「反テロ」「表現の自由」を叫び中東侵略戦争あおる帝国主義 仏「国民統一行動」の本質は何か
週刊『前進』06頁(2665号03面01)(2015/01/19)
「反テロ」「表現の自由」を叫び中東侵略戦争あおる帝国主義
仏「国民統一行動」の本質は何か
1月7日、仏週刊紙「シャルリー・エブド」によるイスラムへのヘイト攻撃(差別扇動)と米英仏などの「イスラム国」への空爆に怒ったムスリム(イスラム教徒)がシャルリー・エブド社を武装襲撃し、編集長らを殺害した。これに対してオランド仏大統領は「表現の自由に挑戦するテロリズムを許さない」として3人のムスリムを銃撃戦で殺害した。
11日には、仏政府が呼びかけた「言論の自由をテロから守るための国民統一行動」にパリで150万人、仏全土で370万人が参加した。デモの先頭にオランド、英キャメロン、独メルケルら帝国主義の頭目を始めイスラエル・ネタニヤフ、パレスチナ・アッバース、ウクライナ・ポロシェンコら世界の首脳40人が並び、スクラムを組んだ。おぞましい光景だった。
パリは5千人の武装警官と1万人の兵士による「戒厳体制」下に置かれた。仏帝は排外主義と強権弾圧をもってイラク・シリア侵略戦争に国家と人民を総動員しようとしている。オランドは14日、仏軍主力空母「シャルル・ドゴール」の艦上で新年あいさつを行い、「イスラム国」に対する空爆に同空母を参加させる意向を表明した。
大恐慌下、中東石油などの資源、市場や勢力圏再分割の戦争に乗り出す以外に仏帝の延命の道はない。これは米英日独ロ中との激烈な争闘戦である。戦争は帝国主義諸国の内部にも波及した。全世界が戦争にたたき込まれようとしている。
「反イスラム」のヘイト攻撃
シャルリー・エブドとは何か。同紙は極右の国民戦線を批判する一方で、ユダヤ教やキリスト教(カトリック)をやゆしてきた。特にイスラムの聖典や預言者ムハンマドへの侮辱や攻撃を執拗(しつよう)に繰り返してきた。イスラムでは禁じられているムハンマドの絵を「風刺画」と称して載せてきた。それ自体がイスラムへの冒瀆(ぼうとく)だ。しかも同紙は、事件後初の14日号の表紙に「私はシャルリー」のメッセージを手にしたムハンマドの絵を載せ、300万部を世界にばらまくと挑発的に宣言した(通常は数万部)。当局の許容姿勢を受けて、今や仏全土で反イスラムの排外主義的襲撃が恐るべき勢いで広がっている。
このようなシャルリー・エブドの姿勢は「表現の自由」の名のもとに許容されるものではない。ヘイトスピーチとして非難されるべきものだ。ところが朝日新聞や読売新聞は「言論の自由へのテロは許されない」などとしてシャルリー・エブドや仏当局、1・11デモへの支持を表明している。
もともとオランドはサルコジ前政権時代からシャルリー・エブドを「表現の自由」「寛容の精神」の名で擁護してきた。サルコジ政権は、公衆の前で頭髪を覆うスカーフや顔を隠すベール、ブルカを着用してはいけないとする法律を制定した。それ以来、スカーフの着用を理由に解雇される女性労働者が続出している。
デモの根底にある階級対立
フランスのイスラム系住民は人口の8%に上る。長年、中東やアフリカからの移民労働者、その二世、三世がフランス人労働者とともに働き、労働組合、諸政党、諸団体のメンバーになってきた。しかし差別的で劣悪な生活環境に置かれ、激しく搾取・収奪され、抑圧され、自由も平等もなく、愛されてもいないと感じてきた人びとも多い。フランスは近年、彼らの出身地、アフリカ諸国に侵略派兵し、リビアや「イスラム国」を空爆してきた。最近では戦乱のシリアやアフリカなどからの避難民が激増している。そうしたことへの積年の怒りがシャルリー・エブドへの武装襲撃として爆発したのだ。
新聞社襲撃には反対だが、「私はシャルリーではない」「イスラムなど宗教をからかい侮辱することには反対だ」という議論が中高生の間で真剣に交わされている。また多くのムスリムが「カトリック教徒、ユダヤ人たちとともに平和的に暮らしたい」というプラカードを掲げて1・11デモに参加した。
デモの根底には、世界大恐慌のもたらす大失業、生活破壊への怒り、迫り来る世界戦争への危機感が貫かれている。それが、これまでデモに参加したことのなかった広範な層を行動に立ち上がらせた。大恐慌のさらなる進展と戦争情勢の激化の中で、労働者階級の革命的指導性が示されれば、大規模な革命的分岐が起こり、オランド政権、新自由主義的帝国主義への怒りが大爆発することは必至である。オランドはこの予兆におびえているからこそ「表現の自由」の名で排外主義をあおり、階級意識をねじ曲げ、「反テロ戦争」を叫んでいるのである。
ストが全欧州を覆った14年
フランスでは昨年、年間を通して国鉄労働者の民営化反対スト、エールフランス労働者の外注化・分社化反対ストなどが闘われた。年末には医師たちが医療・保険制度改悪反対ストに立ち上がり、社会を揺るがした。ドイツでも鉄道民営化反対スト、ルフトハンザ労働者の賃金・年金引き下げ反対ストが何度も繰り返された。イギリスの公共部門労働者、教育労働者が緊縮政策反対・賃上げ要求を掲げて百万人規模のゼネストを行った。イタリアでは「解雇自由」反対の大デモとゼネスト、ベルギーでも緊縮政策反対のゼネストが闘われた。ギリシャの革命的激動も続いている。
労働者は2014年を通して、体制内労働運動指導部と激突しつつ全欧州をストで覆ったのだ。
昨年から今年にかけて欧州はデフレと大不況にたたき込まれ、ユーロ崩壊とEU解体の危機に揺さぶられている。仏経済をマイナス成長と高失業率から脱出させられないオランドの支持率は、歴代大統領の中でも最低の13%しかない。しかも基幹産業の労働者のストに直面し追い詰められていた。そこにムスリムの新聞社襲撃事件が起こった。オランドは顔面蒼白(がんめんそうはく)で「テロから祖国を防衛するために全国民は決起せよ」「フランスの価値観、自由・平等・友愛を守れ」と叫び、「対テロ戦争突入」を宣言した。
国境、民族、宗教をこえた階級的労働運動の国際連帯で排外主義を打ち砕き、戦争をプロレタリア革命に転化しよう。反帝国主義・反スターリン主義世界革命の勝利へ闘おう。