JR体制 破産と崩壊⑨ 地方を衰退させる整備新幹線 「前倒し開業」を叫ぶ政府与党 財政赤字は労働者人民に転嫁 外注化を促進する新幹線開業
週刊『前進』06頁(2661号03面03)(2014/12/15)
JR体制 破産と崩壊⑨
地方を衰退させる整備新幹線
「前倒し開業」を叫ぶ政府与党 財政赤字は労働者人民に転嫁
外注化を促進する新幹線開業
安倍が衆院解散に追い込まれる直前の11月19日、国土交通省は「整備新幹線の開業を前倒しすればGDP(国内総生産)は約4千億円増える」という試算をぶち上げた。整備新幹線建設による「景気回復」の幻想をあおり、大破産したアベノミクスを延命させようとする策動だ。
来年3月のダイヤ改正時には北陸新幹線の長野―金沢間が開業する。北海道新幹線の新青森―新函館北斗間は16年春に開業予定だ。整備新幹線の開業前倒しとは、それ以外の北海道新幹線の新函館北斗―札幌間、北陸新幹線の金沢―敦賀間、九州新幹線長崎ルートの武雄温泉―長崎間を早期に建設し、開業を予定より早めるということだ。
自民・公明の与党は8月、「整備新幹線に関する政府・与党のワーキンググループ」を立ち上げ、整備新幹線の開業前倒しを声高に叫んだ。これを受けて国土交通省は、来年度予算の概算要求で整備新幹線の整備費として720億円の予算配分を求めた。
アベノミクスの延命を狙う
公共事業の拡大はアベノミクスの柱のひとつだが、それは整備新幹線建設という形で際限なく進められようとしている。整備新幹線の施設は鉄道運輸機構(旧鉄道建設公団)が建設・保有し、その建設費用は国と沿線自治体の財政支出、営業運転開始後にJRが鉄道運輸機構に支払う施設使用料によってまかなわれる。整備新幹線を建設すれば、政府と地方自治体の財政はさらに悪化する。世界最悪の財政破綻(はたん)国に陥りながら、安倍は大資本を建設需要で大もうけさせようとしているのだ。
JR資本も整備新幹線建設を積極推進している。その費用をJRに負わせることには抵抗するが、建設自体には大賛成なのだ。だが、こんな無責任な態度はない。
国鉄分割・民営化は「国鉄赤字の解消」を口実に強行された。当時、「膨大な国鉄赤字は労働者が働かないせいだ」というデマキャンペーンが大々的に垂れ流された。国鉄労働者は徹底的にバッシングされ、労働運動は後退を強いられた。20万人の労働者が職場を追われ、200人近くが自ら命を絶った。
だが、国鉄赤字の本当の原因は、東海道から山陽、東北、上越へと拡大された新幹線建設にあった。国鉄の単年度収支が赤字に陥ったのは、東海道新幹線が開業した1964年だ。それ以降、新幹線建設に充てられた膨大な借金は、利子が利子を生み、雪だるま式に膨れ上がった。
その国鉄赤字は、政府一般会計の膨大な赤字に紛れ込まされて、今も増加の一途をたどっている。「赤字解消」という点でも国鉄分割・民営化は完全に失敗した。
にもかかわらず安倍とJR資本は、財政赤字を拡大する整備新幹線の建設にのめり込もうとしているのだ。
地方はさびれシャッター街
整備新幹線建設は地方の衰退に拍車をかける。新幹線が開業すれば、それに並行する在来線はJRから切り離される。来年3月の北陸新幹線開業とともに、北陸本線、信越本線は寸断されて石川、富山、新潟、長野各県の四つの第三セクター会社に移管される。
第三セクターになれば運賃は大幅に上がる。消費増税と円安による物価上昇に加え、交通費もかさんで地方の人びとの生活は圧迫される。
第三セクターは自治体の補助がなければ成り立たない。それによる自治体財政の悪化は、増税や福祉の切り捨てになって地域住民にのしかかる。
他方、東京への移動時間が短縮されれば、地方の富裕層はぜいたく品の買い物を東京まで出かけてするようになる。地方の商店街はさびれ、シャッター街に変わる。
JR北海道は今年5月、江差線の木古内―江差間を廃止した。16年春の北海道新幹線の開業に伴い江差線の木古内―五稜郭間は第三セクター化されるが、これにより他のJR線との接続が断たれる木古内―江差間を、新幹線の開業を待たずに切り捨てたのだ。
それだけでなくJR北海道は、新幹線と札幌周辺のごく一部の黒字路線を除き、あとはすべて廃止することを狙っている。事実、北海道知事や北海道商工会議所連合会会頭らが参加する「JR北海道再生推進会議」では、「路線自体が成り立たないところが出てくる」「バスで良いならバスにして鉄道を廃止する」という議論があからさまに行われている。
新幹線開通で地方が発展することなどありえない。新幹線は「896自治体の崩壊」という事態を促進する。
JRの合理化・外注化は新幹線開業によってさらに激しくなっている。
安全無視した車掌1人乗務
JR東日本は3月の北陸新幹線開業に伴い、1列車に2人の車掌が乗務していたこれまでの体制を改め、1人乗務にすると打ち出した。北陸新幹線はJR東日本とJR西日本の管内にまたがって運行される。会社の境界を越えての新幹線の運行は、JR発足以来、初めてだ。それだけでも乗務員には複雑な業務が求められるのに、JRは乗客対応も安全確保も車掌1人でやれというのだ。高速走行する新幹線に車掌を1人しか乗せないのは、とんでもない安全無視だ。これは、やがては車掌も外注化することが狙いだ。
また、並行在来線の第三セクター化により、数百人規模のJR労働者が第三セクターに出向させられる。休日数や勤務時間などの労働条件も大幅に切り下げられる。
さらに安倍政権は、整備新幹線の建設費をひねり出すため、JR九州の株式を上場することさえ企てている。JR九州は経営安定基金でかろうじて黒字を確保している状態だ。そんな会社が株主に配当金を払おうとすれば、すさまじい合理化・外注化で労働者から搾り取るほかにない。
破綻したアベノミクスをとことん押し貫こうとするJR資本に反撃しよう。動労総連合を全国につくり、外注化を打ち砕こう。
(長沢典久)