、いわきでも医療活動を行いたい。原発労働者や除染労働者、護岸工事などの建設労働者、運輸労働者など被曝労働をしている労働者とつながっていくために、いわきでの活動が重要だと思っています。

共産党も安全派

 ----日本共産党も「安全・安心」と宣伝しているそうですね。
 県医師会が昨年9月に県北の医師を対象に「放射線と健康」研修会を行い、私も参加しました。
 講演したわたり病院の齋藤紀(おさむ)医師は「福島の放出放射能はチェルノブイリに比べれば非常に低い。放射能による健康被害が起こるレベルではない。低線量被曝を心配する人がいるが、100㍉シーベルト以下の放射能の影響はきわめて軽微で心配することはない」と話しました。甲状腺がんの多発については、「甲状腺がんの多発は高性能エコーにより全世界で増えており、福島だけが特別ではない。放射能恐怖症のために運動をしなくなり肥満が増え、それによる健康障害のほうが問題」と言いました。
 わたり病院は民医連の拠点病院で、齋藤医師は広島・長崎の被爆者が国を訴えた「原爆症認定集団訴訟」で被爆者の勝訴をかちとった、肥田舜太郎さんと並ぶ中心人物です。内部被曝問題に取り組んできた人だからこそ影響力が大きい。大変な問題だと思っています。

声を上げ続ける

 ----3・11福島行動へ向けた思いは。
 3・11から5年をもって「福島の原発事故は終わった」と演出しようとすることなど、絶対に許すわけにはいきません。
 診療所への注目は確実に広がっています。全国各地の報告会には、どこでも100人ぐらい参加してくれます。最近は韓国、ドイツ、ブラジルなど海外のメディアが毎週のように診療所に取材に来ています。
 県内の医師でも県当局や県医師会の対応について「おかしい」と思っている人は多い。だからこそ僕たちが声を上げ続けていく意味は大きいと思います。
 昨年秋に動労福島が結成されました。福島市に診療所、郡山市に動労福島、いわき市に動労水戸という柱が立ち、力を合わせて今年の3・11をやります。チャンスだし勝負の時です。一緒に声を上げましょう。
(連載おわり)

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ふくしま共同診療所
◎福島市太田町20―7佐周ビル1階
 JR福島駅西口より徒歩5分
 福島民報ビル前交差点南側
◎診療科目 内科/放射線科/循環器科/リウマチ科
◎ウェブサイト「ふくしま共同診療所」で検索

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原発なくせ! 戦争やめろ!
ビキニデー東京集会
 3月1日(火)午後7時(6時30分開場)
 杉並区勤労福祉会館・ホール(杉並区桃井4―3―2)
 講演 ふくしま共同診療所院長 布施幸彦医師
 「原発事故から5年 フクシマの現実と怒り」
 主催 すべての原発いますぐなくそう!全国会議(NAZEN)

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