「原発事故は甲状腺がんの原因ではない」と強弁 健康被害否定する政府・県
「原発事故は甲状腺がんの原因ではない」と強弁
健康被害否定する政府・県
福島の子どもの甲状腺がんが疑いを合わせて実に104人に上ったことが発表されて半年。安倍政権と福島県当局は、この重大な健康被害を「原発事故とは関係ない」と言い張って、子どもたちにさらなる被曝を強制している。本稿ではその極悪の役回りを担う環境省専門家会議と、福島県の県民健康調査検討委員会および同甲状腺検査評価部会の動きを見ていく。
環境省が検査の縮小を狙う
11月26日に開かれた環境省専門家会議の第13回会合に「中間とりまとめ(案)※未定稿」が提出された。小児甲状腺がんの多発について、「原発事故が原因ではない」と断言したものだ。
「発見された甲状腺がんについて......原発事故由来のものであることを積極的に示唆する根拠は現時点では認められない」、その理由として「今回の......甲状腺の被ばく線量は、チェルノブイリ事故後の線量よりも低い」「 チェルノブイリ事故で甲状腺がんの増加が報告されたのは事故から4〜5年後のことであり、『先行検査』で甲状腺がんが認められた時期(原発事故後約3年)とは異なる」「チェルノブイリ事故で甲状腺がんの増加が報告されたのは主に事故時に乳幼児であった子どもであり、『先行検査』で甲状腺がんが認められた年齢層(主として15歳以上)とは異なる」などを挙げた。
「終わりに」でも「今回の事故による放射線被ばくによる生物学的影響は現在のところ認められておらず、今後も放射線被ばくによって何らかの疾病のリスクが高まることも可能性としては小さい」と強調した。
さらに〝過剰診断・過剰治療〟という論理で甲状腺検査の縮小を狙っていることもあけすけに語っている。「県民健康調査『甲状腺検査』の今後の方向性について」の項目で、「被ばくが少ないと考えられる住民を含む広範囲の住民全体に一様な対応を行うことが最善かどうかについては議論の余地がある」として、「一様な対応」を見直そうとしているのだ。
また3・11直後から御用学者・山下俊一らが主張してきた〝避難の方が健康悪化をもたらす〟という主張も続く。「今回の原発事故については避難等に伴う心身の影響への対応がそれ(生物学的影響)以上に重要であるとする指摘が多かった。特に、長期の避難生活による生活習慣の変化、生活設計が十分にできないことの不安とストレス等が、高血圧、肥満、糖尿病といった健康指標の悪化をもたらす可能性がある」というものだ。
被曝の影響を県も完全否定
県民健康調査検討委員会甲状腺検査評価部会は11月11日に第4回会合を開いた。同会合でも〝甲状腺がんの原因は原発事故ではない〟という主張が次々となされた。
広島赤十字・原爆病院の小児科医師である西美和は、「現時点での福島第一原発事故の甲状腺への影響について」という報告で、「確認された甲状腺がんあるいは悪性疑いは、放射線被ばくとは考えにくい理由」として6点を挙げた。「福島での被ばく線量は、チェルノブイリ原発事故と比べてはるかに少ない」「チェルノブイリ原発事故後の甲状腺がんの発生は、事故当時5歳以下の世代に多いが、県民健康調査では......悪性または悪性疑い104人中10歳児以下は7人、5歳児以下は0人」「県民調査での甲状腺がん、疑いの104人のうち最大実効線量は2・2㍉シーベルトで非常に低い」などである。
さらに「福島県民健康調査の甲状腺超音波検査は、『過剰診断』では? 本当に必要か? いつまで続ける? 対象者をある程度限定する?などの疑問がでている」と、検査の縮小を主張した。
国立がん研究センターの津金昌一郎は「福島県における甲状腺がん有病者数の推計」と題して報告。津金はまず「2001―10年のがん罹患(りかん)率(全国推計値)に基づくと、福島県において18歳までに臨床診断される甲状腺がんは2・1人、検査受診者集団からは約1・7人と推計されるが、もし104人が甲状腺がんと診断された場合は、約61倍となる」と、福島県の小児甲状腺がんが実に61倍に激増していることを認めた。
では、この現実を原発事故のせいだと認めるのか? まったく逆だ。
「2011年の震災以降に加わった何らかの要因が、2014年までに診断された甲状腺がんの発生率を高めていると解釈することは困難」と、甲状腺がんは原発事故とは無関係とし、「無症状で健康な人に対する精度の高い検査は、少なくない不利益(過剰診断とそれに基づく治療や合併症・その後のQOL〔クオリティ・オブ・ライフ〕低下など心身への負担......など)をもたらす可能性がある」、つまり、過剰診断だから検査を縮小すべきと主張している。
福島の子どもを守りぬこう
政府と福島県当局は原発事故と被曝による健康被害を否定しようと必死だ。子どもの健康被害の現実を認めた瞬間、原発再稼働はもちろん日本の核政策・原子力政策のすべてが崩壊するからだ。
「福島の子どもたちを放射能から守ろう!」――この闘いが今あらためて政府・県当局との激突点となっている。
しかも政府も県当局も、被曝による健康被害を否定する報告を簡単にまとめられない事態に追い込まれている。8月中に中間まとめを出すと言われた県民健康調査検討委員会は、8月以来4カ月間、会合を開催していない。今回の評価部会も6月以来実に5カ月ぶりの開催だった。そんな報告を発表したら、福島と全国の怒りにさらに火がつき、川内原発を始めとする各地の原発の再稼働策動が吹き飛ばされると恐れているからだ。
いよいよ来年は3・11から4年になる。福島の怒りとますます深くつながって原発再稼働を阻み、3・11反原発行動福島'15に駆けつけよう。
(里中亜樹)
環境省専門家会議「中間とりまとめ(案)」
・発見された甲状腺がんについて......原発事故由来のものであることを積極的に示唆する根拠は現時点では認められない
・今回の事故による放射線被ばくによる生物学的影響は現在のところ認められておらず、今後も放射線被ばくによって何らかの疾病のリスクが高まることも可能性としては小さい
・今回の原発事故については避難等に伴う 心身の影響への対応がそれ(生物学的影響)以上に重要であるとする指摘が多かった。特に、長期の避難生活による生活習慣の変化、生活設計が十分にできないことの不安とストレス等が、高血圧、肥満、糖尿病といった健康指標の悪化をもたらす可能性がある
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▼環境省専門家会議 「東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う住民の健康管理のあり方に関する専門家会議」。「線量把握・評価、健康管理、医療に関する施策のあり方等を専門的な観点から検討するため」の会議とうたう。昨年11月に初会合を行い、今年11月26日までに13回の会合を開いた。
▼甲状腺検査評価部会 福島県「県民健康調査検討委員会」のもとに設置された部会。「『県民健康調査』甲状腺検査について、病理、臨床、疫学等の観点から専門的知見を背景とした議論を深め、適切な評価を行っていくため」の部会とうたっている。昨年11月に初会合を行い、今年11月11日までに4回の会合を開いた。