『放射線被曝の理科・社会』を批判する 「覚悟を決めろ」と被曝強制
『放射線被曝の理科・社会』を批判する
「覚悟を決めろ」と被曝強制
『放射線被曝の理科・社会』という書籍が昨年12月に出版された。中身は、悪名高いIAEA(国際原子力機関)などが語っていることとまったく同じだ。この書籍は「脱被曝」を掲げながら、実は、福島県民・全国の労働者人民に放射線被曝を強制する極悪の書だ。
共産党と御用学者が結託
本書の筆者は3人で、児玉一八は原発問題住民運動全国連絡センター代表委員、野口邦和は日本共産党系の原水爆禁止世界大会実行委員会運営委員会代表であり、共産党のこの分野での代表格である。清水修二は、福島大学副学長をへて現在は特任教授。福島県県民健康調査検討委員会副座長であり、福島の放射能汚染と健康被害の現実を隠蔽(いんぺい)・抹殺している張本人である。
こうした連中が、小児甲状腺がんの多発、汚染地への帰還強制攻撃の強まり、核武装のための原発再稼働という情勢下で、安倍政権・福島県の最悪の先兵となって立ち現れてきているのだ。これとの対決は、福島のみならずすべての労働者人民の最重要の課題をなす。
JR東海葛西も「覚悟」要求
「低線量放射線被曝に関しては......汚染されてしまったのはどうしようもない現実ですので、覚悟を決めて向き合って選択していくしかありません」(144㌻) 「日本人は、あってはならない事故が起こってしまった現実に正面から向き合う覚悟も、持っていない」(186㌻)
明白に〝放射能汚染の現実に覚悟を決めろ〟と言っている。この本は全編を通して、「事故による健康被害は出ない」と言う。それなら結論は〝大丈夫〟となるはずである。ところがそうではなく、「覚悟を決めろ」なのだ。本音では健康被害が出ると思っているからだ。ちなみに野口は11年10月3日の二本松市の講演で「セシウムはあと6年たてば放射線量は半分以下になる。そこまでの辛抱だから頑張りましょう」と放言した。「覚悟」と同じように「辛抱しろ」と言うのだ。
同じく「覚悟を決めて」と言ったのは、JR東海の葛西敬之会長(当時)である。葛西は12年9月10日付読売新聞で、福島原発事故により交通事故死亡者(「毎年5000人」)程度の死者が出るとしても「覚悟を決めて(原発を)活用する」べきと述べた。〝死者が年5000人でも覚悟しろ〟と! 葛西という安倍側近の財界トップと同じ言葉を使って、放射能汚染に「覚悟を決めろ」というのは、〝死を覚悟しろ〟ということになるではないか。
しかも今この時に、こう言うのは偶然ではない。事故から4年をへて小児甲状腺がんなどが多発しているのに、政府・福島県は「事故の影響ではない」と言い張る。政府は6月12日の閣議で「17年3月に避難指示を解除する」と決定し、汚染地帯への帰還を強制しようとしている。そうした命をめぐる攻防の真っただ中で「(放射能汚染に)覚悟を決めろ」と言うのは、この政府・県に従えということを意味する。
内部被曝の危険性を否定
「内部被曝は、事故直後から食品の放射能監視体制を整備して検査にあたってきた日本ではほとんど問題になりません」(83㌻)
「内部被曝は危ないと言われるが、人は『これは食べない』という判断ができるので、内部被曝だからこそ影響をコントロールできる」(表紙の帯)
この書の中身は、放射能に「覚悟を決めろ」と言うため、内部被曝の真実を隠蔽し抹殺することを最大目的にしている。しかし、すべて大うそだ。まず、〝食べない判断ができる→内部被曝は問題ない〟としているが、実際は汚染されている食べ物が「大丈夫」とされたり、あるいは食べたくないのに食べざるを得ない場合が多くある。
しかも、呼吸による放射性微粒子の吸入についても、「粒子状であるから特段に危険になる理屈はない」(46㌻)と言っているが、これもうそである。放射性微粒子である「セシウムボール」は大量・広範囲に飛散しており、「黒い物質」と呼ばれる黒い粉塵(ふんじん)が今も現認されている(『国際労働運動』15年8月反原発総特集号)。極悪の放射線医学総合研究所ですら、放射性微粒子の危険性を認めている(12年『虎の巻 低線量放射線の健康影響』)。何よりも、メルトスルーした福島第一原発の核燃料は密閉されておらず、今も放射性物質が大気中・海洋に放出され続けている。
