焦点 TPP「大筋合意」の反動的本質 対中国ブロック化と安保戦略

週刊『前進』08頁(2702号05面02)(2015/10/19)


焦点
 TPP「大筋合意」の反動的本質
 対中国ブロック化と安保戦略


 米ジョージア州アトランタで9月30日〜10月5日に開催されたTPP(環太平洋経済連携協定)交渉会合において、交渉参加12カ国は5日の記者会見で「大筋合意」に達したと発表した。これを受けて、日本の大手マスコミは一斉に「全世界GDPの4割を占める巨大経済圏の誕生」「日本の経済成長を底上げ」「企業の活動や国民生活に追い風」などと騒ぎ立て、あたかも日本経済にバラ色の未来が約束されたかのように大宣伝している。
●オバマ「中国にルール書かせない」
 だが実際には、合意はあくまで「大筋」にすぎず、12カ国が細部まで合意したとは到底いえない。各国議会での承認手続きも紛糾が不可避であり、成立・発効のめどは立っていない。
 交渉内容もほとんどが秘密であり、どこまで具体的に合意したのかも不明である。しかも、12カ国閣僚による共同声明は「合意の結果を公式化するには完成版協定テキストを準備する作業を継続しなければならない」として、協定そのものが出来上がっていないことを認めている。要するに今回の会合は、10月にカナダ総選挙、来年に米大統領選挙を控え、この機を逃せばTPPの漂流・決裂が必至という中で、米帝と日帝が他の参加国を押し切る形でひとまずの「大筋合意」を政治的に演出したものにすぎない。実際には参加12カ国の間で数多くの論点や対立を残したままの「合意」なのである。
 そもそもTPPは「2013年妥結・成立」という当初の目標が大破産して以来、交渉のたびに矛盾・対立を噴出させてきた。今回の会合も、当初2日間の予定を米帝の要求で2度も延長する異例の事態を経て、交渉6日目にようやく「薄氷合意」に至った。難航した米豪間の医薬品データ保護期間では、米帝は大幅に譲歩した。
 これを受けてオバマは、ただちに「中国に世界経済のルールを書かせるわけにはいかない。われわれがルールを書き、米国製品の新たな市場を開く」と声明した。TPPとは単なる経済協定ではなく、当初から一貫して、米帝の軍事面での「アジア太平洋リバランス(再均衡)」戦略と両輪をなす対中国の安保戦略としてあった。
 米帝が内容上の譲歩も辞さず「合意」にこだわったのはそのためだ。これまでTPP交渉が難航を続ける間、中国は「一帯一路(シルクロード経済圏)構想」をぶち上げ、AIIB(アジアインフラ投資銀行)の設立に欧州各国や韓国、オーストラリアなど57カ国を取り込み、米帝と日帝をあわてさせた。また日帝はインドネシアの高速鉄道の受注を中国に奪われる通商的惨敗を喫した。焦った米日帝は、今会合で交渉内容よりも「大筋合意」を打ち出すことを最優先としたのである。
 こうした対中国の「ブロック化戦略」としてのTPPは、大恐慌下での世界経済の分裂化とブロック化を加速度的に進行させ、第2次大戦前夜と同様の戦争危機を切迫させるものだ。
 TPPが発効すれば、特に日本の農業分野では関税を撤廃したことのない834品目のうち400品目以上の関税が撤廃される。「聖域を守る」などという政府・与党のペテンは完全に吹き飛び、農業と関連産業への壊滅的打撃は不可避だ。だが安倍はそれをも奇貨として「農業の構造改革」を叫んでいる。また産業競争力会議の民間議員で国家戦略特区諮問会議メンバーの竹中平蔵(慶応大教授)は、「TPPをテコに国内改革を進めることが重要」「規制改革を進める上でTPPという外部からのプレッシャーが大きな役割を果たす」として、TPP正式調印を待たずに規制改革を推進しろと主張している(10月12日付産経新聞)。
●新自由主義への大反乱は不可避
 まさにTPPは、「岩盤規制の解体」や「特区」攻撃、解雇自由化の攻撃と一体であり、一握りの大企業・大資本の利益と延命のために、農業や医療に壊滅的打撃を与えると同時に、労働者への階級戦争を激化させる究極の新自由主義攻撃にほかならない。
 だがTPP批准・成立に向けた動きは、各国で労働者階級人民の怒りの反乱を引き起こさずにはおかない。ドイツでは10月11日、「欧州版TPP」といわれるTTIP(環大西洋貿易投資協定)反対デモに25万人が結集し、首都ベルリンの街路を埋め尽くした。
 階級的労働運動と国際連帯の闘いでTPPを粉砕し、安倍を打倒しよう。

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