焦点 30年代から闘う米労働者 自動車都市で鉛水道水に怒り
焦点
30年代から闘う米労働者
自動車都市で鉛水道水に怒り
五大湖に近いミシガン州フリント市は、1936〜37年の自動車工場「座り込みストライキ」が闘われた所だ。工場を占拠した自動車労働者を守るために、家族会や各地から駆けつけた支援労働者が警察や州兵部隊と闘い、地域全体を制圧した。この闘いの勝利で全米自動車労組(UAW)は一挙に全米に拡大し、30年代アメリカ階級闘争を牽引(けんいん)した。フリントの労働者は代々この闘いを継承し、階級闘争の戦闘的拠点であることを誇りにしている。
ここで今、水道水を汚染させた当局、特に州知事への怒りの闘いが爆発している。
●緊急対応濃度の27倍の汚染
フリントの水道水の原水は、14年4月からフリント川から取水することになった。だがフリント川は、味や臭いからもすぐに分かるほど汚染がひどい。酸性で塩分濃度が高いため、鉛の水道管を腐食する。市民が測定を依頼した結果、400ppbという鉛濃度が出た。鉛は蓄積性があるため、微量でも危険だ。米連邦政府が緊急対応する必要があるとした基準でも15ppbだ。フリントの汚染濃度はその27倍だ。1日たりとも放置できない。
だが、市・州当局は意図的に警告を隠蔽(いんぺい)して汚染水使用を続け、1万人以上の市民の血中鉛濃度が「高濃度」になってしまった。特に子どもたちが脳・神経にダメージを受けた。レジオネラ症も大量発生している。
「スナイダー知事を監獄にたたきこめ!」――この大犯罪を引き起こした当局への怒りは全州・全米に広がっている。10万市民の安全な飲み水を確保するために、各地からミネラルウォーターを積んだキャラバンが到着している。36〜37年の工場占拠スト以来の支援の結集だ。08年リーマンショック以来加速した自治体破壊・生活破壊は、全米の労働者・市民にとって他人事ではないからだ。
●大恐慌と自治体破産攻撃
フリントの水道水は以前は、デトロイト市上下水道局から供給されていた。
だが、08年リーマンショックとGM(ゼネラルモーターズ)の破産で、「自動車の首都」デトロイトも破産し、州知事は、巨大金融資本の顧問弁護士を市の「非常事態管理人」に任命し、独裁権を与えた。
14年、同市の上下水道局は売却・民営化された。値上げされた水道料金が払えなくなった市民は、水道が止められた。
また、すでに破産していたフリント市にも非常事態管理人が任命されており、デトロイト水道会社との水道水代金を巡って互いに抗争した。そして、フリント市の水源をフリント川の水に切り替えた。
そして、高濃度の鉛汚染のデータが突きつけられ、市議会で15年4月に水源を元のデトロイトに戻すという決議が上げられたにもかかわらず、年末までフリント川の水を使い続けたのだ。非常事態管理人は、議会も市長も無視しうる権限を与えられているのだ。
●UAW本部と組合員が激突
だが、年末・年始にかけて状況は一変した。フリント市と全州・全米での闘いの高まりの中でフリント市長が12月に健康被害「非常事態」を宣言した。各界での州知事辞任要求も広がり、知事自身が1月には「謝罪」と「非常事態宣言」を出さざるを得なくなった。
この闘いの前進の軸になったのが、UAW本部と対決するUAWのランク&ファイル(現場労働者)運動だ。
UAW本部は、09年のオバマ政権のGM、クライスラーの破産処理の共犯となった。UAW自身が会社の大株主となって組合幹部が利権にあずかることと引き換えに、組合員の年金・医療を売り渡した。最悪なことは、組合員を2層化し、「第2層労働者」の賃金は半額化し、また雇用保障・年金・医療などの無権利化を進めたことだ。団結破壊を組合幹部自身が推進したのだ。
これに対して、昨年9〜10月の過程で、巨大な反乱が組織された。フィアット・クライスラー社の4万人の労働者の6割以上がランク&ファイル運動の主張に賛同し、本部が締結した2層化を継続する労働協約案を否決したのだ。特に「第1層」の労働者が工場移転の恫喝に屈せず「第2層」労働者との団結を選択したことの意義は巨大だ。
リーマンショック以来の流れを逆転させる闘いの始まりだ。
職場生産点での闘いを基礎にした力が、地域全体を組織する圧倒的な求心力になったのだ。