特に福島などでの小児甲状腺がんを被曝によるものではないとしている。「被曝が原因で甲状腺がんが発症に至るまでに要する期間に関しては......平生からヨウ素の摂取量の多い日本人であればおよそ10年を要する」(156〜157㌻)。そして10年後には「被曝の結果なのかそれとも無関係なのか......その判断が難しくなるかもしれません」(157㌻)と。10年後というのもうそだが、〝10年後にがんが増えても被曝が原因か判断できない〟とまで言う。チェルノブイリ事故でIAEAや日本政府すら小児甲状腺がんだけは原発事故の影響と渋々認めたが、それすら否定する。IAEAよりも極悪だ。
「放射能恐怖症」の大うそ
「チェルノブイリ事故にともなう健康被害や死亡の原因を、放射線被曝によりも『放射線への恐怖』に求める見解があります。放射線への恐怖が過度にあおられたせいで、あたら落とさなくてもいい命を落としたり、生活が荒れて病気になったりした人がいっぱいいるという、いわば『情報災害』への警告です。これがどの程度当たっているか明確には判断できませんが、福島の経験からしても、十分にあり得た話というべきでしょう」(159㌻)
福島の健康被害は放射線被曝の影響ではなく、「放射線への恐怖」による、と言う。「放射能恐怖症」と称して被曝の事実を抹殺するもので、IAEAと同じ主張だ。
86年のチェルノブイリ事故の時、IAEAとその事故調査委員会を牛耳った日本の御用学者たちは、「心理的なストレス」「放射能恐怖症」としか言わなかった。96年のIAEA会議で甲状腺がんだけを事故の影響と認めたが、それ以外の全病症は「ストレス」のせいとした。
「情報災害」という言葉も、福島県放射線健康リスク管理アドバイザーを務める山下俊一が使った言葉だ。『福島原発事故――内部被ばくの真実』(12年3月)の中で山下は、政府側が情報を隠したりうそを流したことに触れず「情報災害」に難癖をつけている。「公表された情報には信頼性が低いもの、科学的根拠が薄弱なもの、無責任に恐怖や不安を煽(あお)るものなども含まれ、情報の錯綜(さくそう)と混乱は東電や政府への不信感とも重なり、その深刻度を増していきました」と、これを「情報災害」と称している。放射能汚染の真実の情報は隠せというのだ。
健康被害は別と原発容認
「健康被害の有無・大小の問題は、原発の是非の問題とは切り離して客観的・科学的に論じなければなりません」(5㌻)
〝被曝問題は原発の是非の問題とは別〟と言っているのだ。では、なぜ原発に反対するのか。原発は常時放射能をまき散らし、大事故ともなれば核戦争以上の放射能被害を引き起こす。被曝と健康被害を問題にしないのであれば、原発に反対とはならない。何よりも「健康被害の有無・大小の問題」と言いながら、原発労働者・除染労働者の被曝問題は完全に対象外にされている。こういう言い方で、筆者たちの基本立場が原発容認であることを自白している。
反原発・脱原発に関わるすべての人が、この書に対する立場を明らかにする義務がある。私たちは、こうした日本共産党スターリン主義者、御用学者たちの敵対を粉砕し、反原発闘争に総決起することを訴える。川内原発の再稼働を許さず、今こそフクシマの怒りをともにし、動労水戸のような被曝労働拒否の闘いを全国に広め、避難・保養・医療の運動に創造的に取り組み、反原発闘争の全人民的で革命的な発展をかちとろう。
[島崎光晴]
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▼96年のIAEA会議
チェルノブイリ原発事故10年に際して開かれ、甲状腺がんだけを「原発事故による被曝」と認めたが、健康被害の最大原因は「ストレス」にあるとした。ミシェル・フェルネクス氏(核戦争防止国際医師会議)はそれを激しく弾劾している。「ストレスの原因は、避難させられたことと、歪んだ情報をつかまされたことにあるというのです。ですから、諸々の当局は次回の事故にあたっては、ストレスを避けなさいということになります。人々を避難させてはいけません、メディアが流す情報はきちんと統制されたものだけにしなさい、ということです」(『チ
ェルノブイリ人民法廷』緑風出版)