社会保障解体許すな 〈医療〉 「混合診療」解禁と皆保険制度の解体へと踏み出す
社会保障解体許すな 〈医療〉
「混合診療」解禁と皆保険制度の解体へと踏み出す
2月12日、安倍首相は施政方針演説で「農業・医療・雇用」の「改革断行」を宣言し、医療制度と医療保険制度の改革を打ち出した。混合診療の解禁と医療提供体制の大再編であり、皆保険制度解体への本格的踏み出しである。
■医療が利潤追求の場に
安倍は、①「患者本位の新たな療養制度を創設」し「世界最先端の医療を日本で受けられるようにする。最先端医療と保険診療との併用を可能とする」、②「異なる機能を持つ複数の医療法人の連携を促す新たな仕組みを創設」するとした。
①の「新たな療養制度」について、1月9日に厚生労働省が社会保障審議会医療保険部会に提示した「医療保険制度改革骨子案」では、「国内未承認薬等を迅速に保険外併用療養として使用したいという思いに応えるため、患者からの申出を起点とする新たな保険外併用療養の仕組み」と説明している。現在、保険診療と保険外の自由診療を同時に行う「混合診療」は原則禁止されているが、例外として先進医療・医薬品・医療機械の治験、差額ベッドなどが認められてきた。これを「患者申出」の名で全面的に拡大し、臨床研究・臨床試験段階の治療・医薬品や医療機器の開発を促進し、医療分野を産業化していくものだ。
最先端の新薬が保険適用外で次々と供給され、自由診療中心に移っていけば、製薬会社が自由に価格を決められる。新薬を使いたければ高額の自己負担となり、医療を受けられない患者が出てくる。「いつでも、どこでも、だれでも、保険証1枚で必要な医療を受けられる」公的医療制度が根幹から崩される。実施にあたっては、全国15カ所の臨床研究中核病院が国に申請し、これまで6~7カ月かけていた審査が2~6週間へと短縮される。安全性・有効性など度外視し、とにかく医薬品と医療機器でもうけるということだ。
安倍と財界は「医療・福祉でもうけてはならない」という大原則がまがりなりにもあった「岩盤規制」を撤廃し、「成長戦略」の要として医療を利潤追求のシステムに様変わりさせることにかけてきている。「日本の『稼ぐ力』を取り戻す」を掲げた昨年6月の「日本再興戦略」では、「医療・介護などの健康関連分野をどう成長市場に変えていくか」とあけすけに述べている。
②の「異なる機能を持つ複数の医療法人の連携」とは、岡山大学病院で真っ先に検討が進められている「非営利ホールディングカンパニー」(持ち株会社)化のことだ。臨床研究中核病院を中心に大規模病院を統廃合し、そのもとに中小医療機関から介護事業所までを一つの法人傘下に組み入れる大再編だ。「非営利」とは名ばかりで、結局は営利企業による病院経営の解禁に至る。
■国保を都道府県に移管
公的病院の民営化、大合理化と病院間の競争が極限的に激化し、医療現場にはすさまじい労働強化と賃下げ、非正規職化が襲いかかる。その一方で、医療保険制度改革骨子案では、18年度から国民健保の運営主体をこれまでの市町村から都道府県に移管し、都道府県が財政運営の責任を担うと明示された。都道府県は「医療費適正化計画」の策定を義務づけられ、住民への医療保障の責任主体から、医療費を徹底抑制する立場に大転換する。医療を奪い「自助努力」を強いる攻撃だ。
同時に都道府県は「地域医療ビジョン」を策定し、病床削減、病院の再編・統合など医療提供体制を大再編する役割も担わされる。皆保険制度と医療保障を全面解体する仕組みが導入されようとしているのだ。地方自治体を統合・再編し、社会を丸ごと民営化して資本の利潤追求の場に変える大攻撃だ。絶対に許すことはできない。
今通常国会に、医療保険制度改革関連法案が提出される。「命よりも金もうけ」の新自由主義との全面的な階級決戦だ。「生きる権利」をかけて安倍打倒に立ち上がろう。
(黒部敏宏)