ギリシャ危機の核心 国際金融資本に立ち向かうギリシャ労働者階級の闘い ヨーロッパ各地で国際連帯広がる

週刊『前進』08頁(2689号04面03)(2015/07/13)


ギリシャ危機の核心
 国際金融資本に立ち向かうギリシャ労働者階級の闘い
 ヨーロッパ各地で国際連帯広がる

(写真 「緊縮絶対反対!」を叫びながら、首都・アテネの中心街を行進するギリシャ労働者のデモ)

(写真 「『ノー』に連帯」「不当なローンを返済することはマフィアに屈することだ」と叫ぶドイツの労働者人民【ベルリン・ブランデンブルク門前】)

国民投票で「緊縮策ノー」

 7月5日の国民投票でギリシャの労働者階級人民は、EU(欧州連合)の要求する緊縮政策に対して61%の断固たる「ノー」を突きつけた。ドイツのメルケル首相、フランスのオランド大統領、EUのユンケル委員長らは、巨大な衝撃を受け、ただちに対策の協議に入った。
 今回の国民投票は、今年1月のチプラス政権発足以来続けられてきた対外債務の返済をめぐるEU・欧州中央銀行・IMF(国際通貨基金)の3者(トロイカ)とギリシャとの交渉が債務期限の6月30日を前にしても決着がつかず、決行されたものである。このかん債権者としてのEU側は、ギリシャ政府が返済するための借換融資の条件として強硬な緊縮政策を要求してきた。チプラス政権はこれに対し、①年金支給開始年齢の現行62歳から67歳への引き上げ、年金支給額の削減、②付加価値税(消費税)引き上げ(軽減税率の撤廃)などの労働者人民に犠牲を転嫁する案を提出してきたが、EU側はこれでも不十分として、さらなる屈服を要求した。ギリシャの労働者階級人民は「もう我慢できない」と度重なるデモとストに決起しチプラス政権を揺るがしてきた。
 この労働者階級人民の闘いの矛先をそらし、「EU側と強力に交渉した」という形をつくって新自由主義構造調整を強行するために、政府は国民投票という道を選んだのである。他方でチプラスは中国・ロシアとの取り引きも行っている。

医療労働者がストライキ

 ドイツ・フランス・イギリスなどで新自由主義の緊縮政策反対のゼネストが切迫している中で、全欧州のマスコミはギリシャ人民の革命的決起を圧殺しようと、「ノーだったらEUから追放だ」とか「EUの他国は緊縮政策を受け入れているのに、ギリシャだけわがままを言うな」という恫喝とデマを系統的に組織してきた。だが「賛否ギリギリ」という前日までのキャンペーンにもかかわらず、チプラス政権の思惑を超えて圧倒的多数のギリシャ労働者人民が全国で「ノー」を表明したのだ。アテネの広場は勝利宣言のデモ隊で埋め尽くされた。
 年金生活者も青年も口々に「おれたちはEU支配者・官僚どもの奴隷ではない」「年金削減、失業など、この5年あまり苦しみに苦しんできた」「このかん、賃上げはまったくない」「借金はおれたちのせいではない」「敵は吸血鬼のような国際金融資本だ」と、怒りと誇りをもって叫んでいる。
 そのとおりだ。ギリシャ政府が2010年にトロイカに対して債務の返済を約束してから5年間、公務員労働者の賃金は繰り返しカットされ、年金は3分の2に減額、失業率は25%に上昇、輸入は40%減少、GDP(国内総生産)は8年前に比べて25%落ち込むという経済の衰退がもたらされた。これが、トロイカ指導下のギリシャの5年間だったのだ。
 現にチプラス政権のもとで、医療労働者が5月20日に、人員不足・過少な予算に抗議して全国で24時間のストライキに決起している。医師・看護師・救急隊員などが「ギリシャの公共医療は崩壊直前だ」と叫び、「人口の約4分の1にあたる300万人が国民医療サービスを受けられず、まったくの無保険状態に置かれている」という現実を訴えている。

大恐慌を革命への情勢到来

 では、そもそもギリシャ危機の原因は何か。マスコミが騒ぎ立てる「ギリシャ労働者のわがまま」はまったくのうそだ。一切の原因は、新自由主義下の世界経済、とりわけ投機資本、国際金融資本に食いものにされたというところにある。従来からギリシャ政府は、巨大金融資本を徹底的に優遇してきた。例えば、船主会社を免税にする制度があり、そのため「欧州最大の海運国」になっている。また、租税回避地(タックス・ヘイブン)であるキプロスと密接な関係にある。
 そもそも、「ギリシャ財政危機」の発端となったのが、2009年に発足したパパンドレウ政権(全ギリシャ社会主義運動)のもとで暴露された前政権(新民主主義党)の財政赤字隠蔽(いんぺい)問題であった。財政赤字のGDP3%以内というEU加盟条件に合わせるために、実際には13%近くあった財政赤字を4%と捏造(ねつぞう)した問題である。これは、ギリシャの国家信用崩壊から始まって、ヨーロッパと世界の世界大恐慌突入直後の金融市場を揺るがした。
 こうした捏造と隠蔽をギリシャに行わせたのが、米投資銀行ゴールドマン・サックスである。ゴールドマン・サックスは2002年ごろからギリシャ金融当局に新自由主義の産物である金融商品取引の手法である「通貨スワップ」という為替操作を売り込んで、莫大(ばくだい)な利益を得ていた。しかも、ゴールドマン・サックスの社員がギリシャ金融当局の一員として雇われていた。なお、アメリカのブッシュ政権、オバマ政権の財務長官・金融官僚はゴールドマン・サックス出身者で占められている。現欧州中央銀行総裁ドラギもゴールドマン・サックスの元副会長だ。
 だがチプラス政権は、このように金融資本がギリシャを食い物にしている事実を不問に付し、船主免税制度を守る政策を取り、他方で解雇、賃金・年金削減、大衆増税を強行している。ギリシャのデモ隊が「敵は金融資本だ」と叫ぶのは、あまりにも当然だ。
 第2次世界大戦後の戦後革命、3年間にわたる内戦、1967〜74年までの軍事政権の打倒、さらに2010年、EU屈服路線の社民政権をゼネストで揺るがした経験を持つギリシャ労働者階級は6月初旬、「ギリシャからヨーロッパの職場の仲間に連帯を呼びかける」というアピールを発した。これに応えて「ギリシャ人民と連帯しよう」「EUの緊縮政策反対」「新自由主義反対」のデモがヨーロッパ各地で闘われている。世界大恐慌、戦争情勢を革命に転化する道は、階級的労働運動の再建と国際連帯の強化である。
〔川武信夫〕

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