福島第一原発 汚染水の海洋投棄を許すな 事故収束へ闘う労組が必要だ

週刊『前進』06頁(2700号04面01)(2015/10/05)


福島第一原発
 汚染水の海洋投棄を許すな
 事故収束へ闘う労組が必要だ


 政府と東京電力は8月25日に福島県の漁協の承認を強引に取り付け、原子炉建屋直近の井戸などから汚染した地下水を〝くみ上げて浄化した〟と称して、9月28日から汚染水の海洋への投棄を本格的に開始した(「サブドレン計画」)。「汚染水対策の抜本策」などと言いなしているが、昨年5月から強行している地下水バイパスの海洋投棄(本紙2634号5面参照)に続く暴挙であり、やがては原子炉建屋からくみ上げた高濃度汚染水の無制限の海洋投棄に行き着く攻撃だ。

保管する汚染水52万㌧に

 「サブドレン計画」とは、原子炉建屋直近のサブドレンの井戸水くみ出しと、工事中の海側遮水壁直近の地下水ドレンの井戸水くみ出しをセットにしたもの。現在日々300㌧も増え続けている汚染水を建屋直近の井戸などから地下水をくみ出し海洋投棄することで、半分に減らしたいというものだ(図参照)。
 サブドレンとは、事故前から設置していた井戸である。福島第一原発は海抜30㍍の海岸段丘の縁にあった沢を削り取った場所に設置され、建設当初から大量の地下水に悩まされてきた。放置すると建屋が地下水の浮力で傾く危険性があるので、建設当初から建屋直近に57本ものサブドレンを設置し、地下水をくみ出し続けてきた。このサブドレンが事故時の爆発によるがれきで埋まって使えなくなっていた。そのがれきを撤去して41本を再度使おうというものだ。
 地下水ドレンとは、海岸線に沿って建設中の海側遮水壁の内側に掘られた井戸で地下水位調整のため東電が事故後に5本掘ったものだ。
 原子炉建屋直近のサブドレンおよび原子炉建屋爆発の残骸が散乱していた海岸近くの地下水ドレンからは高濃度の放射性物質が検出され、そのままでの海洋投棄は問題にもならない。そこで東電は放射性物質について一定の浄化を行うとしている。その目標値は浄化後に1㍑あたり、セシウム134、137については1ベクレル以下、ベータ線を出す核種については3ベクレル以下、それ以外にトリチウムについては1500ベクレル以下である。つまり、トリチウムは取り除けないということだ。
 東電がトリチウムによって汚染された井戸水を強引に海洋投棄しようというのは、汚染水対策が破産しているからだ。
 8月20日現在、構内には953基もの汚染水タンクがあり、合わせて約52万㌧の汚染水を保管している。構内は多くの樹木を伐採し尽くして〝タンク並木〟の様相を呈している。タンク増設は限界に近づきつつある。
 そもそも事故直後に放射能を閉じ込める抜本策がいくつか検討されていたにもかかわらず、その場しのぎの「打ち水方式」を続けてきたツケがきているということだ。
 ところが原子力規制委員会の田中俊一委員長は「世論に迎合せず海洋放出してタンクを増やさないようにすべきだ」などと繰り返し発言している。今回の「サブドレン計画」による汚染水の海洋投棄は、このような規制委員会と政府の意向に沿ったものなのだ。

漁民を恫喝し屈服強いる

 規制委と東電は地元漁民が「サブドレン計画」を承認しないことには汚染水対策が進まないと恫喝してきた。
 政府と東電の言う汚染水対策とは、原子炉建屋周辺の地下を氷の壁で取り囲む「凍土遮水壁」と、海岸直近に打ち込んだ鉄パイプを並べて海洋への汚染地下水流出を防止する海側遮水壁だ。これらの効果については大いに疑問があるが、地元漁民にとっては一定の希望となっていた。
 ところが、あくどいことに規制委は7月1日に「陸側(凍土)遮水壁運用の大前提は、サブドレンと地下水ドレンの運用と海側遮水壁の閉合だ」と発言した。さらに東電は地下水ドレンが使えないと行き場を失って上昇した地下水が地上にあふれるトラブルが起こる恐れがあるなどと言って海側遮水壁の工事を中断し、一部を開けたままにして汚染した地下水の海洋流出を放置してきた。
 だがサブドレンや地下水ドレンからくみ上げた井戸水の海洋投棄と汚染水対策とは何の関係もない。タンクで保管すればいいだけのことだ。要はタンクの容量が限界に近づいているから、何が何でも最初に海洋投棄ありきということなのだ。
 この〝汚染水対策が進まないのは地元漁民が「サブドレン計画」を承認しないからだ〟というペテン的な恫喝の前に、福島県の漁協は8月25日にやむなく計画を承認することになった。

トリチウムの放出で被曝

 トリチウムとは、3重水素とも呼ばれ、自然界に存在する水素が陽子1個だけであるのに比し、陽子1個、中性子2個からなる元素で、陽子数が同じことから普通の水素と化学的には区別されない。ただ中性子が二つ多いため不安定な存在であり、ベータ線を発する放射能を持つ。
 この〝ちょっと変わった水素〟は人体に多大な影響を及ぼす。トリチウムのやっかいな点は、放射性物質でありながら、水素という大気中にごくありふれた物質であり、身体に必須の元素であるという点にある。
 人体の約70%は水で構成されていると言われている。周知のように水は水素二つと酸素一つで構成されている。水を構成する水素は化学的性質が同じことから簡単にトリチウムに置き換わる。
 この放射能を持ったトリチウム水が体内に入ってくると内部被曝を起こす。またこのトリチウム水のトリチウムが骨や筋肉の水素と置き換わることでトリチウム水と比べて10倍以上も長期間体内にとどまり続け、内部被曝を起こし続ける。
 トリチウム放出量が日本で稼働している軽水炉よりも多いカナダのCANDU炉が集中立地する地域の周辺で、子どもたちに異常が起きていることが1988年に市民グループによって明らかにされている。
 福島第一原発事故は収束にはほど遠い。東電ですら「百里のうちの三里ほど」と言わざるを得ないのが現状だ。次世代にまで続く原発収束をやり遂げるためにも原発労働者の労働組合をつくることが必要だ。被曝労働拒否を掲げる動労水戸と一体で原発労働者の労働組合をつくり、11・1労働者集会に結集しよう。
(城之崎進)

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