米ILWU 協約闘争で港湾大渋滞 大恐慌下の労組破壊と対決

週刊『前進』06頁(2673号03面03)(2015/03/16)


米ILWU 協約闘争で港湾大渋滞
 大恐慌下の労組破壊と対決

(写真 ILWU組合員と地域の労組、住民が「ILWU支援集会」【1月22日 サンぺドロ市】)

オバマ介入で暫定協定締結

 アメリカ西海岸のILWU(国際港湾倉庫労組)は、港湾経営者団体PMA(太平洋海事協会)との労働協約が昨年7月1日に期限切れになるため、5月から協約改定の団体交渉を開始した。だが、半年以上たっても協約締結の見通しすら立たず、今年2月、オバマ政権がタフト・ハートレー法(労組弾圧・スト禁止法)発動の脅しをテコにして介入し、暫定協定の締結にいたった。9・11直後の02年の前々回協約改定闘争の時も、タフト・ハートレー法が使われたが、それと比べても今回は長期にわたる協約闘争となった。
 三十数年にわたる新自由主義の労組破壊、外注化、生産拠点の海外移転のため、アメリカの貿易量は大幅に増えた。しかも貿易の比重は大西洋から太平洋にシフトし、全米のコンテナ貿易量の約65%が太平洋岸の29の港湾で扱われている。そして海運合理化=労組破壊のため、ここ数年で90年代の巨大船の2〜3倍の容量のメガシップと呼ばれる超巨大コンテナ船が増加し、1隻の船が着岸すると1万4千TEUもの荷役作業が必要になっていた。こうして港湾渋滞が起こりやすい条件のもとに、さらに長期闘争が加わり、かつてなく渋滞の度が増した。

安全基準を守らせる闘い

 ILWU本部は、反動化していて、組合員の協約闘争を組織するどころか、抑圧してまわっていた。『ILWUの10の指導原則』(53年大会決議)第1項の「組合員の力と理解と団結こそが組合の路線と前進を決める。......事実が公正なかたちで一般組合員に提示されれば、彼らは何をすべきか、また、どのようにそれを行うべきかを最も適切に判断する」を踏みにじり、組合員に一切協約交渉の過程を知らせず、今も暫定合意の内容を秘密にしている。
 だが、ランク&ファイル(職場の労働者)の組合員は、一挙に組合破壊にうってでた経営側の攻撃に職場で反撃していった。その最も重要な闘いが、安全基準を守らせる闘いだ。港湾荷役は重量物を扱う危険労働なので、死亡事故が何件も起きている。そのため、これまで日常的に安全基準をPMAに守らせる力関係をつくってきた。しかし、今回PMAは協約改定を機に安全基準をも踏み越えようとし、労働強化=安全破壊の圧力をかけてきた。シャーシ(コンテナを港湾内で移動するための車輪付の運搬台)のメンテナンスをILWU組合員から取り上げたのもその一環だ。これは港湾内輸送の安全性を損なう。これを含む従来の一線を越えたさまざまな安全破壊に対して絶対に屈しない姿勢を職場で貫いたのだ。
 それに対してPMAは一部ロックアウト(労働者にとっては賃金減)で攻撃をかけてきた。またPMAは1月からは「ILWUによるスローダウン闘争への対抗措置だ」として、夜間ロックアウトなども発動した。
 そのため、9月から渋滞が激しくなっていたアメリカ西海岸の港湾は、11月頃には膨大な滞貨が積み上がり、接岸できない多くの貨物船が海上で延々と荷役の順番を待たざるをえなくなった。海外での外注委託生産で成り立つウォルマートなども、部品生産を海外に外注化している製造業も大きな打撃を受けた。

戦略的職場を握る労組の力

 西海岸の港湾は、サプライチェーン(原料調達から製造・流通・販売などの供給網)の戦略的要衝である。ここの渋滞はあらゆる部門の死活問題を引き起こす。その甚大なリスクをあえておかしても、PMAとアメリカ支配階級は、ILWUを破壊するために絶望的な攻撃に出たのである。
 支配階級は、革命の切迫をひしひしと感じているからだ。ILWUのようなランク&ファイルが主体となった労働組合の存在そのものが、自らの命取りになりかねないから、執拗(しつよう)に攻撃してきたのだ。現在「恐慌の中の恐慌」に突入している。また、かつてない長期戦争であるアフガニスタン・イラク侵略戦争の戦略的敗北が、全社会的な激動、一種の「戦後革命」の危機をもたらしているのである。
 その中で階級闘争を絶滅するためのILWUへの攻撃の過程自体が逆に、アメリカと全世界の労働者に労働組合の力を知らせ、労働者の階級意識を目覚めさせている。
 たとえば日本のマクドナルドのポテトのメニュー変更やホンダの北米工場への部品輸送問題の発生など、いたる所で「ILWUとPMAの労使紛争のため」と言われた。
 生産と交通の担い手である労働者こそ、社会の主人公になれるのだと告げ知らせたのだ。
(村上和幸)

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TEU 長さ20フィート(約6㍍)コンテナを1単位として、港湾が取り扱う貨物量を表す単位。また、コンテナ船の積載容量を表す単位。

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