米アムトラック脱線転覆事故 人員減と過労、設備も不備 大惨事もたらした新自由主義

週刊『前進』06頁(2684号02面02)(2015/06/08)


米アムトラック脱線転覆事故
 人員減と過労、設備も不備
 大惨事もたらした新自由主義





(写真 車両はすべて脱線し横転、ひしゃげて大きく破損した)

 5月12日、アメリカのフィラデルフィア近くでアムトラック(米鉄道公社)が死者8人、負傷者200人以上の大脱線事故を起こした。この大事故の翌日、米下院はアムトラックの予算削減を決定した。安全をさらに破壊する攻撃だ。労働者は怒りの反撃を開始している。

機関士を犯罪者扱いし連行

 アムトラック188号列車は首都ワシントンからアメリカ最大の都市ニューヨークに向かう北東回廊路線を走っていた。フィラデルフィア駅を出発して約10分後、時速80㌔で通過すべき急カーブに倍の時速164㌔で進入し、全車両が脱線したという。
 このアムトラックの発表を受け、マスコミはブランドン・ボスティアン機関士のスピード超過をクローズアップして報道した。警察は負傷しているボスティアン氏を病院から連行した。調査が行われる前から、皆が機関士を犯罪者扱いし、袋だたきにした。
 しかもこの大事故の翌日、米議会はアムトラックの予算を大幅削減した。〝すべて機関士の責任だ。設備の不備など関係ない〟ということだ。

ダイヤ改定で待機時間奪う

 真の事故原因は資本の利益追求・労組破壊攻撃と安全破壊だ。
 北東回廊では、事故のちょうど1カ月半前、ダイヤ改定が行われ、これまでの90分の待機時間がなくされた。当局は、これによって300万㌦節約できると言っている。それとは別にあった休憩時間もカットされた。機関士の勤務時間が13時間ないし16時間というケースも多くなった。ボスティアン氏は、188号に乗務する前に30分の休憩しかとっていない。
 このダイヤ改定は鉄道の2大労組、UTU(統一運輸労組、SMART〔シートメタル・航空・鉄道労組〕に統合)、BLET(機関士労組)の反対を押し切って行われた。徹底的な利潤追求であり、また団体交渉を無視することで労働組合を弱体化させるものだ。
 また、80年代以来、乗務員の数を徹底して削減してきた。かつては運転室に2人いたが、現在は1人である。また、運輸専門職である車掌も削減された。これも人件費削減であるとともに、団結破壊・労組破壊である。
 また、安全設備の不備も重大問題だ。
 しかし、SMART本部もBLET本部も、事故直後は、「遺族への弔意」を言うのみで、真の事故原因についてはまったく触れなかった。
 これに対して、鉄道諸労組の横断的なランク&ファイル(現場労働者)組織であるRWU(鉄道労働者統一委員会)は、「PTC(列車制御システム)があったら、スピード超過が検知されブレーキがかかり、今回の事故は起きなかった。PTC設置は、(08年)議会で義務化されたが、アムトラックは議会が承認した予算が少なくて設置できなかった」「事故の6週間前の3月23日、アムトラックはBLETとUTUの反対を押し切って、一方的に今回の事故の北東回廊路線の新ダイヤと乗務員の新勤務表を導入した」と弾劾した。
 また、BLET第482支部代表も「新ダイヤで待機時間と休憩時間がカットされたことがこの事故の直接の原因だと百パーセント確信している」と述べている。
 当該のボスティアン機関士は、警察署での事情聴取を黙秘して一切拒否し、弁護士を呼んで一緒に警察署を退出した。

現場労働者の反撃が始まる

(写真 RWUの呼びかけに応え、「1人乗務反対」のプラカード【中央】を掲げ家族ぐるみで闘いを訴える人びと)

 彼の仲間たちは、「彼は常日頃から並外れて安全確認に熱心で、10項目のチェックリストの点検を自分でやらない限り、機関車を動かさない」と発信し続けた。この仲間を絶対的に信頼する固い団結とランク&ファイルの強力な闘いによって、UTU本部もBLET本部も機関士への責任転嫁に反対すると表明せざるをえなくなった。
 この間、続発する事故の中で、新たな反撃が始まったのだ。それを先頭に立って切り開いてきたのが、RWUの組織的な闘いだ。昨年9月、RWUは、地域、所属会社、職域を越えて全米から活動家が結集し、バーリントン・ノーザン・サンタフェ鉄道で闘いぬいた。そして、同社とSMART本部の間で鉄道ワンマン運転化を決めた労働協約案を、組合員投票でひっくり返したのだ。
 同社の貨物列車は長さが3㌔半。あまりにも長大で、途中にいくつも機関車を入れなければ牽引(けんいん)しきれない。また長すぎて走行が不安定になる。こんなものを1人で動かすなど危険きわまりない。しかし80年代以来、5人乗務が次々に減らされ、「1人になるのも不可避な時代の流れ」だと言われてきた。こんなことを組合員に強制するのが体制内労組なのだ。
 だが、RWUの闘いは、団結すれば不可能を可能にできるという確信を全米の鉄道労働者に与えた。社会全体を崩壊させる新自由主義への怒りの決起が始まっている。
 この数年、カリフォルニア州のチャットワース(08年9月12日)、ニューヨーク州スパイテン・ダイビル(13年12月1日)などで鉄道の大事故が続発している。鉄道だけでなく、橋梁(きょうりょう)崩壊も深刻で、07年のミネアポリスでのハイウエーの橋崩落(13人死亡)を始め2000年代に15の橋が崩れている。続発する大事故を尻目に、軍事費と金融資本救済に一切を注ぎ込む国家を倒さなければ労働者人民は生きられない。

動労千葉との連帯貫き決起

 動労千葉は03年の訪米時、ILWUローカル10(国際港湾倉庫労組第10支部)の職場であるオークランド港から伸びる鉄道で働くRWUメンバーと出会った。それ以来、反合・運転保安闘争を始めとする闘いで交流してきた。また、RWUは韓国・民主労総傘下の鉄道労組の23日間ストライキに激励され、14年の1人乗務反対の闘いに決起している。
 日米韓の労働者が団結すれば戦争も止められる。動労総連合を全国に組織し、階級的労働運動・国際連帯の力で世界戦争を阻止し、世界革命に転化しよう。

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